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子連れ狼

僕が子供の頃「子連れ狼」という時代劇をやっていました。
見たことは無いのですが、同級生は結構見ていたようで、乳母車にマシンガンを積んでるんだよな等と話しているのを聞いて、荒唐無稽な時代劇なんだなと思っていました。
「♪シトシトピッチャンシトピッチャン」で始まる主題歌だけは妙に耳に残り、見ていなかったにも拘らず覚えています。

さて、誰もが一度ぐらいは「子連れ狼」というタイトルは耳にしたことがあるかと思いますが、話の内容まで知っている人はあまりいないかと思います。
浪人が幼児を乳母車に載せて、刺客をしながら旅をしている、そんな程度ではないでしょうか。水戸黄門のアウトロー版みたいなイメージ。

今日はそんな子連れ狼について書いてみたいと思います。

このお話は原作が劇画です。小説でも無いし、いきなりドラマが始まったわけでもありません。小池一夫 原作、小島剛夕 作画 です。
ぼくは20歳になる前、多分18歳ぐらいの時に初めて読んだのですが、実在の人物や地名、組織に架空の設定を織り交ぜているので、登場人物は全て実在していたのだとばかり思っていました。
割と時代考証的なところや(時間軸は敢えてぼかしていたりします)言葉、当時の風俗や思想など半端な歴史小説顔負けの内容になっています。

主人公は拝一刀(おがみいっとう)とその子大五郎(だいごろう)。大五郎は3歳ぐらいの設定でしょうか。
第一話から、依頼を受けて刺客としてターゲットを暗殺するという内容で、
なぜ子連れ?なぜ刺客をしている?という説明は一切ありません。

しかし第9話でようやく説明が出てきます。
それによると

公儀は大名を締め付け統制するために三つの組織を作った。
1.大名を廃絶させるための理由を探り出す 公儀御庭番
2.政策実施上邪魔になる要人を暗殺する 公儀刺客人
3.切腹を命じた大名を介錯する 公儀介錯人
公儀介錯人については、大名の首を家臣が刎ねるのは士道にもとるというところから、公儀が大名の介錯人を特別に選任し、三つ葉葵の紋服の着用を許した。
1は黒鍬一族が、2は柳生一族が、3は拝一族が務めていたが、明暦年間に拝一族が姿を消し、柳生一族が介錯人を務めるようになったが、柳生一族も天和元年に断絶した。
この謎を追求するのが子連れ狼である。

とあります。こんな史実があったんだ・・・と、この時は信じていました。
当時は歴史にあまり詳しくなかったし、柳生一族とかよく耳にしていましたので。

大雑把にあらすじを紹介すると、
上記の3つの組織は、いわば裏の権力者、裏の幕府とも呼べる権限を持っているといえます。そこで柳生一族がそれを全て掌握しようと暗躍するのです。
柳生家といえば、将軍家指南役の立派な侍です。ここで暗躍する柳生は、裏柳生と呼ばれるもので、宗矩の子供である義仙またの名を列堂、がその総帥です。

柳生一族は手始めに黒鍬一族を支配します。
残る拝一族も一刀を残して暗殺されます。一刀が帰宅すると身重の妻も斬殺されており、大五郎が産み落とされていたのです。
さらに柳生は一刀に無実の罪を着せ、上意のもとに切腹をさせる事になります。
一刀は恨みを果たすため、大五郎と冥府魔道の刺客道に生きる事を誓い、自宅に来た使者や討手を倒します。
一刀は水鷗流の達人で同田貫(実用的な剛刀)を手に刺客行脚の旅に出るのです。

その後、柳生一族はたびたび一刀を襲いますが、その都度返り討ちに遭い、
黒鍬一族も倒され、最後はラスボス柳生烈堂と決戦を行うのです。
一殺500両で刺客をしていたのは、この為の資金作りだったのです。

このために刺客をしていたんですね。

この劇画は武士道が強調されており、これは敵味方関係なくぶれる事無く貫かれています。
その例として、前述の説明が初めて出てきた第9話でこんなシーンがあります。

切腹当日、屋敷に上使と検屍役の役人が来ます、そこで一刀は上意など笑止千万、冥府魔道の刺客道に入った自分たちには士道の常識は通じないと刃向かうのですが、裏で糸を引いているのは柳生一族です。
屋敷の外には身支度をした柳生一門が詰めていました。
さすがに1対数十名の手練れには勝てないですよね、子連れだし。
どうやって切り抜けるのかというと、四方から斬りかかられる瞬間、
白装束を諸肌脱ぎにします。実はその下には、三つ葉葵の紋服を着用していたのです。
公儀介錯人には三つ葉葵の紋服の着用が許されていたと説明されていましたね。
これを見た柳生側の侍達は斬りかかる事ができなくなるのです。
この辺り、三つ葉葵=幕府に対する畏れがこれほどのものだったのかと実感します。

ちなみに、一刀に着せた無実の罪というのが、一刀が介錯人として命を絶った人達を弔うために設けた供養堂に、柳生側が将軍の名を刻んだ三つ葉葵の御紋入りの位牌をこっそりと置いておき、夜な夜な将軍家の死を願って呪詛してた証だと難癖をつけるというものでした。

三つ葉葵の紋服を斬る事ができないので、正面から頭に太刀を振り下ろしてくる敵に対しては、この将軍家の位牌を相手にかざす事で、相手が太刀を振り下ろせなくなり、辛くも切り抜ける事ができたのです。

話の中盤までは、とにかく柳生の卑劣な手口で読んでいると怒り心頭になりますが、後半になると、武士道を通して相互理解のようなものが感じられ、
お互いに相手を認め合うだけではなく、大名や将軍家までもが固唾を飲んで成り行きを見守る展開になります。
そして最期は涙なしでは読めないという話になっています。

当時はネットなど無いので、図書館や本屋の立ち読みで情報をあさっていたのですが、柳生烈堂は実在しているし、黒鍬組という組織も実在しているし、各話に出て来る地名や藩名も実在しているしで、すっかり本当の話に刺客稼業や大五郎というモチーフを付け加えて作った話なんだと信じこんでいました。

今でもネットで検索すると、公儀介錯人について知恵袋などで聞いている人がたくさんいて、自分だけじゃなかったんだと安心しています(笑)

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