見出し画像

リーマンサット・プロジェクト 宇宙で自撮り!超小型人工衛星「RSP-01」

初めに

皆様初めまして。
リーマンサット・プロジェクトの技術広報課長の鬼頭佐保子と申します。
前回は、趣味で宇宙開発をしているリーマンサット・プロジェクトの組織について技術広報の視点からご紹介させていただきました。今回は、宇宙で自撮り「RSP-01」人工衛星「RSP-01」の開発や衛星運用について、普段仕事で宇宙開発に関わらない普通のサラリーマンたちがどのように宇宙開発をしているのかを、技術開発メンバーの視点からお話させていただきたいと思います。

超小型人工衛星「RSP-01」とは何か?

2021-9月号-RSP-01W

リーマンサットがつくる超小型人工衛星は、1U(Unit)が一辺10センチメートルの立方体で重さは1キロ程度のキューブサット(CubeSat)です。キューブサットは、今までは製作から打ち上げ、運用まで一通りの宇宙開発が低コストかつ短期でできるとして主に大学研究機関などで宇宙技術教育や技術研究目的で実施されていましたが、最近はベンチャー企業も参加するなど宇宙ビジネスの世界まで広がるものとなっています。ただ、リーマンサットの場合は、当初から学術的な検証やビジネス展開を目標としているわけではなく、趣味で宇宙開発をしています。そのため、どちらかというと夏休みの自由研究的な感覚で、宇宙に人工衛星を飛ばして何をやりたいかをテーマに、自分が興味をもっているもの、つまりこれが宇宙に結びついたら楽しいな!できたらいいな!と思うものを作って、実際に宇宙で動かしてみるということが各プロジェクトの動機であり目的となっています。「RSP-00」「RSP-01」「RSP-02」と続くキューブサットには、先代が開発した技術や開発経験で活かせるものは遺伝子として引き継ぎますが、次号機に開発課題を託すということはなく、各プロジェクトで全く新しいミッションを考え、技術開発メンバー、技術開発も一からつくることから始まります。

「RSP-01」のメインミッションは、かっこいい人工衛星が地球を背景に自撮りすること。どのようにかっこよくデザインをし、どのようなイメージの自撮り写真を撮りたいのか。そこから技術開発が始まります。愛称を「Selfie-sh」(selfie + selfish)と名付けたように、「RSP-01」は集まった開発メンバーが宇宙で実現してみたいというワガママをたくさん詰め込んだ人工衛星となっています。例えば、人工衛星の開発としては余計な部品や色彩などはなるべく抑える方が重さや宇宙環境における色や素材の変化リスクも減ると考えがちですが、手にするとき、自撮りをする時にかっこいいと思えるようなデザインワッシャーを付けたり、リーマンサットのカラーであるブルーを強調するデザインは譲りませんでした。

さらに、自撮りアームについても出しっぱなしにするのではなく、撮影するたびに伸縮し、撮影しない時は筐体にしまって扉も閉じます。そして食パン1斤くらいの大きさのながら自撮り機構だけでなく、姿勢制御を担う磁気トルカだけでなくリアクションホイールも搭載してみたい、通信機も複数台載せたいという思いを切り捨てることなく、構造や設計を何度も工夫し直しながら搭載しています。これだけの多様な性能を動かすためのソフトウェア開発もしながら、「RSP-01」はメインミッションの他にサブミッションとして、美しい自撮り写真だけを自動選定する機械学習による画像認識機能や人工衛星とおしゃべりができるチャットボット機能も組み込んでいます。

サラリーマンによる週末開発で人工衛星はつくれるのか?

