油井(ゆせい)の記憶
僕が小学5年生の冬、家から少し離れた小さな山まで行って、友達とミニスキーで遊んでいました。
ミニスキーとはプラスチックでできた、30cmぐらいのスキーで、ベルトに長靴を入れてスケートのように滑る玩具です。
上り坂も逆ハの字にして歩いて行けますし、斜面は滑れるし、何より雪さえあれば、平地でも走るより早く楽ちんに滑る事ができます。
記憶があやふやなのですが、その日はお墓がある山で遊んでいました。
山の斜面にお墓が並んでいまして、山の上まで通路というか道路というか参道がうねうねとありまして、歩いて登っては、滑って降りて来るという事を繰り返していました。
何回か繰り返しているうちに、さすがに疲れてきて、それまで滑る開始地点だった場所を越えて、山の裏手の方まで行ってみました。
人家はもちろん、木も生えていない雪原が広がっていました。
遠くの木が生えている場所の辺りを見ていたら、何かが動いているのに気が付きました。なんだろう?そう思って、近づいて行きました。
近くにいくと「キィーコ、キィーコ」と錆びた金属が擦れるような音が聞こえてきました。
後ろの林と重なってよく見えていなかったのですが、ある場所までいくと、電柱よりは短い棒が周期的に傾いたり直立したりしているのが見えました。
棒の上にはロープか電線のようなものがどこからか伸びてきており、さらには向こうへ伸びていました。
そちらに目をやると、そこにも同じような棒があり、その先をたどると、ずーっと遠くまで棒が立って、皆同じ周期でキィーコ、キィーコと音を立てながら倒れては起き上がりを繰り返していました。
ミニスキーで滑りながら間近に行ってみました。
棒の根元は、地面から少し顔を出している鉄パイプのようなものに刺さっており、倒れて起き上がってに合わせて、棒がパイプの中で上下していました。
そして棒が上に上がる時に「ゴボゴボ」という音とともに、少量の真っ黒い汚い水がパイプから溢れ、それはまた横に伸びているパイプに吸い込まれていきました。
棒の上についていたロープか電線に見えていたのは、ワイヤーロープで、林の中から伸びてきて棒の上に繋がっており、さらにそこから遠くの棒まで伸びて、どこまでも続いていました。
あっ、これは油田だ!そう気が付きましたが、我に返ると友達とも遠く離れ、聞こえるのはキィーコキィーコという棒が動く音と、ビュービューという吹雪の音だけ。
だんだん怖くなってきました。大体、動力らしきものがないのに何で動いているんだろう、無人の雪原で何本もの柱が勝手に同じ動きをしていることが恐ろしく感じてきたのです。
慌ててみんながいるところまで戻り、油田があったよと教えたのですが、誰も興味を示さず、間もなく家に帰りました。
今でもあの風景を思い出すと、なんとも言えない怖さが蘇ってきます。
僕が秋田市に住んでいた遠い昔の話でした。