好きを貫き、夢への道を切り拓く! 前編[穂積 佑亮/江島 彩夢]
今回は「Space Seedlings」として、一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA:シーラ)代表理事・機構長である村木風海さんに取材させていただきました。地球温暖化問題と火星移住を見据えて二酸化炭素研究に取り組んでいる、東京大学2年生の村木さん。今月号では、村木さんが現在に至るまでのお話をご紹介します。
本との出会いがくれたきっかけ
穂積(Space Seedlings 以下S.S.):村木さんが現在の研究を始めたきっかけを教えてください。
村木さん:きっかけは小学校4年生の時です。祖父からプレゼントされたスティーヴン・ホーキング博士の著書である『宇宙への秘密の鍵』を読んだことがきっかけです。本の中に出てくる火星の描写と、実際に探査機が撮影した火星の光景に心を奪われたんです!そして、感動すると同時に「いつか絶対にここへ行くんだ!」という、夢というよりはある種の確信に近い何かを感じました。しかもその本には、人類が地球以外で最も住める可能性の高い星は火星だと書いてあったんです。そこから「火星に住むには」というテーマで研究を始めました。
画像(左):『宇宙への秘密の鍵』(著者:ルーシー&スティーヴン ホーキング)
画像(右):村木さんが心を奪われた、火星の青い夕陽(NASA)
S.S. 穂積:なるほど!今も続く研究の原点は「火星に住みたい!」だったんですね。
村木さん:そうなんです!なので、小学校4年生の時に始めた研究のテーマは二酸化炭素回収や地球温暖化の解決ではなく、「火星に住むには」というテーマでした。そして、調べていくうちに火星の大気の約95%を二酸化炭素が占めていることを知ったんです。そこで、火星に住むための鍵として二酸化炭素に興味を持ち、二酸化炭素を集める研究に行き着きました。
なので、僕にとっては今も地球温暖化問題の解決は通過点でしかなくて、ゴールは火星に住むことなんです。火星が常に研究の原動力ですね。だけど、自分が火星に降り立つ瞬間を想像した時に、地球が温暖化により壊滅的な状況になっていたらすごく悲しいなと思っていて。僕は地球をいつでも帰れる故郷のような、安心できる場所にしたいんです。なので、地球の温暖化問題を解決して、それから火星へ行こうと思っているんです。
S.S. 穂積:火星に住むための研究としてスタートした二酸化炭素回収の研究が、地球温暖化問題につながったきっかけは何だったのでしょうか?
村木さん:中学2年生の時、偶然にも学校の図書室で「気候工学」という分野の専門書と出会ったんです。人工的に地球を冷やす科学技術などが紹介されている気候工学分野の専門書と出会ったことで、地球温暖化について深く考えるようになりました。そして、その本との出会いをきっかけに、自分のやっている研究は火星に住むためだけではなく、地球の温暖化問題も解決できるのではと気づきました。そこからは、温暖化問題の解決と火星移住の両方を目標に据えて研究を行っています。
画像:NASA
自分を信じ、口にして、形から入ることが大切!
S.S. 穂積:そうして、今も続く研究の大きな二つの目標が決まったんですね。その研究の軸は当時から変わっていないように思うのですが、現在に至るまで順調に研究を進めてきたのでしょうか?
村木さん:決して順調な研究生活ではなくて... 2019年頃からやっと研究に注目してもらえるようになったんですけど、それまではずっと否定され続けてきました。例えば、中高時代の指導教官には「お前の研究の何が面白いんだ」「いますぐやめてしまえ」と言われました。実験をするにも薬品庫の鍵は先生が管理していたので、先生の許可がないと学校では実験もできませんでした。僕が「こうやれば上手くいくと思うので、薬品を使わせて欲しいです!」と説明しても、先生がまともに聞いてくれず薬品も使わせてもらえませんでした。けれど、先生の目を盗んでこっそり二酸化炭素を集める実験をしたことがあって(笑) そうして実験をしてみたら、先生が絶対に無理だと言っていた仕組みが上手くいったんです。「おおっ!」と思って。そして、もう一度先生の目を盗んで無理だと言われていた別の実験を行ってみたら、そっちもまた上手くいって。無理だと言われ続けていた研究が、やってみたら二つとも上手くいったんです。
その時から、僕は「誰かに否定されればされるほど上手くいく!」と思い込むようにしています。僕自身はもともとメンタルが強い方ではないんですが、そう思い込むようにしてからは気持ちがすごく楽になったし、今でも自分の好きなことをずっと貫けるように、そう思い込んで研究しています。
画像:CRRAのラボにて
S.S. 穂積:「誰かに否定されればされるほど上手くいく!」の他にも、村木さんが自分らしく研究を続けるうえで大切にしている考えはありますか?
