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寝台車の思い出3

ある時期、僕は1年おきに京都へ行っていました。
大抵は一人で、目的は単に観光旅行です。

当時の僕にとって京都へ行くには、次の4つの方法がありました。
1.夜行バス(直通)
2.新幹線を乗り継ぐ
3.寝台列車
4.バイク

夜行バスは何回か利用していて、安さが魅力ですが、早朝に放り出されるので、顔も洗えない、食事もできない等快適さに欠けるのが難点です。熟睡もできないので、疲れも溜まります。

新幹線は一番手っ取り早いのですが、コストが高くつきます。
また、当時は京都に着くのが昼頃になってしまうので、移動で半日がつぶれるのは痛い所ですした。

寝台車は、東京-大阪間を走る「銀河」というビジネスマン御用達の寝台急行があり、これを使うと朝から活動できる利点があります。
ベッドで寝る事ができて、洗面所で顔を洗う事もできます。

バイクは京都に着いてしまえば小回りが利いて無敵ですが、往復の道中が地獄です。
以前大阪から仙台まで走った時は、お盆という事もあり高速を使っても16時間かかりました。

そんなわけでバスを多用していましたが、寝台車の方が楽なので、徐々に寝台車で京都に行く事が多くなりました。
しかし、この「銀河」は古い客車で、開放型寝台と呼ばれるカーテンだけで仕切られた二段ベッドが向かい合わせになっているタイプで、お世辞にも快適とは言えない代物でした。

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開放型寝台 左が向かい合わせの2段ベッド


そのころ話題になっていたのがサンライズエクスプレスでした。
出雲に行く列車と高松に行く列車が連結されていて、岡山で切り離して、それぞれ出雲と高松へ行くのです。
上り列車はその逆で、それぞれを出発した列車が岡山で連結して1本の列車になり、東京まで向かうのです。
新型の寝台電車で、全室個室の二階建て車両です。
1両だけ個室の寝台車ではなく、カーペット敷きのゴロントシートという
安い料金で乗れる車両も連結されています。
どうせ乗るなら個室の方がいいと何回か切符を取ろうとしましたが、常に満席で結局「銀河」になってしまうのでした。

ある日時刻表を見ていると、サンライズ出雲・瀬戸の他に「サンライズゆめ」という列車が記載されていました。
同じ車両を使って、東京から広島まで行く列車です。(今は無くなりました)
こっちならネームバリューが低い分取りやすいのでは?と思い、緑の窓口へ行き切符を購入しようとしましたが、10時と同時に売り切れてしまいました。恐るべし。
しかしすぐにキャンセルが出始め、無事切符を取る事ができました。

ちなみにこの列車で京都まで行こうとすると、東京を22:10に発車して、
京都には4:44に着きます。こんなに早く着いてもすることも無いし、見るところもありません。
そんな時は・・・岡山まで乗っていくのです。
岡山には7:37着です。そこで降りて朝食を食べて、新幹線で京都へ向かえば丁度いいのです。
たっぷり寝れるし。

東京までは新幹線で行き、そこで乗り換えます。
やがてサンライズゆめが入線してきました。
早速乗り込むと、狭い通路の両側にドアが並んでいます。

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両側にドアが並びます


ドアはダイヤル式のロックで、自分で番号を決めるタイプです。
早速部屋に入ると・・・まぁ、狭いです。でも普通の寝台車はベッドの幅しかパーソナルスペースは無いし、ベッドの上に立つこともできません。
この車両は大きな展望窓が屋根の方まであるので、圧迫感はありません。

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照明スイッチやラジオ 窓は湾曲して寝転ぶと空が見えます

二階の部屋なので、眺めはいいです。
荷物を置くような場所は無いので、ドアの前に置きました。
枕元には照明やエアコンのスイッチ類とラジオがあります。(今はラジオ放送のサービスも無くなりました)

あちこちチェックしているうちに列車は動き出しました。
シャワーは車掌さんからシャワーカードを購入するのですが(今は券売機です)車掌さんが一部屋ずつ検札に来るので、それまでに売り切れてるだろうと思い、こちらはあきらめました。

切符を見せたらドアを閉めて、一人の世界です。
窓辺に飲み物を置いて、外を眺めます。
部屋の灯りを消すと、外がはっきり見えます。
横浜はホームにすごい人だかり、若者もいればスーツ姿のサラリーマンもいます。
なんとなく非日常のこちら側にいる事に優越感を覚えます。

クリップボード01
足元に小さなテーブルとコンセント

ベッドにゴロンと横になると、屋根まで食い込んだ窓から星も見えます。
うわぁ、これは寝れないかも。
ラジオをつけて音楽を聴きながら、外を眺め続けます。

段々と明かりの数が減ってきて、通過する駅もホームに誰もいないような駅が増えてきました。
いつものように、明かりがついている部屋を見ては、どんな人がすんでいるんだろうと妄想を膨らませます。
そろそろ寝ないと明日に差し支えるなと、洗面所で歯を磨いてトイレも済ませて、ブラインドを下して横になりました。
暗い部屋の中で寝ようとしますが、ブラインドの隙間から時々眩い光が漏れて来ると、どこの何の灯りだろう?と気になって体を起こして外を見てしまいます。
単に駅を通過する時のホームの灯りだったり、どこかの工場の構内を照らしている照明だったりで、また毛布を被って横になりますが、光が気になり・・・こんなことを繰り返しているうちに1時も過ぎてしまいました。

なんだか興奮して寝れないなと、寝るのを止めてまた外を眺めます。
どこだろう?静岡は超えたかな?昼間なら富士山が見えているのかな?
昔から寝台車に乗るとこうやって夜更かしをしてしまうのです。

そしていつの間にか寝ていたようで、列車の止まる衝撃で目が覚めました。
外が明るい!慌てて窓の外を見ると、小さく姫路城が見えていました。
あっ、もうすぐ岡山だ。
慌てて起き出して、洗面所で顔を洗います。

こうしてサンライズエクスプレスの旅は終わりました。
またいつか乗ってみたいなと思いながら、岡山駅のホームでさっきまで乗っていた一夜の宿を見送ったのでした。

おしまい


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