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名盤を考える
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名盤(読み)メイバン
〘 名詞 〙 有名なレコード盤。すぐれた内容のレコード。
「あなたにとっての名盤は?」と訊ねられたら、何と答える?
これはとても難しい質問だ。
好きな曲が増えすぎて、好きなCDが多すぎて、とても一つに決められない。
まぁ、そんな質問しあう友達なんて居なかったんですけどね。
だからこそ、思いついた時にインターネットにぽとりと落としたっていいじゃない。
自分の中の"名盤"の定義についてはこうだ。
名盤という言葉を知った時に、一番感動していたCD。
親が聴いていたさだまさしやユーミンの曲の良さが分からなかった。
そんな時に出会ったASIAN KUNG-FU GENERATIONで、ロックを知った。
最初に手にしたアジカンは『ブルートレイン』。
ジャケットイラストがシュールで、でもどこか可愛らしくて、何よりCDに漫画っぽいイラストが使われている事が自分にとって初めての経験だった。
中学生の頃は、ず~~っとアジカン聴いてたな。あとRADWIMPS。
"名盤"という言葉を知ったのは、中学3年生か高校生になってからだと思う。
その頃から、名盤というものを意識し始めた。
「この先聴くものが、きっとそうなるんだろう」
そう思って10数年。
そろそろ決めてもいいかな、と思った。
改めて考えると、結局、その頃に聴いていた音楽の影響が強すぎる。
①ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ファンクラブ』
検索したらまぁまぁ上に「暗い」って出て来たけど無視しよう。
いや、実際暗いか。
この暗さは思春期に日陰に居た者なら分かるだろう。
周囲との違いとか、違う自分になりたいとか、どうして自分はダメなんだとか、そういったモヤモヤを抱えたまま午後の教室で呆ける14時。
それらを日本語で表現してくれるのが、『ファンクラブ』の楽曲たちだったんです。
YOMUSIC(本ブログ)で何度か登場させている表現だが、「文学とは、言葉にならないモヤモヤを、言葉で表現する芸術活動」である。
※持論であり、大勢に支持される定義ではありません
そして筆者は、文学ロックが好きだ。
知らない言葉を知りたい。
知らない漢字を知りたい。
知らない表現を知りたい。
そう思うようになったのは、間違いなくアジカンの影響である。
抱えたモヤモヤを、言葉で表現出来ると教えてくれたのは、間違いなくアジカンの影響である。
UNISON SQARE GARDEN(=田淵智也)、SAKANAMON(=藤森元生)、サカナクション(=山口一郎)、RADWIMPS(=野田洋次郎)の書く歌詞も、この系統にあると個人的には思う。
もちろん、音楽性やメッセージ性は各バンドの不可欠な魅力である。
その陰にひっそりと、歌詞に使われる「言葉」が刺さった筆者のような人間もいるのだ。
『ファンクラブ』は検索結果の通り、内側に向いた"自分"と世界との距離感の測り方をテーマにしている曲が多いから、端的に言えばやっぱり暗い。
『自閉探索』なんてタイトルは分かりやすい。
けれど内側に向いたエネルギーを、外側に向けたいと模索している途中のアルバムでもある。
この2年後、『ワールド ワールド ワールド』というこれも名盤と言うに迷う傑作がリリースがされるが、タイトルの通り、思い切り外の世界に向かっていくアルバムだ。
けれど筆者としては、あの頃から今までずっと日陰を歩き続けてるもんだから、アジカンには同じ日陰にずっといて欲しかった(笑)
『ワールド ワールド ワールド』以降、アジカンの音楽性は広がりを見せどんどんスケールアップし、4人だけでは演奏できない曲も増えていく。
もちろん、スケールアップしないと出来ない表現があるのは分かっているんだけれど、(『マジックディスク』も間違いなく、名アルバム。)それでも自分を救ってくれたのは、内側に向いたエネルギーを言葉と音楽で表現した『ファンクラブ』なのだ。
それは以降のアジカンとは真逆で、『ファンクラブ』があったからこそ羽ばたいていけたのだろう、とも思う。
他のアーティストにも言える事なのだが、有名になる前の曲の方が好き、みたいな現象。
「卵が先か鶏が先か」のように、"ヒットメーカーになる"事と"内省的な音楽"は反比例する。
