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太陽の空より vol.9 河村聡人

タイトルの「太陽の空」について考えている当連載ですが、今回は太陽風について踏み込んだ解説に挑戦します。かなりマニアックです。

太陽には磁場がある、つまり磁石が埋まっているようなものなのですが、その磁石を動かすとどうなるか少し考えてみましょう。
磁石を手に持ってみてそれを振ってみてください。その磁力線は磁石の位置に従って刻一刻と変わるはずですが、少し遠くで磁力線を測るとほんの少しずれて方向が変わるはずです。
我々の身の回りの空間ではその速度はほぼ光速なので、目でそのズレを認知することは不可能ですが…

実は磁場変化が伝わる速度は環境次第で遅くなります。例えば太陽からある程度離れた辺りでは200km/s以下で、光速である300000km/sよりもはるかに遅くなります。
なぜこれほど遅くなるかの詳しい説明は割愛しますが、プラズマ状態の物質が満たした空間では磁場の変化が伝わる速度が遅くなります。このプラズマ中で磁場の変化が伝わる速度のことをアルヴェーン速度(Alfven speed)と呼びます。
太陽表面の光球は大小様々な磁石が埋まっているような状態なのですが、それら磁石の振動や太陽そのものの自転によって磁力線は変化し続けます。
この磁力線の変動は波となり上空へ伝わりますが、これはすなわち力を伝えるということであり、その力によって空間を満たすプラズマは徐々に外側へと加速されていきます。
磁力線の変化が伝わる速度(アルヴェーン速度)は環境によって決まっている一方で、その磁場が含まれたプラズマ自体はそれよりも速く動くことができます。ちょうど音速と超音速旅客機の関係のようです。
超音速旅客機の外の空気はどれほど頑張っても超音速旅客機で運ばれる空気に追いつくことはできません。太陽表面の光球から出る磁場の変動の波により加速された太陽大気のプラズマは、環境の変化も相まって、やがてアルヴェーン速度を超えます。その地点をアルヴェーン・ポイント、またその点の面的な広がりをアルヴェーン面といいます。
アルヴェーン面を超えた太陽大気のプラズマは太陽に戻ってくることができません。この吹き出している太陽大気を太陽風と呼びます。

右側の論文の図は数値計算によって導き出された、異なる自転速度の星のアルヴェーン面(Alfvén surface)とそこから吹き出す風に乗っている磁力線描いています。自転が速いとより巻き付いたよう な磁力線になっていることがわかります。
さて、吹き出した太陽風も宇宙の彼方まで届くわけではありません。では行き着く先はどこなのか、 次回のお話といたします。

河村聡人(かわむら あきと)
アラバマ州立大学ハンツビル校卒(学士・修士)、京都大学大学院退学。太陽・太陽圏物理学が本来の専 門。最近は地球観測も。天文教育普及研究会2023年度若手奨励賞受賞。
オリンピック始まりましたね。とはいえ時差でリアルタイム視聴がなかなか難しいのが悩みどころ。一番注目しているのは男子サッカー。

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