エイハブの六分儀
【今月の星空案内】
紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)が話題になっていますね。読み方は、ツーチンシャン。2023年1月に中国の紫金山にある天文台とアトラス(地球衝突小惑星の発見する自動システム)の南アフリカにある望遠鏡が発見した彗星です。
9月27日に近日点(太陽に最も近い点)に到達し、そこから徐々に明るさを増し、9月の終わりから10月の初めには明け方の東の空で低い高度に見られ多くの写真にとらえられました。見事なシッポをご覧になった方も多いかと思います。ただ肉眼であのように見えるかは、厳しいかもしれません…。
途中、崩壊したかもしれないとヤキモキさせられましたが、まずまずの明るさで推移していて、双眼鏡や小型望遠鏡で観測できるだろうと期待が高まっています。
10月13日(日)に近地点(地球に最も近い点)を迎え、15日前後から25日ころまで、夕方の西の空に姿を現します。ただ、とても低い位置ですので、西がひらけている場所を探してその時を迎えましょう。太陽から遠ざかるにつれてみるみる暗くなっていきますから、短いチャンスを逃さないようにしてくださいね。
(追記:10月13日(土)、本日、日の入り後の18:15ころに渋谷から、紫金山アトラス彗星が見えました!iPhone15、16でなら、その姿を捉えることができます。人生で初めて自分で彗星が撮影でき、愛おしくてたまらない気持ちになりました。彗星や数々の小惑星を発見した伝説のプラネタリアン村松解説員も、「渋谷という大都会で彗星とその尾が見えるなんて!」と驚きすぎて、声も裏返って本当に嬉しそうに興奮している姿をみて感慨深いものがありました。
明日、(10月14日、15日からしばらくお天気さえよければ期待できそうです。ぜひぜひ挑戦してみてください🌟)
彗星は、氷とガスとチリの塊で汚れた雪だるまと表現されます。太陽系の遥か遠方のオールトの雲から太陽の引力に引っぱられて旅をしてきた太陽系の仲間。でも、周期彗星ではないので、二度と戻ることはありません。画像の青っぽく長い尾がイオンテイルで、黄色っぽくて短いのがチリのシッポ、ダストテイルです。太陽とは反対側になる上に向かって見事な尾が伸びているように見えるはず。晴れて、一期一会の遭遇が叶うことをお祈りしています。
さらに詳しくは、国立天文台の情報を参考になさってください。
https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2024/10-topics05.html
続いて、秋に見えるおすすめの星座と、それにまつわる神話をいくつかご紹介します。
秋の四辺形と呼ばれる四つの明るい星が、東から頭の真上近くにのぼってきました。ギリシャ神話に登場する、翼を持つ天馬ペガサスの胴体の部分です。星座の名前はラテン語で、ペガスス座。英雄ペルセウスがゴルゴンメデューサを倒したときに、その首から流れ出た血から生まれたと言われています。ペガサスは後に詩神ムーサたちに仕え、ゼウスの雷を運ぶ役目を担ったとも伝えられています。
ペガスス座のすぐ隣に位置し、アンドロメダ銀河(M31)が含まれることで知られている星座がアンドロメダ座です。アンドロメダ銀河は、肉眼でも見ることができる銀河として人気があります。アンドロメダは古代エチオピアのお姫さまで、母の王妃カシオペヤが娘の美しさを海の神ポセイドンの娘たちよりも美しいと自慢したために、海神の怒りを買いました。そのため、アンドロメダは化けクジラに生贄として捧げられるのですが、ペルセウスによって救われ後に彼の妻となりました。
アンドロメダの母親のカシオペヤ座は、W字型の星の並びが特徴的で、北天の空を一年中まわる星座です。秋には特に高い位置にあり、観測しやすい星座の一つです。美しさを誇ったためにポセイドンの怒りを買いました。そのため、カシオペヤは天に星座として配されましたが、彼女は常に逆さまにされる罰を受けています。
