太陽の空より vol.10 河村聡人
タイトルの「太陽の空」を追いかけるシリーズも残り今回と次回の予定です。前回は太陽風の仕組みについて、マニアックなお話となりました。
今回はその太陽風の行き着く先のお話です。
太陽から吹き出した風は外へ外へと広がっていきますが、その勢いは弱まり、やがて恒星の間を埋める物質(星間物質)の流れと釣り合います。
このスケールにおいては星間物質は均質に一方向から流れているとします。その上流方向に向かう方向において、太陽風は星間物質と正面衝突し、横へと流れます。全体的な形としては下の図の緑色~赤色の範囲の様に彗星の様な形となります(形について は彗星型派閥とクロワッサン型派閥があります。僕は彗星型派閥の出身なのでこちらの形で)。
この星間物質と太陽風の境界面のことをヘリオポーズと呼びます。太陽からヘリオポーズの距離は最も近い星間物質の流れの上流方向において約120天文単位です。1天文単位が地球と太陽の距離(約1億5000万km)なので、その120倍、光でも約16時間半かかる距離となります。ちなみに太陽 から天王星が約20天文単位、海王星が約30天文単位、冥王星が約40天文単位となります。
ヘリオポーズを超えたところは星間物質の領域であり、そこに浮かんでいる物質は太陽から来たものではありません。太陽風も星間物質も非常に希薄なので普通の気体なら衝突しませんが、どちらもプラズマなので、磁場の作用により衝突します。
このプラズマの衝突により太陽圏の内外にさらに構造ができます。特に内側には、超音速の太陽風がヘリオポーズ手前で急激に減速し亜音速となる末端衝撃波面(termination shock)ができます。
上の図で太陽の周りの緑色の領域から急激に赤色となるのが末端衝撃波面です。太陽から約80天文単位あたりになります。
このような構造は流体としての性質に則ったもので、密度や速度など異なるところは多々ありますが、似た構造を水で再現することができます。キッチンの流し台でヘリオポーズを作ったという図がNature論文になってたりします。(Jokipii et al. 2008 https://www.nature.com/articles/454038a 有料論文ですが、HP右側のFiguresから確認できるFigure 1が該当の図です。ライセンスの都合によりリンクにとどめます)。
太陽圏の外側は太陽と全く関係ない世界かというとそうではありません。太陽の重力は太陽風よりも はるか遠くまで届きます。この太陽の重力が支配的な範囲をオールトの雲と呼びます。大きさには諸説ありますが、約1光年=約6万天文単位とすると、太陽圏境界面までの距離の500倍になります。
太陽の周りを回る最外縁の惑星は海王星(太陽から約30天文単位)ですが、その軌道の外側には冥王星を含むエッジワースカイパーベルトがあります。そのさらに外側には散乱円盤があり約1000天文単位まで広がっているともいわれています。
エッジワースカイパーベルトと散乱円盤の境界はあやふやで、時にふたつ合わせてカイパーベルトと呼ばれたりもします。エッジワースカイパーベルト 以遠から太陽近傍まで落ちてくる天体の多くは彗星です。一方でエッジワースカイパーベルト以遠に 居続ける天体もおり、それらを太陽系外縁天体と呼びます。太陽系外縁天体の組成はまだまだ未知な部分が多いですが、メタンなどの有機物を含む岩や氷(水の氷だけでなく二酸化炭素や窒素の氷など も)で出来ていると考えられています。太陽系外縁天体が何らかの理由でその軌道を変え、太陽近くまで落ちてくるとその氷が蒸発して彗星として認知されます。
散乱円盤のさらに外側では天体は円盤上ではなく、太陽を中心に四方八方に飛び交っています。この広がりをオールトの雲と呼びます。超長期彗星の軌道の研究から、約1光年ほど広がっているのでは ないかと目されています。オールトの雲の端が太陽の重力が支配する領域の端です。オールトの雲の外側で物質を手放したとすると、それは太陽以外の星へと落ちていきます。
こういう話をしていると、太陽系がどこまでかわからなくなります。実際、人類は太陽系についての理解を深める度にその言葉が意味する範囲を変更してきました。僕は個人的に、太陽惑星系・太陽プラズマ圏(太陽圏)・太陽重力圏(オールトの雲)と呼び分けています。
さて、長かった「太陽の空」についてのお話も、いよいよ次回が最終回です。我々が日常で認識する 「空」と太陽から見た「空」の類似性について考えます。そのあと、次々回からはまた別のネタでお話していこうと考えています。
河村聡人(かわむら あきと)
アラバマ州立大学ハンツビル校卒(学士・修士)、京都大学大学院退学。太陽・太陽圏物理学が本来の専 門。最近は地球観測も。天文教育普及研究会2023年度若手奨励賞受賞。突然の海外出張でドタバタし てました。カンボジアは日本よりも過ごしやすい気候でした(スコールは除く)。
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