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国内初の民間気象予報衛星!ALE新プロジェクト「AETHER」-後編[葛野 諒]

人工流れ星 などの「Sky Canvas」事業で知られる株式会社ALEが2021年9月に発表した民間気象衛星で「自然災害」に挑む産学連携プロジェクト「AETHER(アイテール)」。そのAETHERの今後の展望について、株式会社ALE(Head of Space Environment) 宇藤 恭士様にSpace Seedlings葛野がお話を伺ってきました。

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▲【取材の様子】左:ALE宇藤さん 右:S.S葛野

ALEが進める大気データ事業とは一体?
S.S.葛野:前回に引き続きALEさんが行われている大気データ事業についてお伺いしたいと思います。一体どういうことをされるのでしょうか?
ALE宇藤さん:大気データ事業は小型衛星を活用して大気データを取得し、今ある気象予報サービスとデータを同化させて活用するものです。先月舩越がお話したAETHER(アイテール、2021年11月号12月号掲載)と被るところも多いかもしれません。
AETHERは大気データ事業の一部であり、先駆けとして今一番注力しているプロジェクトです。AETHERでは気象予報や防災等への活用を目的としているのに対して、大気データ事業ではより広い視点で、気候変動のメカニズムや成り立ちまで解明することを究極的な目標としています。

S.S.葛野:AETHERは大気データ事業の一つで、メインプロジェクトなんですね!
ALE宇藤さん:大気データ事業では究極的に気候変動レベルのメカニズムを解明するために中間圏大気(高度約50-80 kmの大気層)など高高度の大気データを取れるようにしていきたいと考えています。

S.S.葛野:中間圏の大気データは気象予報などにどのように役立つのでしょうか?
ALE宇藤さん:気象予報と一口に言っても、実は対象とする時間軸によって大きく違います。例えば今日とか明日とか細かいメッシュで見たいときはAETHERのような高頻度でデータをどんどん回すサービスが適しています。
それに対して、中間圏の大気データはより長いスパンの気象予報に適しています。
例えば100年前の中間圏の空気中水分濃度や温度を比べることでよりマクロな違いが見えてきて、温暖化の解明に繋がるのではと言われています。
そしてそれらのマクロな違いを理解することは日々の気象予報にも良い影響を与えると考えています。今年で言うと(2021年11月取材時)、秋が来ないと言われていましたが、その理由として中長期的な気候変動と関係があるという仮説が持たれています。現在はそれを理解するため中長期的な視点に基づく気象の情報が足りていない状況です。

ALE-1月号アイキャッチ

▲中間圏データ取得の概念図

S.S.葛野:AETHERが私たちの生活に近い気象予報に役立てるのに対して、大気データ事業はその発展形で、より長期的な気候変動の知見を得るためのプロジェクトということですね。
ALE宇藤さん:気候をメカニズムのレベルで理解する上で中間圏のデータは圧倒的に足りていないのではないかと言われています。毎日の予報にすぐには役立たない気象データは中々取りに行けないのです。人工流れ星の技術を応用すれば今後必要になる中間圏の大気データを取れる可能性があることから、それを活かして科学の発展に役立てられるのではというのが元々の我々のコンセプトです。

S.S.葛野:それでは大気データ事業の意義についてお聞かせ下さい!
ALE宇藤さん:サービスとしての意義は理不尽な災害を減らすことです。そのために日々のレベルだけでなく、中長期の気候変動に対応できるよう気象予報精度を向上させることが必要だと考えています。また事業開発の観点で言うと、大気データの取得って、技術としての萌芽はありますが、それを汲み取るだけの市場が今はまだないのです。
取得した大気データを気象予報や、コンサルティングのようにビジネスとして商業化すること自体が社会の中でまだ市民権を得ていないのが現状です。そういった状況に先鞭をつけるのが大気データ事業の意義だと考えています。
私はよくデータを野菜に例えて話すのですが、野菜(=大気データ)を山から取ってきて洗って(=気象予報として整理)、さらに加工(=気象予報に関連するソリューションを提供)する、といったようにデータにも何段階かあって、それぞれに応じた市場があります。
今の民間市場では、取ってきた野菜そのままに当たる、「生」の大気データを売る対象がまず少ないという状況です。
また、AETHERで取れる大気データは、野菜で言えばたまねぎのように馴染みのあるものが取れると思いますが、中間圏にあるデータは、すごく高い山にあるよく分からない野菜みたいなものなのでそもそもの価値を理解してもらうことが前提になります。我々はこれらの野菜を自分たちで取ってきて市場に流通させたいと考えています。

S.S.葛野:野菜で例えると身近に感じますね!(笑)
先ほどAETHERが最初のステップと仰っていましたが、今後はどのような段階で進んでいくのでしょうか?
ALE宇藤さん:今後は2つのフェーズで進む予定です。
1つは研究開発フェーズです。最初は研究体制を構築した上で、基礎的なコンセプト作りから始まります。ちょうど先日発表したAETHERがスタートにあたります。これから4・5年は小型衛星の研究開発を進め、ある程度実証できる段階にします。その次が商用化フェーズです。
これについては、まず日本政府関係の顧客を獲得し実証フェーズに入る段階で海外政府やEU、ASEANなどの海外共同体と繋がっていくことを考えています。その後はデータに付加価値を付けてソリューションビジネスの形にしていきたいです。これは今から7・8年後の見込みです。
ただ大気データ事業自体はまだまだこれからの段階なので、まずはAETHERで小型衛星開発を5年ぐらいかけて進めることになります。中間圏のデータ取得もその後の話になってきます。

