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宇宙教育の最先端~共同実験を通じた人材育成と人脈構築~

「宇宙教育」という言葉は今ではごく普通に聞くようになったが、一昔前は「宇宙教育」が指す意味はかなり混乱していた。その対象や範囲がとても大きいため、みんなが勝手にそれぞれにイメージで使っていたことが原因だった。そこで筆者等は2000年代初頭より、図1のような宇宙教育の分類と整理を提案している。

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図1.宇宙教育の分類表(筆者作成)

まず小学生や中学生、そして場合によっては高校生ぐらいまでを対象に、堅く言うと「宇宙を利用した科学技術全般に対する萌芽的な教育」、すなわち興味を持って貰うための教育がある(分類A)。具体的には講演会や水ロケットのように「ちょっとやってみて楽しめる」サイエンスプログラムなんかがこれにあたる。

次の段階として、いきなり専門知識や技術を駆使して…と思われがちだが、宇宙にチャレンジするためにはそれよりも必要な事がある。宇宙の特徴と言えば、多くの専門家が参加して期限内に仕上げる協働作業が上げられる。
例えば、古代エジプトのピラミッドも多くの人が参加して作り上げたと考えられているが、あれは一握りの技術者と、後は膨大な数の単純労働者によるチームだった。
しかし宇宙開発では、多種多様な分野の専門家・専門技術者が集まって仕上げる作業が重要となる。
例えばアポロ計画には1万人近い科学者・技術者が参加している。その為、「アポロ型プロジェクトマネジメント」なる考え方が生まれたほどだ。その為、宇宙教育のニ段階目としては、早ければ中学生、高校生や大学生・大学院生を中心とし、場合によっては若手技術者も対象とした、堅く言うと「プロジェクトマネジメントに関する一般教育」、すなわちチームで物事に取り組むための教育がある(分類B)。

もちろんアポロ計画のような複雑で大人数が参加するプロジェクトはいきなり出来ない。まずは、3人~8人以下のチームが2~3ヶ月ぐらいで取り組むようなテーマ(例えば缶サットやバルーンサット、ハイブリッドロケットやモデルロケットなど)が選ばれる。
何故3~8人なのか?それは、プロジェクト未経験者が10人以上集まると必ず「さぼる」「実動しない」メンバーが出てくるからだ。

3人~8人程度であれば、全員がそれなりにきちんと自律的に考えて参加しなければプロジェクトが廻らない。またあまりに短くてもプロジェクトとしてそれなりの難易度や自由度を持つテーマにならないし、長すぎるとみんなの集中力が持たない。その為、このぐらいの人数と規模で取り組むのが丁度よいのである。

また、この二段階目で重要なことは、沢山失敗をさせること。失敗というのは、「最終的に失敗してしまう」事だけでは無く、「プロジェクトが途中で空中分解してしまう」事も含む。チームメンバーが自分達自身で目標設定を行い、手順や材料もそろえ、期間中にモチベーションを維持し、ちゃんと締め切り日までにプロジェクトを終了させ成功させること。
終了して成功すればベストだが、そうならずに途中で空中分解しても、その理由をちゃんと個々人に考えさせ、体験させて心に刻ませる。それが次のプロジェクトの成功を生む。

この分類Bでは、多くの失敗を通じた悔しさが重要になる。それがようやく「宇宙関連技術・知識に関する専門的教育」、すなわちそれっぽい専門的な教育や訓練(分類C)を始めることが出来る。
ここはより本格的な「宇宙環境」を使ったキューブサットや高高度ロケット、バルーンサットなどがテーマとして取り上げられる。この分類Cでも、多くの失敗を経験することが重要だ。
そうやってようやく、最後の「宇宙関連技術とプロジェクトマネジメントに関するOJT的研修」(分類D)、すなわち「(高額 / 失敗したときの被害範囲が尋常じゃなく広い)失敗できない本物の宇宙開発をトレーニングとして学ぶ」事に参加資格のある人材が輩出される。まさにローマは一日にしてならず。周囲が安心して任せられる宇宙人材は、このようなステップを経て育成されるべきだと筆者等は考えている。

今の子供の多くは、「答え」があると思っている。例えば酸素を作る方法は?と聞いてみると、ちょっと理科をかじったそれなりに興味のある子供(分類Aを終え、Bの手前ぐらいの子供)は「二酸化マンガンに過酸化水素水をかける!」と得意気に答えてくれるだろう。

