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あの"ギャツビー"が宇宙に!?~宇宙への挑戦が生む新たな価値とは(前編)~ [宮下 裕策]

”ギャツビー”は皆さんご存知の方も多いのではないでしょうか。特に何かしらスポーツをされている方なら、運動後にギャツビーのボディペーパーで汗を拭うなんてことも日常のありふれた光景だったりするのではないでしょうか。かくいう私も、昔から汗っかきなこともあってギャツビーにはよくお世話になっております。

ギャツビー フェイシャルペーパー / 株式会社マンダム

そんな人気を博すギャツビーが国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士の快適な生活を支えるアイテムとして搭載されることになり非常に注目を集めています。詳しくはこちらのリリースニュースをご覧ください。今回ISSに搭載されることが決定したボディペーパー「ギャツビー スペースシャワーペーパー」は株式会社マンダムによって開発されました。
ギャツビーがなぜ宇宙に。マンダムの宇宙進出にはどのような人たちが関わっていて、どのような経緯を辿って開発に至ったのか探るべく、マンダムのフロンティア開発研究室に取材させていただきました。

ギャツビー スペースシャワーペーパー / 株式会社マンダム

マンダムが宇宙に進出したきっかけは!? キーワードは"エッジ"

ーマンダムが宇宙開発に着手したきっかけを教えてください。
志水さん:会社は今までの蓄積してきた知見をより深化させる方向に重心を置きがちになりやすいです。というのもお金をかけた分リターンが返ってくるうえに、他の企業には無い強みになるからです。一方で、新しい市場を開拓していくには新しい知の探索も必要であり、この知の深化と探索のバランスが大事なわけです。イノベーションは新しい知を探索したうえで新しい分野と分野の融合することで生まれるということもあり、企業として目先の利益だけにフォーカスせず、新しい知の探索により力を注いでいこうとなりました。このような経緯で3年前にマンダムのフロンティア開発研究室が設立されました。

新しいことをするといっても何もかもできるわけでもないので、“Close to the edge”("エッジに近づこう")というキーワードを打ち立てました。エッジとは極限状態のことです。宇宙やスポーツ、レースなどがこれに当てはまります。例えば宇宙飛行士の場合、宇宙という極限状態におかれたときに通常の環境では気づかないような価値や困りごとを体験しています。そのようなエッジに近い人が日頃感じている悩みやお困りごとの解決にフォーカスすることで、新たな価値を生み、未来の生活に役立つ、と考えています。今の宇宙飛行士のお困りごとの解決が未来の我々の困りごとの解決になりうるということです。
このようなイメージを描いているさなか、JAXAが推進するTHINK SPACE LIFEというプロジェクトに出会い参画しました。このプロジェクトを手がかりに宇宙飛行士の日頃感じている困りごとの解決にフォーカスしようという流れでスペースシャワーペーパーの開発に至りました。
THINK SPACE LIFE:JAXA発・宇宙生活の課題から宇宙と地上双方の暮らしをより良くするビジネス共創プラットフォーム。コミュニティでの勉強会や、宇宙実装を想定したプロダクトの共同開発などを行う。

取材の様子 上段左からTHE VOYAGE編集部、Space Seedlings 宮下、マンダム森野さん。中段左か らマンダム志水さん、マンダム齋藤さん、マンダム根岸さん。下段 マンダム下川さん。

ーエッジになればなるほど市場は未開拓で規模も小さいが、将来的にはこの市場規模は拡大していくのでしょうか。
志水さん:そこには期待してますし、実際そうなると思います。昨今の象徴的な出来事としては、コロナのパンデミックで隔離が問題になりましたよね。隔離によるストレスが体調に影響を及ぼすことも身をもって感じたわけですが、宇宙飛行士はこの閉鎖隔離環境でのストレスをすでに何十年も前から体験してました。宇宙飛行士は家族や母なる地球から隔離されるストレスを数か月間受け続けるのですが、そのような環境のなかで、あれあったほうがいいなとかこうなったほうがいいなといった宇宙飛行士の要求は、人が生きていくうえで重要な部分に自然とフォーカスしているように思います。

ー今回開発されたスペースシャワーペーパーにビジネスとして現在そして未来へとどのような期待を抱いてますでしょうか。
志水さん:宇宙の市場規模は右肩上がりですが、その大半は輸送ビジネスなので、そこにはあまり期待しておりません。ただ、アルテミス計画の筋書きのように2040年に月に1000人ほど定住してとなるとそこには暮らしが生まれてくるので、そういった現場での日用品の開発は急ピッチで進める必要がありますよね。それでも1000人であれば市場規模も小さくビジネスに還元するのは難しいです。なので、ビジネスとして考えるのは、未来の新しい価値にフォーカスしてそれを地上の未来に還元していくというところを1番イメージしています。スペースシャワーペーパーは他のボディペーパーとは異なりエタノールフリーの設計になっているのですが、そのような特性を欲してくれるユーザーや地域があると思うので、その市場開拓をメーカーの責務として次に考えていく必要があります。
宇宙は、プロトタイプ開発として新しい価値や新しい技術を制約条件のなかで模索していく1つのフィールドだと思っています。制約のなかで何かしら工夫するからこそ新しい価値や技術が生まれる気がします。先のエッジについても同じことが言えます。極限状態という制約を前提に考えていくことが新しいアイデア発想につながるんですよね。
アルテミス計画:米航空宇宙局(NASA)が予定する月面着陸計画。月の周回軌道上に小型宇宙ステーションを建設し、2024年に有人月面着陸を行うというもの。

アルテミス計画 NASA

ここまで前編を読んでくださりありがとうございました!極限での挑戦が新たな価値を生むという切り口から、マンダムの宇宙開発の幕開けにまつわるストーリーを伺うことができました。宇宙にせよ、パンデミックにせよ、環境の制約が人間の潜在的なニーズを浮き彫りにするという点が心に深くささりました。
次号では、スペースシャワーペーパーの開発にあたってどのような課題があったのかなどなど、マンダムの開発秘話に迫りたいと思います。お楽しみに!

志水 弘典 様
株式会社マンダム スキンサイエンス開発研究所 副所長 
フロンティア開発研究室 室長
1995年マンダム入社。ボディケアに関する基盤研究に従事。スキンケア製品開発室長、ボディケア製品開発室長を経て、現職では新規市場開拓に繋がる価値創造研究に取り組む。
◇北里大学薬学部 スキンサイエンス共同研究講座(マンダム) 特任講師
◇臭気判定士(※)。
(※)環境省管轄の国家資格
マンダム 企業サイト 


森野 様
株式会社マンダム スキンサイエンス開発研究所 フロンティア開発研究室


齋藤 様
株式会社マンダム スキンサイエンス開発研究所 フロンティア開発研究室 主任

宮下 裕策
京都大学医学部4年。有人宇宙学に広く関心をもち、宇宙医学のコミュニティSpace Medicine Japan Youth Communityの運営にも携わっていた。医学生として医師への道を歩みつつ、自らのキャリアと宇宙の関わりを模索している。

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