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うつわペルシュの、つくり手を訪ねて【石黒雄大】

ノミを打つ音、彫刻刀で削る音が聞こえてくるような「彫り跡」が魅力の木器。
白漆で仕上げられた皿は、一見すると陶器のように見え、触って「木」であることに驚きます。
つくり手である木工作家 石黒雄大さんを訪ね、山梨県の道志村へ。
キャンプ場に囲まれた自然豊かな地に構えられた工房は、晴れた日には窓から富士山を眺められるとか!
Jazzが流れる作業場でお話を伺っていきました。

取材 ペルシュ
取材時写真 こんどうみか 撮影


心で良さを感じる暮らしの道具を制作

ペルシュ:
手仕事といってもいろいろあるなかで、木工がいいなと思った理由はなにかあるんですか?

雄大さん:
祖母の家が山に囲まれていて、昔からそういうところで遊んでいたので木は身近なものではあったんです。
大学の時のゼミの先生が木工の先生で、その先生の手伝いをしていたらちょっと面白くなって。
木にこだわっていたわけではないんですけど、結果的に木に携わることが多かったのでしょうね。

ペルシュ:
木工作家さんのなかでも、すごくきれいに仕上げて形をそろえて作る人もいますが、雄大さんは手で彫った跡にこだわっているじゃないですか。それはなぜですか?

雄大さん:
もちろんきれいなものも好きなんですけど、どこか面白味をつけたくて。
でも、単純に「手で彫って仕上げるのが楽しくて好き!」っていうのが一番大きな理由かもしれませんね(笑)
あとは木工旋盤できれいにつくるとどうしても作れる形が限られてしまって、ちょっとくだけたかんじのものはできないので、模様絵皿シリーズのゆがんだ四角のうつわは旋盤は使わずにノミだけで仕上げています。

前回の個展時にペルシュに並んだ模様絵皿のシリーズ。まるで陶器のスリップウエアのような大胆でのびやかな模様はすべて一点もの。

アイヌ文化の彫り模様に魅せられて

ペルシュ:
彫り模様がとても魅力的な作品を作られていますが、模様はどんなところからインスピレーションを得ているのでしょう?

雄大さん:
アイヌの木彫り模様が好きで、そこからオリジナルの模様に変化させています。たとえばこの丸盆の花模様は、アイヌの「うろこ模様」から発展させたものなんです。

うろこ模様を説明してくれる雄大さん

ペルシュ:
表面がつるっとしていなくて、ノミ跡というのでしょうか、ごつごつした仕上がりになっていますよね。
この凹凸感はどうやってだすんですか?

雄大さん:
「こてノミ」という首が曲がったノミがあるんですけど、これを使って木目に対して横から削っていくんですよ。
だいたいカンナやノミをあてるときって、表面を滑らかにするために繊維方向にあてるんですけど、横擦りにすることでちょっとだけ荒々しくなるんです。そうすることで表情豊かになるし、自分の作品の彫りとのバランス的にそのほうが合うかなと。

ペルシュ:
アートのような作品でありながら、それでも生活のなかで使う道具を作られていますよね。
日用品にこだわるのは、使い手さんが使うときに何かを感じてほしいと思って作るんですか?

雄大さん:
博物館に展示してあったアイヌの木彫りの作品を見たときに、艶感とか細かな彫りの細工に感動して。
それが生活の中で使われていい感じになっていたもので、使い込まれたであろう傷とかもかっこよくて、それを見たときに「すげー!」ってなって(笑)

ペルシュ:
手の込んだ細工などは、道具としての用途だけならなくてもよいのにここまでしてる!ってことですよね。

雄大さん:
そうそう!彫り模様も使っていくうちに角は丸くなるしすり減っていくんですけど、その使用感もかっこよくて。

ペルシュ:
そうなっていくこともイメージして彫りや形を作っているんですね。

雄大さん:
いつか長く使い込まれた僕が作ったものを見てもらったときに、自分が博物館で感じたような感想を誰かに思ってもらえたらいいなと思って作っています。

ペルシュ:
これが10年20年使われたときに、見た人が「わーすごいな!」と思うわけですね。
確かに10年たったものというのは10年の時間がないと出せない味ですよね。新品にはない。

雄大さん:
新品でも完成品といわれちゃうんですけど、あくまでも僕の作品は使い込んで使い込んで完成するものだと思っています。



木のうつわは使ってこそ!

ペルシュ:
使うときやお手入れで使い手さんが気を付けることはありますか?

雄大さん:
あまり気にせず、むしろじゃんじゃん使ってもらったほうが木にはいいんです。

木の保護と意匠を兼ねた漆塗り

ペルシュ:
漆を塗るというのもすべての木工作家さんがしていることではないと思うんですけど、漆塗りで仕上げるのはどうしてですか?

雄大さん:
漆っていうのはかなり最強に近い塗料で、防水性も防腐性もあるんです。
あと、かっこいい!



つくる時間、つかう時間、時間をかけられたものだけの良さがある


工房訪問を終えて

なんでも簡単に手に入る時代に、ひとつの作品が完成するまでに最低3か月を要するという石黒雄大さんのものづくりは、時代と逆行しているようでありながら、こういうものこそ新しい価値として現代のわたしたちが探し求めているものなのかもしれません。
安易に手に入れられるものを、飽きたりダメになったら手軽に買い替える、「もの」への思い入れもない淡々とした消費に虚しさを感じたとき、大切に長く使いたくなる「もの」との出会いは買う喜びとなり、愛着のわく日用品との暮らしは小さな幸せを運んでくれることでしょう。
そうして長く使いこまれたアイテムは、いずれお孫さんやひ孫さんに「かっこいい!」と羨望のまなざしでねだられ、譲りわたされるかもしれませんね。

「自分が作りたいものがたまたま時間のかかるものだったというだけなんですけど、そこには時間をかけないとできないっていうものができあがるんです。」
という雄大さんの言葉が印象的でした。

ペルシュでは石黒雄大さんの作品を常設で展示販売しており、2024年1月には個展を開催予定です。




【つくり手Profile】
石黒雄大(いしぐろゆうだい)
愛知県豊川市出身
金沢大学卒業後、岐阜県高山市で木工修行
上京し家具メーカーで8年勤務後独立
山梨県南都留郡道志村に工房を構える
2023年1月ペルシュにて初個展開催

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