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マエストロ・ムーティと精鋭たちの響宴〜東京・春・音楽祭2022〜

マエストロ リッカルド・ムーティがコロナ禍に3度目の来日を果たしてくれた。今回は毎年春の風物詩、東京・春・音楽祭で特別編成される東京春祭オーケストラを指揮するための来日となる。

運の良いマエストロ

先述したが、ムーティはコロナ禍になってから今回で3度目となる。2020年は無念の中止となったが、昨年の東京春祭は、緊急事態宣言の間をくぐり抜けて来日した。また昨年秋にはウィーンフィルと共に来日し日本ツアーを敢行。そして今年は2月末まで外国人の新規入国停止措置が3月に解除されての来日となった。全てにおいて運の良い人だと感心する。しかし、だからこそ私たち聴衆に毎回素晴らしい音楽を届けてくれる機会が実現できていることにも感謝したい。

モーツァルトとシューベルトの美しい調べ

今回は昨年からの続編であるモーツァルトとマエストロの得意とするシューベルトでプログラムが組まれた。

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2日間公演があった中で、1日目は東京文化会館で聴き、2日目は配信で聴いた(会場はすみだトリフォニーホール)。本稿では1日目公演を中心に書く。
3月18日、桜の蕾が膨んで開花を待つ上野公園はあいにくの雨模様であったが、東京文化会館大ホールは期待に満ちていた。公園内の桜はまだだが、大ホールのホワイエにはフラワーアレンジメントであしらわれた桜が音楽祭の開幕を祝うかのように出迎えてくれた。(下記画像)

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この桜は翌日に大ホールで開催されるシュトゥットガルトバレエ団公演のために用意されたものをバレエ団招聘元のNBS(日本舞台芸術振興会)のご厚意で、音楽祭の開幕に合わせる形で前日に前倒しで展示されることになったのだそう。

さて、本題へ。
開演時間になり舞台上にオーケストラのメンバーが入場し、チューニングを終えたところでマエストロ・ムーティがマイクを持って舞台に登場。演奏前にムーティからのスピーチで音楽祭開幕公演はスタートした。
スピーチは昨今の世界情勢について触れ、平和への想い、音楽への信念、この春祭オケと想いを込めて演奏したい旨の内容だった。
スピーチの全文(翻訳&原文)は以下の東京春祭公式サイトで読むことができる。


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スピーチ後、プログラムの曲目、モーツァルト:交響曲第39番の演奏が始まった。ゆったりと歌うように響かせ、最弱音に非常にこだわりを持った演奏。3楽章の軽妙さと4楽章の機敏な音運びに感服。前半だけで満足感たっぷり!
休憩を挟み、後半はシューベルト:交響曲第8番未完成。細部まで研ぎ澄まされた背筋の伸びるかのような緊張感の中に、温かい小さな灯火のように響く木管群。まさに祈りの音楽。
締めは同じくシューベルトのイタリア風序曲。コミカルな明るさがあり、ムーティらしさ溢れる力みなぎるアプローチでロッシーニを思わせる曲調が印象的。演奏機会が稀な曲でもあり、イタリアの巨匠ムーティの指揮で聴けたことはとても感慨深いものがあった。

2日目のすみだトリフォニーホール公演は、昨年から実施されているストリーミング配信で自宅から楽しんだ。技術としても高音質・高画質で楽しむことができる上に、低料金で上質なパフォーマンスを楽しめるのも魅力的だ。
本編は全てにおいて前日より格段に演奏の質が引き立ち、特にシューベルト未完成は白眉!
配信だと様々なアングルのカメラ映像を見ることができ、演奏者とムーティとの音楽を通じたコミュニケーションや、指揮するムーティの表情が分かり、何度も笑顔が見えて春祭オケとの音作りを楽しんでいたのが印象的だった。

喜びの響きに包まれる東京文化会館

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1961年に上野恩賜公園の入口に建設された東京文化会館は、昨年開館60周年を迎えた。"音楽の殿堂"として親しまれ、ホールの音響効果は独特の響きを醸し出すと言われている。90年代に都内にコンサート専用ホールが次々と開館するに連れて、"文化会館はデッドな響き"と評されるようにもなった。しかし、マエストロ・ムーティが指揮すると、それまでの文化会館の響きがまるで違って聴こえる。今回を含めて3回、それぞれ別の団体をムーティが指揮した公演を文化会館で聴いた。

2016年 日伊150周年記念オーケストラ(東京春祭2016)
2019年 シカゴ交響楽団
2022年 東京春祭オーケストラ

いずれも、文化会館の中でも比較的響きが良いとされる上層階の座席でのことである。"ムーティが指揮する"という先入観からかもしれないが、他の指揮者が振ったときとの違いが如実に表れているように聴こえる。
その体感をしたためか、ムーティ来日時の演奏会場に"東京文化会館"とあるときには真っ先に同館で聴くようにしている(ムーティは文化会館で聴きたい!という想いが強い)。東京・春・音楽祭の主会場が同館であり、継続してムーティを招聘してくれていることに感謝の念に絶えない。
まさにムーティの一振りが東京文化会館を喜びの響きで満たしてくれるように感じる。

来年の春に向けて

今年の東京春祭でのムーティの登壇は春祭オケとの2公演だけだった。当初は2019年から継続し昨年も大好評だったイタリアオペラアカデミーin東京も併せての開催であったが、ムーティの意向で"コロナによる様々な障壁が無く完璧な状態でアカデミーを行いたい"ということで、2023年春へと延期された。
昨年のマクベスは大絶賛で音楽雑誌の年間ベストコンサート1位にも選ばれた。また東京春祭オケとのオールモーツァルトも大好評だった。自分自身は昨年コロナ禍の移動自粛で実演では聴けなかったが、来年こそはオペラとシンフォニーとセットでムーティの音楽を堪能したい。

80歳を迎えてもなお、衰えを感じない指揮姿と背中から感じるオーラ、そしてチャーミングな振る舞いは今年も健在だった。
今年の公演が終わったばかりであるが、既に来年の春が待ち遠しい。来年の春もお元気な姿でお会いできることを心待ちにしたい。

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