どちらが欠けても成り立たたない。
悲しいけれど、一瞬の輝きのようなその音楽たちを愛している。
『ファンクラブ』で一番好きなのは『暗号のワルツ』『バタフライ』ですね。
『暗号のワルツ』の始まりなんて<慌てなくたって何時か僕は消えてしまうけど そうやって何度も逃げ出すから何もないんだよ>ですよ。
沁みたなぁ~~~~。中学生。
ぐさぐさ刺さる、自己否定に次ぐ自己否定。
タイトルの通り、リズムが3拍でワルツなんですよね。
楽しげなこのテンポに乗っかる、切なげなギターと諦念を笑っているような歌声。
刺さったなぁ~~~~、中学生。
最後も<君に伝うかな>と繰り返してからの、<君に伝うわけはないよな>ってワルツのビートで諦めていくんですよ。
痺れたなぁ~~~~~、中学生。そして今も。
メジャーな楽曲はポジティブなメッセージばかりだったので、変に夢を見せないというか、「綺麗事で終わらせない」というのに惹かれていたな。
本当の事を言っている気がして、信頼していたのだ。アジカンを。
『バタフライ』の<負から正の走光性 荒んだ僕は蝶になれるかな>って歌詞もたまげましたよ。
「このままじゃダメだ」って分かってるのに、周囲への嫉妬でどんどん卑屈になっていく。
「どうしたら明るくなれる?」ともがく様を、<負から正の走光性>って・・・語彙ヤバくないですか。
※走光性(そうこうせい、Phototaxis)は、走性の一つで、昆虫[1]などの生物が光刺激に反応して移動することである。
当時、調べて「いや虫かい!・・・ハハッ、お似合いだぜ・・・」となんだか安心したのを覚えています。
これで鳥とかなんか綺麗な生き物だったら、綺麗事に思えて響かなかった。
②レミオロメン 『ether』
読みはエーテル。
由来は見つけられなかった。
単語としてのエーテルには複数意味がある。
1.光や電磁波を伝える仲だちとして宇宙に満ちていると考えられた物質。
2.二個の炭化水素基が酸素原子により結合されたものの総称。また、特にエチル エーテルを指す。
この場合、1に近いと思われる。
科学によって実在しないと証明された"架空の"物質。
しかし第五元素と呼ばれたエーテルは、ギリシア哲学から錬金術、19世紀の物理学者まで長らく"存在"し続けて来た。
その曖昧さや、"本当は無いけれどみんなが信じてたから在った"といった不思議さが、このアルバムの雰囲気に丁度よくて最高のネーミングだと思う。
『3月9日』が収録されており、Wikipediaによるとオリコンランキングは2位。
(『ether』の後に発売された『HORIZON』はオリコンランキング1位。そちらには『粉雪』が収録されている)
いつ手に入れたかは覚えていないのだが、ゆる~い音楽とゆる~い目線に、長らく癒されていた覚えがある。
今回名盤をテーマに記事を書こうと思ったきっかけだが、『ether』は「この先良いアルバムに出会わなかったら、これが自分にとっての名盤だな」と思い続けていたからだ。
あれから沢山の良い音楽に出会った。
ふと、「久しぶりに聴いてみよう」と手にした『ether』が、2005年の発売を感じさせない良い味わいで、たまらなくなった。
ゆる~い音楽と歌声が、沁みていく。
不意に泣きそうになって、再生を止めた。
世の中は移り変わっていく。
2011年の3月に。
2020年の1月に。
自然災害やパンデミックを経験しながら、アーティスト達も変わっていく。
変わらないものや、失くしたくないものが、『ether』には詰まっていた。
Youtubeのコメント欄で知ったが、2024年いま、ビールのCMで『南風』が起用されている。
「CMを見たから久々に」というコメントに嬉しくなった。
当時は『DOG YEAR』が一番好きでひたすら聴いていた。
いつぶりか、改めて聴くと『永遠と一瞬』『アカシア』『深呼吸』の良さが染み入る。
<永遠の彼方からこぼれ落ちて 流れ星にしがみついた>『永遠と一瞬』
<どんな事だって起こるさ 寄り道の先>『アカシア』
<太陽系から飛び出して もう少し力抜いて 新しい風なら体で感じるんだ 運命線からはみ出して もう少し自由になって 名もない星座の名もない星になる>『深呼吸』
他にだって『春景色』も良いし、『モラトリアム』も『海のバラッド』も・・・そう、全部良いんですわ。
気怠い歌声なんだけど、言ってる事はかなり前向きっていう・・・普段ハマる系のアーティストとは別ベクトルのギャップ。
