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【ワープスペースの挑戦】通信革命を宇宙で。生命探査への布石-中編(人材の強み、そして課題)-[中澤淳一郎]

先月に引き続き、宇宙空間で民間としては未だ実証されていない「光通信」の技術を確立することで、宇宙空間のインフラ構築を目指す、新進気鋭の宇宙スタートアップ企業である「株式会社ワープスペース」の事業内容について、CSO(最高戦略責任者)である森裕和さんに取材させて頂きました。担当はSpace Seedlings(SS)の中澤淳一郎です。

 ワープスペースの創るサービス名は、「WarpHub InterSat」。これは、2025年中に、地球中軌道に光通信端末を搭載した中継衛星3機を打ち上げ、衛星間光通信をサービスとして提供するミッションです。今月号の中編では、ワープスペースにはどのような人々がいて、またどのような課題があるのかについて迫っていきます。
「WarpHub InterSat」の詳細が気になる方は、前編をご覧ください!

まるでアベンジャーズ!?ワープスペースを支える戦士たち 
 ワープスペースはオフィサーズ、エンジニア、ビズデブ(ビジネスディベロップメント:事業開発)の3つが柱となっており、それぞれについて、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっているようです。
(ワープスペース/Teamの紹介ページはこちら

 今回取材させていただいているCSOである森さんの場合は、特に世界の宇宙市場や技術動向に明るく、CEO(最高経営責任者)の常間地悟さんは、学生の頃から4社起業しているといいます。CFO(最高財務責任者)の北原明子さんは外資投資銀行で30年近くやってきたファイナンスのプロであり、CTO(最高技術責任者)の永田晃大さんは博士課程に在学する光通信に関してのプロフェッショナル。COO (最高執行責任者)の東宏充さんはセキュリティ会社を起業し社長を続けてきたという、技術系の現場のマネジメント経験を持っています。

 オフィサーズ以外にもいろいろなバックグラウンドの人がいるようです。國井仁さんは文系のバックグラウンドがありつつ新卒でこの業界に飛び込んできており、高橋亮太さんはゲーム会社にて10年ほどPR関連の仕事をし、世界各国で支社を作っていた経歴を持ちます。
 
 一方で、エンジニアは宇宙開発を経験しているメンバーも多く、外国人の方も増え始めているそうです。ワープスペースは衛星の設計などは行っていますが、自社の工場は持たず、製造を外部に委託しています。そのため、衛星の機体を手でいじる、というよりも、ブレインとしてプロジェクト全体をハンドリングしています。衛星システム分野のバックグラウンドを持つ方は衛星開発に関わる大企業からやってくる方もいますが、開発項目は精密機器に似ているので、機械工学の方がうまく機能し、活躍の機会もあるようです。

 学生アルバイトもビズデブとして1名採用しており、社員さんの実務のヘルプを行っています。今後もビズデブならば学生側からの希望があれば増やす可能性はあるそうですが、エンジニアインターンの実現には難しいものがあるようです。まだ開発経験の浅い学生さんに任せることは技術的に難しく、そうした能力や経験がある人を求めるとそういう人はインターンの待遇ではなかなか来てくれない、という難しさがあるそうです。エンジニアのインターンももちろん増やしていけるといいかもしれませんが、現時点ではビズデブとしてのインターンが現実的、というのが実情のようです。

 この記事をご覧になっているみなさんも、もしワープスペースでの業務にご興味を持っていただければ、こちらからご連絡いただけます!

本当にいろいろなバックグラウンドを持つ方がおり、
聞いていてさなが『アベンジャーズ』のように感じました。

宇宙スタートアップ企業が抱える課題とは
 このような個性的なメンバーが集まったワープスペースは現在、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しています。先月行われた、日本発で米国進出を目指す新進気鋭のスタートアップを表彰するJapan-US Innovation Award Symposium 2022 では、日米市場でインパクトを与えるスタートアップ5社を称える「Innovation Showcase」に選出されています。また、これまでのJapan-US Innovation Award Symposiumでは、Astroscaleやispaceなどの宇宙分野に関連する事業に取り組む企業の受賞も増えてきており、国内外でも、宇宙スタートアップ企業の事業は非常に注目されてきています。
(関連するワープスペースさんのnote記事はこちら

