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「宇宙×美容」宇宙生活における美容の現在と未来-前編-[斉藤良佳]

 みなさん、宇宙美容と聞いて何を思い浮かべますか?キラキラした化粧品や特殊なエステ?想像もつかないかもしれませんが、なんとなく興味を惹かれますよね。
今回は宇宙美容機構の寺岡慎太郎さん、殿木修司さん、森裕和さんにお話を伺いました。美容のプロであり機構のCo-founderである寺岡さん、殿木さんには、美容の奥深さや宇宙美容の現在・未来について、宇宙ビジネスの専門家である森さんにはビジネスとしての宇宙美容の可能性について熱く語っていただきました。
今月号では、宇宙美容機構とは?宇宙美容の面白さは?というところから始まり、ビジネスとしての宇宙美容の可能性について紹介します。

取材の様子
左上段:殿木さん 左中段:寺岡さん 
下段:森さん  右上段:Space Seedlings斉藤

宇宙美容機構を作られたきっかけや、活動内容を教えてください。
殿木さん(以下「殿」):AIやVRといったテクノロジーで美容が大きく変わると言われています。化粧品や美容室がなくなるかもしれないという中で、未来の美容を考えたいという話になり、辿り着いたのが宇宙です。
美容と起源を同じくする医療は宇宙と融合しているので、美容も宇宙融合するかもしれないと考えました。 (活動を始めた3年前には)誰もやっていなかったので、自分達がやろうとなったのがきっかけです。
歴史を見ても人がいるところには美容があったので、人が宇宙に行く時代にも美容が必要だということで、JAXAの活動THINK SPACE LIFE(※)から一般社団法人を作りました。
今はMIRRORという機関紙の製作、企業と一緒に美容の課題解決を目指す共創プロジェクトや、ワークショップや化粧品の開発を通じて宇宙美容に興味を持ってもらうためのカジュアルなコミュニティを一般向けに始める予定です。

THINK SPACE LIFE

THINK SPACE LIFE:JAXA発・宇宙生活の課題から宇宙と地上双方の暮らしをより良くするビジネス共創プラットフォーム。コミュニティでの勉強会や、宇宙実装を想定したプロダクトの共同開発などを行う。

宇宙の美容を創造する、世界初の宇宙美容マガジン 『MIRROR』
宇宙での暮らし・美容の課題解決をする 共創プロジェクト
​共創プロジェクト参加企業
JAXAのTHINK SPACE LIFE とSMA(Space Medical Accelerator) とSCO(Space Cosmetology Organization)で進めている宇宙での暮らしを考えるプロジェクト

宇宙美容と普通の美容との違いは?
寺岡さん(以下「寺」):環境が違うので、そもそも使える道具が違います。アルコールを含むものを持っていけません。
また、重力がないことで、道具の使い方も変わってきます。爪を切るのも難しいですし、髪を洗うのも大変ですよね。そのやり方を考えることは、新しい美容の糸口にもなると思います。
また、美容は生活に必須です。メイクなど華やかな部分だけが注目されていますが、医療問題を防ぐための(清潔を保つ)衛生行為、文化や社会生活を営むための活動も含まれます。例えば宇宙での恋愛や家族生活にも美容は関わってくるので、ものを作るだけではなく、(社会的な)議論を活性化していきたいと思っています。

殿:議論を深めるだけではありません。美容ではモノとコト(使い方)がセットになっています。同じ化粧品でも使い方によって全く変わってきますよね。閉鎖・宇宙環境では地上と同じやり方ではできないので新たなノウハウが必要ですが、誰も作っていないのでそれを作ったり、課題を解決することが大きな目的です。

ビジネス面での宇宙美容の特徴とは?
森さん(以下「森」):僕が宇宙美容機構で担っているのは、宇宙産業関連の技術や動向についてのインプットが主で、海外の知見や規制の紹介などもしています。
宇宙美容は今まで全く扱われてこなかったので、面白いと思います。去年の7月くらいから宇宙旅行が本格的に始まって、やがて民間宇宙ステーションもできて、月面にも人が住むようになる。
すると生活の質も必要になってくるので、そこにビジネスの可能性があります。生命維持や医学はある程度下地が出来ているので、今度は美容など生活を快適にするようなものが注目されています。
民間宇宙ステーションの事業者も、ISSのようなサバイバルキャンプではなく、快適な生活を目指そうとしています。

今まで宇宙の化粧品を作っている企業はなかったのですか?
森:ロレアルやP&Gなどの大きな企業がやっていましたが、単発のプロジェクトが多かったです。NASAの飛行士も宇宙での暮らしに悩みを抱えているので、本格的な参入ができる可能性はあります。

では、NASAには暮らしに注目したプロジェクトはないのですか?
森:JAXAはSpace Life Story Book(※)を作りましたが、NASAにはないですね。彼らは生活用品の優先順位は低めで、安全審査の方を重視しています。一般社団法人みたいなものはありますけど、国の機関が積極的にやっているのはほとんど日本だけです。
宇宙旅行者にも知り合いはいますが、彼らはできるなら快適にしてほしいと思っています。そもそも、昔はワークライフバランスも改善が必要な状況でした。土日も働いていましたが、今はとてもホワイトになりました。一方宇宙ステーションのインフラ(生活環境)は20年前と変わりませんが、設備の都合もあり諦めているようです。ただ、民間は一から作るので、改善を期待しています。

