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第5.5期宇宙飛行士選抜試験[都村保徳]

(アイキャッチ画像:宇宙兄弟 ©︎ 小山宙哉/講談社)

宇宙飛行士を目指しているSpace Seedlings(以下、SS)メンバーの僕(都村)と江島さんは、第5期宇宙飛行士選抜試験のファイナリストでもある内山さんに模擬面接をしていただくという貴重な機会をいただきました。今回はいよいよ、第5.5期宇宙飛行士選抜試験ともいえるそんな面接の全貌に迫ります!

Test as You Fly

最終試験まで残った受験者は10人。
ここが宇宙飛行士になるための最後の関門です。
閉じた部屋の中、JAXAの部長クラスの面接官5人を前に、質疑応答が行われます。
質問に答えながら、自分自身を最大限にアピールしてください。

それでは、準備はいいですか?


内山さんが意図的に漂わせた緊迫感の中、僕らの選抜試験が始まった。

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模擬面接開始直前の様子

今あなたはなぜここにいる?

内山さん:あなたは宇宙飛行士選抜試験を受けて最後の10人まで残りました。これから最終面接を始めます。まず、都村さんに質問をさせていただきます。今あなたがここにいる理由はなんですか。

SS都村:僕がここにいる理由は、宇宙飛行士になるためです。小さい頃からずっと宇宙に憧れてきて、今年で22歳になるんですけど、22年間と言っていいほどずっと宇宙に憧れてきてようやくこの最終試験の場にます。宇宙飛行士になるというのが僕の夢であって、それはさっき言った憧れから始まったんですけど、宇宙飛行士というのは仕事であって、旅行気分で行けるものじゃないので、ある分野で仕事をするっていうのと、ただただその分野で欲を満たすということは全然違うと思っています。

僕がなぜ宇宙飛行士になりたいのか、例を挙げると、僕が高校時代、動物愛護団体を立ち上げたんですよね。でも、ただ単に犬が好きという理由だと、ペットショップで犬を見て可愛いから飼いたい、で完結するかもしれないんですけど、なぜ動物愛護団体を立ち上げようと思ったかというと、殺処分問題という社会問題を解決したかったからなのです。地域でのボランティア活動に積極的に参加して、啓発運動もして、この社会問題を解決したかったから、動物愛護分野で仕事をしたんです。

これは宇宙飛行士にも同じことが言えると思っていて、もし僕が宇宙に行きたいという欲だけを満たしたいのなら、旅行で済ませられるんですけど、宇宙飛行士という仕事人として宇宙に行って、地球から一番遠いところで、人類のために、文明の発展のために、心血を注ぎ、命懸けで貢献したいのです。そういう環境で仕事をするのが宇宙飛行士であり、そのような宇宙飛行士になりたいと僕は思っています。なので、宇宙という僕の夢のために、今日僕はここにいます。

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内山さん:都村さん、ありがとうございます。では続いて江島さんに質問です。あなたは宇宙飛行士になって何をしたいですか。

SS江島:僕が今やっているのはECLSS(環境制御/生命維持装置)に関する研究なんですけど、それをやるに至った背景としましては、有人宇宙開発を発展させたい、そのためのコアな技術となるECLSSの研究をしています。このような技術は特にこれから求められる深宇宙探査や宇宙での長期滞在においてはさらに重要になってくる分野です。この専門家として、まずはミッション成功に貢献したいです。例えばECLSSって結構頻繁に壊れたり、メンテナンスが必要だったりします。特に今後このような未知の領域に踏み出すにあたっては、未知の不具合もたくさん伴ってくるので、そのような場面でまずはECLSSの専門家として貢献したいです。更には、ECLSS研究者のひとりとして、そもそものECLSS技術レベルの向上にも宇宙飛行士として貢献したいと思っています。

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内山さん:宇宙飛行士としてだと、ECLSSの研究を第一線で継続するっていうのは難しくなると思うんですけど、研究者と宇宙飛行士を両立させるための具体的なプランやビジョンはありますか。

