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「かわいいだけじゃだめですか?」は本当にかわいいだけなのだろうか
触れない日は無いと言っても過言ではないほど、SNS等で目に耳にする、CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」
令和の時代を象徴する歌詞と、一瞬で掴んで離さないメロディが特徴である。
あと、メンバーがみんなかわいい。
・ほんとうに可愛いだけの歌詞なのだろうか
逃げるにしかず本気出したら時間なくてもめっちゃ可愛くなれるもん!
この可愛さに免じてゆるして!おねがい!
楽曲の1番に登場する2つの歌詞。
まずは、「逃げるにしかず」という言葉にひっかかる。この言葉だけで考えれば、可愛くないだろう。
この言葉の語源は、中国の兵法「兵法三十六計」の最後「走為上(はしるをじょうと為す)」にある。
「三十六計逃げるに如かず」は、困難な状況に陥ったときに、あれこれ考えるよりも逃げることが最上の方法であることを意味する言葉である。
しかし、この楽曲では「逃げるにしかず本気出したら時間なくてもめっちゃ可愛くなれるもん!」とある。
前の歌詞の「大ピンチです!~」合わせて考えるに、「逃げてはいけない」という意味で使われている。
つまりは、誤用されているのではないか。
ただ、多くの人が逃げてはいけないとの意味で捉えているだろうし、現代での使われ方からしてもむしろ、こちらの方がベターとも言える。
私としては、誤用だと問いただすことには、全く興味は無く、この楽曲のこの歌詞の真意を考察したいのだ。
作戦はいろいろあるが、逃げるべきときには逃げて身の安全を保ち、立て直すのが得策であるという意味の「逃げるにしかず」。しかし、曲の主人公には立て直す時間が無い。主体的も客観的にも大ピンチなのである。ただ、彼女には自信がある。
私は、時間が無くてもかわいいくなれると。
逃げて立て直すのではない、残された時間でどうにかする。逃げるに如かずというよりも、背水の陣なのである。キングダムでいうところの麃公将軍みたいな女性なのである。
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とはいえ、間に合わない。背に腹はかえられぬ、彼女は散財を覚悟し、タクシーを呼んだ。
さらに、歌詞はこう続く。
「私のでっかい夢にくらべたらこんな失敗はちっちゃいか」。豪胆。かなりの豪胆さ。でっかい夢、(ここではあなたの彼女になることと考察する)に比べたら、寝坊、散財を小さいものと断言。主人公は、自信と決断力、そして覚悟を持った令和の女性像そのものなのである。
女が家に入り、家事をし、子育てをすると考えられていた時代では全く考えられない価値観。3歩後ろどころか、2歩くらい男性よりも前を進んでいるだろう。
そして、次にくる歌詞は「この可愛さに免じてゆるして! おねがい!」
私の挙げた2つ目、「免じて」なのである。可愛くない。武士っぽい。
「免ずる」は、罪や過失を、本人の功労や事情、また関係者の面目・とりなしなどによって許す、大目にみるという意味。この曲の場合は、準備ができなかった自身を、自身の可愛さをもって許して欲しいということなのである。
凄まじい自信。承認欲求が蔓延る時代を生きてるとは思えないほどの、自己承認。ただ、今の時代を生きる我々にとっては目指す姿なのかもしれないとも感じる。
そして、彼女は相手に対し絶大な信頼を置いていることが読み取れる。付き合う前の男女なのだろうが、信頼関係はもはや、他の追随を許さない。
あなたならば私の可愛さをもって、少しの失敗(寝坊や散財)は許してくれるだろうということである。この歌詞を通し、「許す」ということが最大の愛なのかもしれないと感じた。
可愛いだけじゃだめですか?とあるが、これはむしろ逆説的な意味も込められているのではないだろうか。今を生きる女性が「かわいいだけ」な訳が無いという、強い思いが。強く信念を持ち、恋愛にしろ、私生活にしろ、仕事にしろ、強く逞しく生きていく女性の姿が令和のスタンダード。
ましてや、アイドルも然り。
ポップでキャッチーなだけではない、この曲の魅力があると私は強く思う。