2021-9月号-rsp開発風景2

(江戸川にある工場での開発現場のようす:2018年撮影)

リーマンサットはサラリーマンが中心なので、主に週末にさらに平日の夜や連休などの時間をやりくりして開発をしています。そのため、プロジェクトの開発系統(例えば電源、構造、C&DH、姿勢制御など)と役割をメンバーで細かく振り分けてコツコツと製作や試験を繰り返しています。コロナ禍になる前から、LINEやSkypeやBacklogなどコミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールを駆使しながら、工場がある東京に来られなくてもオンラインで開発に遠隔参加できるようにしていました。

また、趣味なので仕事が急に忙しくなったり、ライフイベントで開発に参加ができなくなったりという人もでてくるのですが、そこも誰かが受け継いで開発をしています。趣味の社会人サークルの場合、人を管理するのは難しいので、工程管理と作業できるメンバーの確保はすごく難しかったのではと思います。それでもRSP-01プロジェクトマネージャーは、できる誰かに押し付けることなく、やりたい人の気持ちを尊重しながらきっちりプロジェクト管理されていました。リーダーすごい!というのはチームメンバー誰もが思っていると思います。また、工場開発時期にはご飯とおやつもしっかりとり、息抜きに飲み会や合宿というのも挟みつつ開発していたので、開発は結構コツコツ地道になのですが、一人ではなかなかできない人工衛星開発を愉快な仲間たちとつくりあげるぞという雰囲気がありました。

さらに、できないけれどやりたい!という人がいれば、開発メンバーが勉強会やオンラインもくもく会を行い、やりたい人を巻き込んで一緒に開発していたのもリーマンサットならではないかと思います。ビジネスの現場なら2~3人でやる作業を5人も6人も関わっていたりします。極端な例でいうと、宇宙に実際に飛ぶフライトモデルの最終段階で筐体のネジを接着剤付けて絞める作業は、構造系のメンバー1人でもできますし、その方が効率的です。ただ、宇宙いく最後のネジ締めやってみたいというメンバーが多かったので、優しい構造系のメンバーが接着剤を用意し、ポイント指示をしながら、一人一本ネジ締めをしました。まるで人工衛星を送り出すセレモニーのようでしたが、自分が締めた1本のネジが今宇宙にと思うだけでも喜びを分かちあえるものだと思います。こうして、開発メンバーがひとりひとり関わりながら完成させた「RSP-01」ですが、人工衛星が人工衛星になれるのは宇宙に行ってからです。

2021年-9月号-rsp-JAXAに納める前に

(RSP-01技術開発メンバーたち。女性も男性もエンジニアも非エンジニアも共創開発)

ついに宇宙デビュー、そして「人工衛星」運用開始!

2021-9月号ーrsp-01_deploy_countdown_1days

「RSP-01」は、2021年2月に米国からアンタレスロケットで打ち上げられた補給船「シグナス」に搭載され、ISSに届けられました。そして、いよいよ宇宙空間に放出してからが、「RSP-01」の人工衛星デビューとなります。人工衛星は地球を回るだけでなく、開発者が宇宙で実現したいミッションを達成すること。そのためには地球にいる開発者と双方向でコミュニケーションできる必要があります。そのため、3月14日にISSから放出されるまでにアンテナや無線機などの衛星運用に必要な地上局の整備、運用システムの開発、そして運用オペレーターの募集と登録も衛星製作と同時にすすめていました。残念ながら、新型コロナ感染症拡大の影響で、RSP-00の時のようにロケット打ち上げや人工衛星の宇宙への放出をみんなで集まってみるということができなかったのですが、オンラインで開催しました。ただ、オンラインだからこそ、開発者だけでなく世界の人がこの瞬間をライブ映像で見ることができ、感動を共有できたと思います。

2021-9月号-rsp-放出の様子

2021-9月号-rsp-工場での運用の様子

ISSから放出される「RSP-01」は90分で地球を一周し、地上局のある江戸川区上空を通過するのは毎回10分程度なので、衛星運用はそのタイミングでの交信が勝負です。アマチュア無線を使ったモールス信号(CW)での交信なので、運用オペレーターはアマチュア無線3級の資格がいりますが、逆に3級さえとってしまえば、やりたいといった誰もが人工衛星運用に関われます。記念すべき3月14日の最初の運用は、ISSから放出されて人工衛星にスイッチが入って30分後に日本上空に来るときです。実は、このファーストパスと言われる最初の一声をキャッチできないというのも珍しくないので、キャッチできたときは歓喜と感涙の嵐でした。