村木さん:僕はいつも人生を終える時のことを考えて、そこから逆算して行動しています。そうして人生を考えた時に、他の人の言うことを聞いていても誰も責任をとってくれないし、自分のやりたいことをやらずに人生が終わるのは嫌だなと思って。「自分の人生の舵は、自分が握らなきゃ誰が握るんだ!」って、そう思うんです。
具体的な行動で大切にしているのは、夢や目標を口にすることです。壮大な夢や目標を口にすると、周りからビッグマウスなどと言われることが多々あると思います。でも、僕は研究をするときの腰が重いので、今後の目標などを口にしちゃった方が背水の陣になって、行動しやすくなるんです。最初の頃は、周りに言わずに凄いものを作って発表する方がかっこいいと思っていたんですけど、僕はあまりそのやり方が得意なタイプではなくて。自分の場合は口に出して発表しちゃった方が「やばいぞ、これは後戻りできないな。」と思うようになって、結果として目標を実現する可能性が高くなったと感じています。
もうひとつ、自分が夢を叶えるために大切にしている行動は、形から入るというか、先にすべての形を作って動けなくするというものです。僕はこの炭素回収技術研究機構、CRRA(シーラ)を高校2年生の時に設立したのですが、実は総務省の「異能vation」というプロジェクトに採択されたその日につくったんですよ。白衣もその日に発注し、Webサイトまで作りました。研究機構と言っても研究員はもちろん僕しかいないし、部屋のドアにロゴを貼っただけなんですけど、それでも夢や目標を実現するためには形から入ってみることがとっても大切だと思っています。
当時、親にはすごく恥ずかしがられたけれど、自分が高校生だからといって遠慮していると、高校生の枠の中で終わっちゃうと思うんです。だから、研究員は1人だけどJAXAみたいな何千人もいる立派な研究機関っぽい名前をつけて、組織づくりを考えて、形にしてみたんです。でも、それから3年経った今ではラボを3回移転してここまでこられたし、研究員も増えてきたし、陸・海・空・宇宙を全部制覇することを目指して活動できているので、形から入ることにはすごい力があるなと実感しています。
ごっこ遊びと逆転の発想で、夢を現実に!
S.S. 穂積:口にすることも、形から入ることも、夢や目標を実現するために非常に大切で有効な方法なのだと、村木さんの活躍を見ていると痛感します。
村木さん:子ども達って、よく仮面ライダーの格好などを真似して、ごっこ遊びをするじゃないですか。子どもが無限大の可能性を持っているのって、そのごっこ遊びが大きく影響していると思っていて。だから、僕は大人こそ「ごっこ遊び」をするべきじゃないかと思っています。夢をごっこ遊びから始めることで、現実味を帯びて実感でき、そこに大人の知識とか経験とかを組み合わせていけば、夢が現実になると思っていて。だから、僕は計画無いけど白衣を作って、会社を作っちゃって、とりあえず作って走ってから考えるみたいな方法で夢に近づいてきました。
画像:CRRAのラボにて取材の様子(ラボとオンラインで同時取材)
S.S. 穂積:村木さんは数学が苦手とお聞きしたのですが、日本で周りの学生を見ていると、数学が苦手という理由で科学の道へと進むことを諦める学生が多くいるように感じます。村木さんにはそういう考えはなかったのでしょうか?
村木さん:数学は苦手です(笑) 本当に全然できなくて、200点満点のテストで5点とか取っちゃったこともありました。でも、科学は大好きです! 僕は逆転の発想ってすごく大切だと思っていて、数学が苦手でも大好きな科学の道に進む方が良いという発想でした。逆転の発想は就職活動などでも重要だと思っていて。例えば、研究所に就職できないから研究者になる夢を諦めるのではなくて、自分で研究所を作ればいいじゃんというような発想が重要だと思います。ダメなら自分で作っちゃえみたいな、スケールのでかい、とんちんかんな発想から行動することが、案外大切なんじゃないかなと思っています。
2045年までには、自分が火星に行くための計画を立てているという村木さん。来月号では、現在CRRAが持つ技術を紹介しながら村木さんの今後の計画について紹介する予定です。お楽しみに!
村木 風海(むらき かずみ)
一般社団法人 炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長。
2000年生まれの化学者兼発明家。専門はCO2直接空気回収(DAC)、CO2からの燃料・化成品合成。現在は東京大学に在籍する傍ら地球温暖化解決と火星移住を実現すべくCRRAで独立した研究開発を行っている。2021年1月より大手化粧品メーカー・ポーラオルビスグループ、ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 特別研究員を兼任。代表的な発明にCO2回収装置「ひやっしー」などがある。
一般社団法人 炭素回収技術研究機構(CRRA)
https://www.crra.jp/kazumi-muraki/
穂積 佑亮(ほづみ ゆうすけ)
東京理科大学理工学部・建築学科4年生
【専門・研究・興味】
伝統木造構法/木組みの応用に関する研究/生き物の仕組み
Space Seedlingsのコーナーを通して、学生の視点から宇宙分野のいまをお届けすると共に、自分自身も皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。よろしくお願いします!
江島 彩夢(えしま さむ)
米コロラド大学ボルダー校 宇宙生物学 博士課程2年
【専門・研究・興味】
環境制御/生命維持装置(ECLSS)の自律化に関する研究
有人宇宙しか分かりませんが、出来る限り分かりやすく面白い記事が書けるよう頑張ります!