しかし、二酸化マンガンをどこから手に入れるのか、過酸化水素水をどこから手に入れるのか、答えられる子はまず居ない。あるいは水の電気分解や、もっと言うと液体空気を作ってから液体酸素を取り出すなど、いろんな別の方法があることまで考えが至る子もまず居ない。
分類Bを体験する中で、自分達のメンバーや技量、そして周りにある物で「やりたいこと」をどのように実現できるのかを、ようやく真面目に、自分達自身の問題として考え始めることが出来る。
宇宙へのチャレンジは、未知な物へのチャレンジに他ならない。すなわち、そこには今現在、「答え」などは存在しない。一人一人が、自分が世界初・人類発のチャレンジャーとして物事に取り組む事をきちんとわかる必要がある。
これは実は宇宙に限ったことではない。このような宇宙教育は、広く世界を主体的に変えていける人材育成にも繋がると我々は考えている。
…などと書くとなんだかとっても「宇宙教育」ってめんどくさそうであるが、一番重要なのは参加する生徒・学生が楽しんでもっと学びたい!と思える事だ。
結局「やらされてる」感があると教育効果なんてほとんど無くなってしまう。その点、ロケットの打上とか缶サットと呼ばれるような空中ロボット作り、あるいはバルーンサットなど「宇宙」っぽい映像(図2)を自分達で撮れるような教材は生徒・子供の心を捉えやすい。

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図2. LAWSONのからあげクン、宇宙食認定を目指し宇宙へ

毎年、秋田県能代市でお盆明けに開催される「能代宇宙イベント」
http://www.noshiro-space-event.org/
には数百名もの学生が1~2週間滞在し、参加学生同士の交流も深めている(図3. 図4.)。

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図3. 能代宇宙イベント、ハイブリットロケットの打上げの様子
(東工大CREATE 2016年。なおこの年、CREATEは最も優秀な打上チームに与えられるMHIアワードを受賞している。)

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図4. 能代宇宙イベント参加者による技術交流会の様子

また高校生向けには地方公式競技や地方大会を勝ち抜いて全国大会に参加する宇宙甲子園と総称される「ロケット甲子園」(ロケット甲子園は中学生から参加可能)
https://www.ja-r.net/koushien2.html
「缶サット甲子園」
http://www.space-koshien.com/cansat/index.html
が開催されており、優勝するとそれぞれヨーロッパで開催される世界大会への参加権利が与えられる。

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図5. JAXA山川理事長に応援されるヨーロッパでの世界大会に参加する
ロケット甲子園・缶サット甲子園の全国大会優勝チーム

このような共同実験や競技会を通じて、国内のみならず広く世界中の生徒・学生と修学段階から協力し競い合う経験を持つことで、宇宙へとチャレンジ出来る新しい人脈もまた構築する事が出来る。
ちなみに日本の宇宙ベンチャーを牽引する、衛星会社の株式会社アクセルスペースの中村社長は能代宇宙イベントの創設者の一人であり、ロケット打上会社のインターステラテクノロジズに至っては稲川社長を始め社員の多くが能代宇宙イベントで学んだ経験を有している。

まだ構築中のサイトではあるが、これらの宇宙教育は今後、「宙education」サイトに一元化されて行く予定なので、是非チェックしていただきたい。
http://sora-edu.crea.wakayama-u.ac.jp/

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秋山演亮
和歌山大学・教授 / 千葉工業大学惑星探査研究センター・首席研究員
 / 内閣府宇宙開発戦略推進事務局・宇宙政策委員会専門委員
1969年西宮生まれ。1994年京都大学農学部林産工学科を卒業後、西松建設(株)に勤務。「はやぶさ」や「かぐや」探査計画に参加、宇宙開発事業団客員研究員・宇宙科学研究所共同研究員を務める。2002年社会人として東京大学にて理学博士を取得。秋田大学・PDエアロスペース(株)を経て現職。2010年には内閣官房「今後の宇宙政策の在り方に関する有識者会議」委員を務め、現在の我が国の宇宙開発政策・体制変更に係わる。2016年より千葉工大とクロスアポイントメント、2018年より日本政府の対UAE宇宙政策担当専門委員も併任。
和歌山大学:http://www.wakayama-u.ac.jp/ifes/
千葉工業大学:http://www.perc.it-chiba.ac.jp/

『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八 』

「宇宙に命はあるのか」はNASAジェット推進研究所勤務の小野雅裕さんが独自の視点で語る、宇宙探査の最前線のノンフィクションです。人類すべてを未来へと運ぶ「イマジネーション」という名の船をお届けします。
胸躍るエキサイティングな書き下ろしです。

『宇宙メルマガ THE VOYAGE』

NASAジェット推進研究所勤務の小野雅裕さん読者コミュニティが立ち上げた『宇宙メルマガTHE VOYAGE』が創刊1周年を迎えました。
毎号、小野さんをはじめ各方面で研究開発に従事される方々、宇宙ビジネス関係者などにご寄稿頂き、コアな宇宙ファンも唸らせる内容をお届けしています!

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