カシオペヤ座の隣の、五角形に見える星座はケフェウス座です。カシオペヤの夫、ケフェウス王の姿です。ケフェウスはアンドロメダの父で、ポセイドンにアンドロメダを生贄として捧げることを決断した王です。彼の星座は、妻カシオペヤと共に天に配置されています。
東の空に秋の夜早い時間に見えるペルセウス座は、ペルセウス座流星群でも有名ですね。ペルセウスはギリシャ神話の英雄で、ゴルゴンメデューサを退治し、その帰り道でアンドロメダを救います。彼の活躍は星座として天に刻まれ、秋の夜空でその姿を見つけることができます。カシオペヤ座からおうし座へと、星々を繋いでいくとできるカタカナのトに似た星の並びが目印です。
壮大な神々の物語を思い浮かべながら、星座とともに秋の夜長を楽しんでください。
ところで、秋の星には明るさを変える星、変光星と呼ばれる星が多くあります。例えば、くじら座のミラとペルセウス座β星のアルゴルが有名です。2024年9月の明るさは以下のように推移します。
くじら座のミラは、約332日の周期で明るさが変化する長周期変光星です。2024年9月に極大を迎え明るさは3等級程度まで明るくなりました。ただし、時間とともに変化するため、観測するタイミングによって変わります。ミラはM型赤色巨星で、脈動変光星として知られており、その明るさの変動は星自体の脈動によるものです。ミラのような赤色巨星は年老いて不安定な状態にあり、星の内部でのエネルギー放出が周期的に変化します。このエネルギーの変化が星の膨張と収縮を引き起こし、それに伴って表面温度や半径が変わり、結果として息苦しく呼吸をするかのように見かけの明るさが変わります。最も明るいときには約2等級、最も暗いときには約10等級まで変化します。
ペルセウスがしとめたゴルゴンメデューサの首で輝くアルゴルは、約2.87日の周期で明るさが変化する食変光星です。通常は2.1等級ですが、食の最中には3.4等級まで暗くなります。見るタイミングにより明るさが変わります。アルゴルは連星系で、二つの星が互いの周りを回っています。そのうちの一つの星がもう一方の星の前を通過する(食が起こる)と、地球から見たときの明るさが減少するのです。
変光星は、それぞれ異なる理由で明るさが変わり、天文学において非常に重要な研究対象とされています。秋に見えるおすすめの変光星は、他にも以下のような星々があり、それぞれ特徴的な変光パターンを持っています。
アルマクは、アンドロメダ座の足元に位置する連星系で、主星と伴星の色の対比が美しいとされています。食による明るさの変化は比較的少ないですが、双眼鏡や小型望遠鏡で観察すると、その二重星の美しさを楽しむことができます。
ケフェウス座のデルタ星は、変光星の中でも特に有名なケフェイド型変光星です。約5.37日の周期で3.5等級から4.4等級まで変光し、変光の周期と明るさの関係が恒星の距離測定に重要な役割を果たしています。
R アンドロメダはミラ型変光星で、約409日の周期で5等級から14等級まで大きく明るさが変わります。特に極大期には肉眼でも観測可能で、長期間の変光を追いかけるのに適した天体です。
また、おうし座の瞳で輝くアルデバランは、赤色巨星(半規則変光星)でわずかながら変光が見られます。赤い輝きが特徴で、明るさの変化は小さいものの、秋の夜空でよく目立ちます。
こういった変光星たちは、少し地味目な秋の夜空に楽しい変化をもたらします。私たち人間が一人ひとり異なるように、星もそれぞれが個性的であることを教えてくれているかのようです。
あなたのお気に入りの秋の星はなんですか?
星を見上げてその名を呼んでみると、なんだかコチラに向かって輝いているような気がします。数ある星の中からたった一つのかけがえのない存在に変わるのです。ぜひ、少しずつ覚えていってみてくださいね。
西 香織
コスモプラネタリウム渋谷「星を詠む和みの解説員」。幼い頃からプラネタリウムに通う。宇宙メルマガTHEVOYAGE 「エイハブの六分儀」で毎月の星空案内を担当。そそっかしく、公私ともに自分で掘った穴に自分でハマり(ついでに周囲の人も巻き込んで)大騒ぎしながらも、地球だからこそ楽しめる眺めを満喫する日々。
コスモプラネタリウム渋谷 https://shibu-cul.jp/planetarium