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▲開発スケジュール

大気データ取得・デブリ除去事業を通してALEが推進する未来
S.S.葛野:
ALEでは今回お話していただいた大気データ取得の他に、人工流れ星、デブリ防止など様々なプロジェクトを進められているかと思います。これらのプロジェクトはいったいどのような未来に向けて進められているのでしょうか?
ALE宇藤さん:今おっしゃった3つの事業は実は全て一つの軸に沿って進められています。その軸とは、「科学の発展」と「人類の持続可能な未来」にいかに貢献していくかです。
それがエンターテイメントという切り口だったら人工流れ星になりますし、地球表面の環境が切り口であれば大気データ取得事業になりますし、軌道上の環境が切り口であればデブリ防止になります。
今回のAETHERについての発表も、事業の中心をピボットしたと誤解を受けることがあるのですが、そうではなく全て一つのポートフォリオの中にあるプロジェクトであるとご理解いただければ幸いです。
全てに共通するのは「科学と人類の発展に貢献する」という理念です。科学がちゃんと発展していくことが必要だし、それが無ければ社会は発展しないよね、ということを岡島と私は良く話しております。
S.S.葛野:なんだか聞けば聞くほど、ALEのプロジェクトは全部、「科学と人類の発展に貢献」という、一つのところに向かっていることが強く感じられますね!

S.S.葛野:少し気になったのですが、宇藤さんはどのような経緯でALEに入られたのでしょうか?
ALE宇藤さん:私は国家公務員として防衛省に入省し10年ほど勤務していた経験があります。仕事柄、先端技術に触れる機会が多かったため、そういった技術に関わりながら人の役に立つことに魅力を感じていました。
ですが、資本主義の中で生きるならば民間事業者として働きたい気持ちもあったため、転職を考えることになりました。とはいえ、給料がいいとか、潰れないとか、なんとなく楽しそうということで仕事を決めるのではなく、中長期的に自分の中で納得して携わる意義のあるところで働けるかに最も重きを置いておりました。
そう思えたのがALEだったのです。
また、大学時代に国際環境法を専攻しており、環境問題そのものに対する興味はもちろん、法規の成立過程において、正解が無い中である程度コンセンサスを取って物事を前に進める在り方に魅力を感じたことも大きな後押しとなりましたし、環境についても興味を持っています。
S.S.葛野:なるほど、科学、環境、国際という点で、ALEの事業が宇藤さんの想いとぴったり合致したのですね!
ALE宇藤さん:そうですね。働き方やテーマだけでなく、環境という根本の問題意識にも刺さったので、何か後付けに聞こえるぐらいサクッとはまったなという感じです。

S.S.葛野:最後に、宇藤さんのプロジェクトにかける想いを、お聞かせください!
ALE宇藤さん:事業開発担当として想いを述べさせていただくと、今まで話したような事業をちゃんとビジネスの形にしたいと考えております。お金が無限にあってなんとなく「かっちょいい科学をする」では全然主旨が違うと思っていて、事業として必要な付加価値を生み、それに対する対価としてお金をもらい、プレイヤーとして市場に参加することが資本主義として一番健全な形です。そこまで到達させることで、ようやく皆さんに認めてもらえるような形になると考えています。

S.S.葛野:とても興味深いお話ありがとうございました!
3回に渡る取材で、ALEが行っている全てのプロジェクトは、「科学と人類の発展に貢献する」という理念の下進められていることがよく理解できました。未熟ながら大学院生として科学の一端に携わる私からすると、このような理念を掲げている会社があると大きな励みになると感じました。今後益々のご発展をお祈りしております!

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宇藤 恭士(うとう やすひと)
株式会社ALE Head of Space Environment Business Development

愛知県出身。早稲田大学法学部卒業後、防衛省に入省し、自衛隊の運用、日米同盟政策及び共同訓練に関する企画立案業務に携わる。同省にて奉職中、米国スタンフォード大学にて国際政治学修士号を取得し、国土交通省出向時には河川関連行政の法規担当業務に従事。退官後、株式会社経営共創基盤においてアソシエイトマネジャーとして民間企業に対する事業再生等のコンサルティング業務に従事し、ALEに参画。ALEではHead of Space Environmentとして大気データ事業と宇宙デブリ対策事業推進を統括。

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葛野 諒(くずの りょう)
東北大学大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻 博士前期課程1年

【専門・研究・興味】
宇宙エレベーター/宇宙テザーなど宇宙空間における柔軟構造物の研究
Space Seedlingsの活動を通して、皆さまの「宇宙」が広がるお手伝いができれば幸いです。
【活動】
SELECT(宇宙エレベータークライマー製作)
Flexible Spacecraft.jl
Tohoku Space Community


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