 しかしながら、このように華々しく見える宇宙スタートアップ企業にも、いくつかの課題があると言います。
 
 まず国内のスタートアップに共通する課題としては、エンジニア面での人材不足がやはり挙げられます。日本では特に、リスクをとってベンチャーに一歩踏み出す人が少なく、加えて、グローバルで戦える人が少ないことが業界として問題になっています。その上、求める能力もますます高くなってきていると言います。例えば、英語能力もその一つ。そうした高い要求を満たせる人材が国内で調達できなければ、外国人を採用することになります。そうなってくると、国内企業であっても、社内の公用語が英語でなければ仕事ができなくなってしまいます。
 どの事業者も、パートナーは国内外問わずたくさんいます。その場合も、社内の文書も英語で準備する必要が出てきます。こうした理由により、英語を活用することが現場で求められるが、国内では英語を自在に操れる人材が限られるというのが、日本のスタートアップ企業に共通する課題として挙げられるそうです。森さんは以下のように総括してくださいました。
 「現在日本ではスタートアップ企業にはお金も集まりやすい。日本という場所はモノや技術、それらをつくる場所としても相対的に他国と比べて有利です。ただ一番足りないのは、やはり人ですね。」

 一方で宇宙のベンチャー業界にフォーカスしてみると、どのような課題があるのでしょうか。世界全体の宇宙ベンチャーのスケールで言うならば、売上までにお金が入りにくいところが課題として挙げられるそうですが、ここは業界が成長するに従って解決する見通しがあるそうです。しかしその世界の流れとは別に、日本の宇宙ベンチャーの課題として、森さんは「海外への進出がうまくできていない」点を挙げています。アストロスケール社やispace社は海外展開に成功した例ですが、こういった数社以外は、海外への展開ができる人材が少なく、それにより顧客が国内だけに限られてしまうという問題があります。海外へしっかりと進出出来ている企業は、50社超ほどある国内の宇宙スタートアップ企業の中でも数社もないほど。ここがやはり課題となってくるといいます。

 このような国内外の宇宙スタートアップ企業を取り巻く流れの中で、ワープスペースの課題として、やはり人材、特にエンジニアについて森さんは言及します。ニュースペース企業で衛星をアジャイル開発できるような、衛星の開発能力を持った人は日本国内にはほぼいない一方で、そうした人材の需要はどんどん高まってきています。その上、求める人材のレベルもどんどん高くなってきている現状があるそうです。

 このようなスター軍団であったとしても、課題はやはり人材。求める人材の質、量の需要に対するプール量の不足が、ワープスペースに限らず業界全体で問題になっているようです。筆者のような学生は、こうした業界のニーズを知った上で自身の能力を磨き、キャリア選択していくことも重要だと取材を通じて感じました。

取材の様子:左上 SS中澤 中央下 森裕和様(WARPSPACE)

 今回の記事では、ワープスペースにはどのような人々がいるのか、そしてワープスペースや宇宙スタートアップ業界の抱える課題についてお話を伺うことが出来ました。
 9月号の後編では、いよいよワープスペースの将来展望について、事業の本質によりフォーカスし、現場を誰よりも知る森さんが語り尽くしてくださった内容を紹介していきたいと思います。ぜひともご期待ください!!
 この記事を読んで、ワープスペースについてさらに知りたい!と興味を持ってくださった方は、ワープスペースのnoteTwitterFacebookなどもご覧になってみてくださいね!

森裕和
WARPSPACE CSO、WARPSPACE USA Inc. CEO。英エジンバラ大学理論宇宙物理学部飛び級入学・首席卒業。
エジンバラ王立協会から支援金を受け、理論宇宙論の研究(重力波・修正重力論)経験あり。
プロダイバーとして地中海で活躍し若手プロダイバーとして欧州・地中海エリアで賞も受賞し有名ダイビング雑誌に掲載される。バックパッカーの経験もあり、現在までに約90カ国訪問。日本に帰国後、野村総合研究所で経営コンサルタントとして、宇宙×グローバル×DXの新規事業創出と事業戦略をテーマに戦略コンサルティングを行う。世界初民間宇宙飛行士訓練施設Blue AbyssのCo-Founder兼VP of Business Development、アジア最大級の宇宙ビジネスプラットフォームSPACETIDE CxOアドバイザー、宇宙美容機構 理事など併任。Satellite ShowやSmallSat Conference、World Satellite Business Weekやオーストラリア政府主催の地球観測会議GEOWEEK2019のインダストリトラック等で多数登壇。趣味は沈船・海中洞窟ダイビング、飛行機操縦、ピアノ演奏、美術、宇宙物理等。宇宙飛行士として月面探査に参加するべく日々研磨している。

中澤淳一郎
総合研究大学院大学5年一貫博士課程2年。JAXA宇宙科学研究所にてアストロバイオロジーを志し、宇宙生命探査のためのサンプラー開発に従事している一方、個人的興味から彗星の爆発現象やダイオウイカの生態についても研究している。宇宙生命探査の探査対象天体であるエウロパやエンセラダスといった海洋天体について解説するYoutubeチャンネルも運営中。(https://twitter.com/Hitchhike_guide?t=_lfWIi0X9a3ni9-Li5O-qw&s=09


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