最初はCWと呼ばれる「RSP-01」の声やHKデータと呼ばれる基本機能の値を取得し、記録し、CWのデコードをし、データ分析して検証するを繰り返し、そしていよいよメインミッションの自撮りを開始できたのは、1か月くらい経ってからでした。1UでしかもRaspberry Piで地球をバックに自撮り撮影をする、画像データを少しずつ落とす、一枚画を復元しているので、サムネイル画像1枚でも数回の運用が必要です。それでも、青い地球を背にデザインもわかる「RSP-01」の自撮り画像を見た時は感動的でした。

そして人工衛星はCWを発信しながら90分で地球を一周するわけですから、衛星運用の機会は毎日あります。とはいえ、サラリーマンは平日の日中は仕事があるので、運用当番も夜か早朝かお休みの日に限定されます。それでも運用が継続できるのは、運用したいオペレーターの数が割といることと、工場までいかなくても遠隔でオペレーションができることが大きいと思います。以前は、夜や早朝たとえ休日でもコマンドを打ちに地上局のある工場に頻繁に行くのは物理的に無理だと思っていたのですが、今は自宅からでもインターネットさえあれば、工場の運用システムに繋いで、RSP-01に「写真撮って」「メッセージ送って」等のコマンドを打って交信できます。宇宙にいる人工衛星と交信するのが日常生活のなかに組み込まれている。少し前には考えられない情景だったのではないかと思います。

現状は、6月半ばから衛星から応答がとれなくなったり、時折小さく聞こえたりという状況のため、フルHDの写真データ取得は中断していますが、原因究明に向けたコマンドを打ち、人工衛星に搭載しているものと同等の部品を使って、様々なソリューションケースを衛星開発メンバーと検証するための運用をしています。(「RSP-01」運用情報については、専用サイトをご覧ください)。宇宙で自撮りアームを作動させ、地球を背景に自撮りするというメインミッションは達成できていますが、フルHD画像の取得やサブミッションで遊ぶなどやりたいことがたくさんまだあるので、今日の運用で復帰できないかと思いながら、運用を続けています。

新たな人工衛星開発に向けて「RSP-03」プロジェクトはじまります!

さて、リーマンサット・プロジェクトでは2024年度打ち上げを目指す参号機「RSP-03」プロジェクトが、いよいよ始まります。年内にミッションを検討し、年明けから開発を開始する予定です。人工衛星を使って宇宙でどんなことをしたいのか。そんな新たなミッションを考える「ミッション検討会」は、第1回9/18(土)、第2回10月30日(土)、第3回11月27日(土)に開催されます。こんな技術的検証をやってみたいという方も、技術的にできることなのかわからないけれど楽しいアイデアはあるという方もフラットに検討できるので楽しいです!「RSP-01」でも運用しながらやっぱりまた作りたいよねというメンバーもいて、次はこんなミッション楽しくない?と雑談したりしています。全ての回に参加できなくても問題はなく、最終的には12月のプレゼン審査で決まります。実は身近な人工衛星開発に最初から関わってみたいという方は、ぜひリーマンサット・プロジェクトにご参加ください。(参加はこちらから)

画像8




画像7

鬼頭佐保子(きとう・さほこ)

仕事では国際事業に携わり、世界どこにいても繋がるソラを見上げながら、ライフワークとして「身近な天文宇宙を繋げて広げていきたい」と思い、星のソムリエとJAXA宇宙教育リーダーとして活動をはじめる。宇宙開発もいかがと紹介された「リーマンサット・プロジェクト」では、技術広報として宇宙技術関係の執筆や企画等を手掛けるほか、人工衛星「RSP-01」プロジェクトのC&D系、衛星運用オペレーターとして活動中。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?