『ether』の楽曲も、ちょうどいいロック。
激し過ぎず、耳馴染みの良い音で、それでいて1曲ずつ個性が立っている。
アルバム通して聴いた時の満足感がちょうどいい。
良い意味で気が抜けている。
無理のない歩幅で歩いた時に見える風景の美しさとか、満たされた日々の中で思いを馳せる宇宙の事とか、自然体のロマンティックが満ちている。
『永遠と一瞬』
<永遠の>と<一瞬の>の入りがめちゃくちゃ良い。
ドラムのビートが気持ちよく響き、アルバム内ではロック色が強めに思う。
<希望の色は空色 見上げるのさ飛べるまで 「僕は僕だよ」と呟けば ありのままでいる事はこれほど容易い>
良い歌詞なんだよなぁ。
学生時代に聴いて、社会人になっても良いなぁと思えるなら、これから先歳を重ねても良いと思えるだろう。
『深呼吸』
今一番聴いている。
気怠MAXの歌声からの、爽やかなメロディと窓を開け放つような広がるサビの対比がたまらない。
<心に闇がある 日陰に草が散る 夜空に月が出る ビルが迫ってくる/長い曇り空 短い朝の支度>Cメロのまったりとした中に見える、希望。のようなもの。
「ありのままを受け入れている」事による充足感が、心地いい。
ラスサビはドラムが消えて雰囲気が変わる。このパートがまた良いんだ。
目を閉じて、宇宙遊泳しているような。
そのままブラックホールに吸い込まれて、眠りにつきたいような。
ああ、これ、高校生の頃と願ったこと変わんねぇな。
『DOG YEAR』
キーボードがリードする、それまでの曲と少し雰囲気の違う1曲。
これ好きでねぇ~。
キーボードのおかげ?で可愛らしく聴こえるのだが、サビはドラムが前面に出てきてパワフルに変わる。
半音下がっているからダウナーな印象を最初は受けるのだが、歌詞的には旅行の計画を立てる話で明るい(笑)
このギャップが好きだったのかな。
<逆風 台風 君は怒るかな?的外れなスケジュール>
<時の流れは早くて 忙しなく生きています 気付いたことと言えば 本当の青空を見てない事>
サビはどこまでもお気楽で、突き抜ける青空のように明るい。
昔から色々考えすぎる性格だし、旅行はスケジュール通りにいかないと気が済まない。
だから『DOG YEAR』の主人公と旅行には行けなさそうだけど(笑)、この大らかさとか、ゆるさは昔から「こうなりたいなぁ」と思って憧れている。
いつかなれるかな。
Youtubeのコメント欄で初めて知ったが、タイトルは雑誌などのページの端を折るDOG EARと、時間の流れが早い事を表すDOG YEARのダブルミーニングになっているそうだ。
今の今まで、全く気にしていなかった!
まとめ
以上、自己名盤2選でした。
この2枚に出会う前にPeople In The Boxに出会っていれば、『Ghost Apple』か『Family Record』を選んでいたかもしれません。
でも、この2枚に先に出会っていた事は、非常に幸福です。
時の流れは早くて、音楽もイラストも文化は何もかも、物凄いスピードで変転していってる。
けれど、それは目に見える、表面上のものだけかもしれない。
実際、『ファンクラブ』が2006年、『ether』が2005年リリースだ。
記事を書くために情報を検索すると、2020年代以降に書かれた考察や、感想ブログが引っかかった。2つともだ。
アーティストの新譜は嬉しい。
同時に、"新譜でないもの"を大事に、好きだと発信できる場があるのも嬉しい。
読んでくれる人がいる事も含めて。
これも何度か明言しているが、自分は自分の好きなアーティストについてインターネットに流す事で、10年でも20年でもその先でも、このアーティストの良さを求める人が拾ってくれる事を目的で書いている。
現代のスピードはとても早くて振り落とされそうになるけれど、昔の曲をぽんっと投げれば、現代のスピードに乗せる事だって出来る良い時代だと思う。
音楽に限らず、全ての創作物は、一度世に出たというそれだけで、素晴らしい価値を持っているのだから。
価値のリバイバル。
それが今後大事になっていくと予想しているが、それはまた別のお話。
今回、現代のスピードに乗せたのは、中学生の頃に誰とも共有出来なかった感性。
見つけてくれてありがとう。
読んでくれてありがとう。
2024年ももうすぐ終わりますが、2025年になっても変わるのは暦だけで。
感性は2005年と2025年の間を飛び回りながら、新しくて素敵な音楽に沢山出会っていこう。