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誰も見たことのない景色を目指して[枝本雅史]
はじめまして。岐阜高専の電子制御工学科で助教をやっています枝本と申します。
宇宙メルマガへの初の寄稿ということで、宇宙に興味を持ったきっかけや研究内容について少し書かせていただこうかと思います。折角の機会にと思い、いろいろ雑多に詰め込んでしまいましたが、読者の方にとって興味のあるトピックが一つでも見つかれば幸いです。
研究関連で出せるいい写真がなく文字だらけの記事になってしまいましたので、その代わりというわけではないですが、最初に皆さんに春をお届けしようかと思います。
この写真に写る木は岐阜高専がある本巣市の名木『淡墨桜』です。2008年の宇宙文化事業「花伝説・宙へ!」では、淡墨桜の種がスペースシャトル・エンデバー号に乗り、宇宙ステーションに滞在しました。また、ワシントンD.C.のタイダルベイスン(全米桜祭りが開催される場所)にも苗が植えられ、そのエリアの公園に咲く桜の約1.3%が淡墨桜の系統だそうです。
( https://www.nps.gov/subjects/cherryblossom/types-of-trees.htm )
非常に美しい桜ですので、機会があればぜひ足をお運びください。
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さて、本題に入りましょう。私が宇宙工学に明確な興味を持ったのは小学生の頃で、最初のきっかけとしては何かしらの本(図鑑かもしれないし、子供の科学とかかもしれない?そのへんの細かい記憶は曖昧です)でVoyager計画を知ったことでした。
私が生まれるより前に1号の土星通過も2号の海王星通過も終わっており、「世界で最も遠い場所にあるもの」のような扱いだったかと思います。「宇宙人に向けたメッセージを搭載している」という点にも惹かれた記憶があります。
もう一つ大きなきっかけがあり、兄が持っていた「パスポート・ブルー」という漫画です。宇宙に関連した漫画は多くありますが、宇宙生物学を学ぶ主人公が出てくるのはけっこうレアではないでしょうか。この点が現在の研究を行うモチベーションの遠因にもなっている気がしています。
タイトルにあるように、私の研究のベースとなるモチベーションは「誰も見たことのない景色を見たい」というものです。望遠鏡等でのリモートセンシングではなく、その場観測が興味の対象です。本来なら自分で行きたいのですが、なかなか現実的ではないので、探査機に夢を託そうと思います。
この目標に向かい、大学院では宇宙推進機の研究をしていました。人類史上最遠に到達すれば確実に誰も見たことのない景色が見られる、そのためには強力な推進機が必要だろうというシンプルな考えです。
具体的には、次世代の推進機として提案されているレーザー核融合ロケットについて研究していました。エネルギー源としてのレーザー核融合はまだ実現していませんので、レーザー核融合ができたと仮定して、そのエネルギーをどうやって推進に使うかという研究です。
この話をすると「レーザー核融合がまだできていないのに、そんなことしても無駄じゃないか」と言われることがあるのですが、これには全く同意できません。核融合炉の開発に「発電システム」が必ず組み込まれているように、核融合をどう使うかという話は核融合自体の研究と並行して議論する必要があるのです。
ロケットの推進性能は、推進剤にどれだけ大きなエネルギーを投入して放出できるかということに依存します。「推進性能」とは非常に曖昧さのある表現ですが、細かく書くと講義っぽくなってしまうので、ここでは簡略化して書いていると考えてください。その前提に立つと、現在の科学で手が届きそう(核融合自体は実現していますが、エネルギー源としては未実現なため「届きそう」)な最強のエネルギー源である核融合を使ったロケットというのは、いずれ人類の強力なツールになると確信しています。
2つ前の段落で「大学院では」と書きましたが、実はそれにも理由があります。レーザー核融合ロケットに関連する研究を完全にやめたわけではないのですが、自分の専門分野を拡張したいという意図もあり、博士課程の後に軸足を置く場所を移してみることにしました。高専の場合は全ての教員が自らの研究室を持つシステムで、研究内容を完全に自由に決められるというのは良い点かもしれません。
現在の研究の主軸は、極限環境ロボティクスです。特に内部海を持つ天体に興味を持っており、内部海の潜水探査を行う無人探査機を開発したいと考えています。
人類が開発した探査機はこれまで、地球外に到達し、陸を走り、空を飛びました。しかし、海を泳いだ探査機は未だかつてありません。
地球外の海に生命体が存在していれば大発見ですし、生命体が存在しない場合には人類が初めて見る生物の痕跡のない海ということになるのではないでしょうか。これからの宇宙探査において、海というフィールドは非常に魅力的であると感じています。
もちろん一足飛びにそこまで実現できるわけではありませんので、現在は基礎技術の開発やプロトタイプの開発を行っています。残念ながら競争的資金の審査には落ちてしまい、もっとブラッシュアップが必要かなとも考えているところなのですが、研究室の学生たちと協力しつつ、開発を加速させていきます。人類の開発した探査機が地球外の海を泳ぐ日を楽しみにしていただければと思います。
最後に一つ、今までの話の流れから飛びますが宣伝をさせてください。私は現在、一般社団法人次世代ロボットエンジニア支援機構( https://scramble-robot.org/ )という組織にも所属しており、次世代エンジニアの育成や現役エンジニア向けの勉強会開催などを行っています。
ものづくり支援を行う関係上ある程度の予算が必要となり、スポンサー企業様や個人サポーターの方々の暖かいご支援をもとに活動しております。このたび2022年度の個人サポーター募集を開始しましたので、もしご興味ある方がいらっしゃれば、ご支援いただけると幸いです。
( https://twitter.com/Scramble_JPN/status/1511297603861823491 )
スペースの関係上、細かい説明を省く形となり申し訳ありませんが、機構の詳細はWebページよりご確認ください。( https://scramble-robot.org/ )
なお、ロボコン等に参加している学生の皆さんにはSTEPという支援プログラム(昨年実施分: https://scramble-robot.org/support_info/step2021/ )がありますので、今年度の募集が始まりましたらぜひ応募してみてください!
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枝本雅史
1993年生まれ。北九州高専(準学士)→高知工科大学(学士)→九州大学(修士・博士)→岐阜高専。サーフィンが趣味だったが、海が遠いなあと思う日々。もう一つの趣味である剣道もCOVID-19の影響で稽古できる場所がなく悲しみに暮れている。