Space Life Story Book

Space Life Story Book:宇宙飛行士の実体験をもとに作られた、宇宙生活の課題を紹介し、より良くするためのヒント集。
2020年にSpace Life Story Bookで取り上げられた課題を解決する生活用品の公募が行われ、靴下やボディーシートなど9製品が採択、2022年10月打ち上げの若田宇宙飛行士のミッションで宇宙へと飛び立った。

宇宙生活用品のオーラルピース  JAXA提供

宇宙生活用品のオーラルピース:若田飛行士のミッションに採択された、体と環境に優しい飲める成分の歯磨き・口腔ケア製品ORALPEACE。「パーソナルケア」の困りごとを解決する。

現在、宇宙に生活用品を持ち込む上での壁やレギュレーションはありますか?
森:持ち込み品の安全基準があります。
新しい生活用品を持っていくシステムや機会は、JAXAの公募やTHINK SPACE LIFEの取り組みくらいしかありません。

では、将来のレギュレーションは?
森:FAA(アメリカ連邦航空局Federal Aviation Administration)が検討しながら民間と一緒に作っているようです。ベースはISSの安全審査と大きく変わりません。今までは安全基準がかなり厳しく、微量でもアウトでしたが、もう少し緩めるという話も出ています。ですがすぐには変わらないでしょう。

宇宙美容はこれからどういうアピールをしていくのですか?
森:まずは認知をしてもらうことです。宇宙食などは自分達より先に始めて成功しているので、そうした宇宙×OOの成功例を見習っていくことです。
異業種の人に入ってもらったり、JAXAとも協力したり、一般のメディアに出していくことも考えています。宇宙分野の情報は宇宙好きの間で止まってしまうことが多いのですが、そうでない人にも知ってもらえるように情報を出していこうと思います。
将来的なニーズがあることはわかっていますが、認知度がないとどうにもならないので。他の宇宙の生活用品も最近急激に増えているので、チャンスはあると思っています。
また、エリアを日本に絞ることにメリットはありません。宇宙美容は、その良さをコアな人が気づいて、徐々に広まっていくのではないかと思います。

前編をお読みくださりありがとうございました!宇宙美容は、宇宙社会の議論を活性化させるのみならず、ビジネス的にも大きな可能性があるとのこと。宇宙での「暮らし」に取り組むJAXAや日本企業とも連携しながら、世界に広まっていくのが楽しみですね!
次号では宇宙美容が地上にもたらす効果や、宇宙美容機構の今後の展望についてご紹介します。

寺岡 慎太郎
一般社団法人宇宙美容機構 Founder/代表理事
Spacecosmetology株式会社 Founder/CEO
NYでヘアメイクアーティストとしても活動。真の美しさとは何か、未来の美容とは、宇宙での美容はどうなるのかという考えにたどり着き、宇宙美容という美容分野でも宇宙分野でも未開拓の分野でフロンティアとなるべく、2019年Space cosmetology株式会社を設立し、宇宙美容プロジェクトを開始。2021年 JAXA THINK SPACE LIFE コミュニティでの活動から一般社団法人宇宙美容機構を設立。

殿木修司
一般社団法人宇宙美容機構 Co-founder 理事/Spacecosmetology株式会社 Co-founder/株式会社ビューマックス 代表取締役/株式会社Beautyline 代表取締役
/特定非営利活動法人 Beaufa 代表理事
クリエイター・アーティストとして活動をする傍ら、美容に特化した株式会社ビューマックスを創業。
ビューティークリエイティブディレクターとしてブランディング、商品企画・研究開発、広告宣伝物制作、プロモーション、美容理論開発、ソフト・メゾッド開発など、化粧品会社の幅広い業務を請け負う。

森裕和
​​一般社団法人宇宙美容機構 理事
英エジンバラ大学理論宇宙物理学部飛び級入学・首席卒業。
エジンバラ王立協会から支援金を受け、理論宇宙論の研究(重力波・修正重力論)経験あり。
プロダイバーとして地中海で活躍し若手プロダイバーとして欧州・地中海エリアで賞も受賞し有名ダイビング雑誌に掲載される。バックパッカーの経験もあり、現在までに約90カ国訪問。日本に帰国後、野村総合研究所で経営コンサルタントとして、宇宙×グローバル×DXの新規事業創出と事業戦略をテーマに戦略コンサルティングを行う。世界初民間宇宙飛行士訓練施設Blue AbyssのCo-Founder兼VP of Business Development、アジア最大級の宇宙ビジネスプラットフォームSPACETIDE CxOアドバイザー、宇宙美容機構 理事など併任。Satellite ShowやSmallSat Conference、World Satellite Business Weekやオーストラリア政府主催の地球観測会議GEOWEEK2019のインダストリトラック等で多数登壇。趣味は沈船・海中洞窟ダイビング、飛行機操縦、ピアノ演奏、美術、宇宙物理等。宇宙飛行士として月面探査に参加するべく日々研磨している。


斉藤良佳(さいとうよしか)
京都大学医学部5年。一般社団法人Space Medical Accelerator理事。宇宙医学を学ぶ学生団体Space Medicine Japan Youth Community運営。宇宙医学を学び、その可能性を模索する傍ら、宇宙ビジネスにも興味を持ち、一般社団法人SPACETIDEでプロボノとして活動。


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