SS江島:おっしゃる通りだと思います。例えば、ECLSSの新しい技術を宇宙で実証しましょうとなった時に、もちろん実験装置を作ったり、データを解析したりするのは地上の僕じゃないECLSS研究者がやることになると思うのですが、同時に宇宙で実験する人も必要なわけで、もちろんECLSSの専門家じゃない人がそれを肩代わりすることもできるんですけど、僕のように専門を持った人がそれに携わることによって、コミュニケーションもとりやすくなると思いますし、そういったところで貢献していきたいなと思います。

内山さん:ありがとうございます。では次に都村さんに質問です。JAXAでは現役の宇宙飛行士がいますけれども、あなたが宇宙飛行士になったとして、今の現役の宇宙飛行士が持っていない強みというのはありますか。

SS都村:はい、あります。これから宇宙開発が進む中で、競争っていうのは絶対に必要ないと思っています。その中で国際協調が求められると思うんですね。そうなったときに、僕は母親が台湾人で、僕も中国語が話せる身として、もちろん中国人や台湾人だけではなく、より多くの世界中の人を巻き込める力、発信力、インスピレーションや影響を与える人としての資質があると思います。自信を持ってそのような資質があると言えます。

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内山さん:現役の宇宙飛行士もアジア圏内では、国際協力プロジェクトのアジア代表として活躍できていると思っていて、野口宇宙飛行士や若田宇宙飛行士は中国の飛行士との交流を持っていたりする中で、更に都村さんがそれ以上の人たちを巻き込むような活動はできますか。

SS都村:僕の人生を辿ると、いろんなところを転々と移動してきました。台湾から始まって日本、そしてまた台湾に戻って、大学でイギリスに行き、留学をアメリカでして、またイギリスに戻ってという中で、いろんな背景を持った人と接してきました。高校もインターナショナルスクールで、7割が海外から来ている生徒たちの中で、多様な人たちと接する経験っていうのは僕ならではの武器なのかなと思っています。いろんな人とコミュニケーションをとって、チームを組んで、多様なチームの中で、自分やチームメイトの長所を引き出すっていう能力があると思っているので、そこでアジアだけではなくて、イギリス、アメリカ、その他ヨーロッパ、いろんな国々の人たちと、共に宇宙を創っていけると思っています。

内山さん:ありがとうございます。では江島さん、最後の質問ですが、あなたがこれまで最も苦労した体験と、どのようにそれを乗り越えたかを教えていただけますか。

SS江島:去年の9月頃、大学のプロジェクトで月面ランダーのモックアップを作り、実際に試験をしてみるというプロジェクトがありまして、大学院生が10人くらいのチームなんですけど、そのプロジェクトマネージャー(PM)の人が、就活のためにやってますというような人で、チームビルディングには興味がありませんし、周りの悪口も言うし、スケジュール管理は疎か、ミーティングもグダグダで、モックアップの建築は進まないといった問題がたくさん発生して、僕を含めてチーム全体が困っていました。最初はそのPMを説得するよう試みたんですけどなかなか難しく、とりあえず自分のできることをやろうということで、他のチームメンバーといつも以上にコミュニケーションを取りました。自分から率先してここのスケジュールはこうした方がいいんじゃないとか、みんなで調整しながら、少しずつ問題を解決していきました。かなり忙しいプロジェクトで、一日12時間ラボで働くというような日が続いていて、僕も含めてみんなもストレスが溜まってきていたんですけど、幸い僕は客観的にその状況を俯瞰することができたので、いろんな人とお話をして、できるだけ彼らのストレスを和らげられるように相談にのったり、辛い状況こそハッピーでいるということを心がけたりしてチームビルディングをして、最終的に期限内でやらなければいけないタスクを全てこなすことができました。この経験がこれまでの試練では大きかったかなと思います。

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内山さん:チームとしてはスケジュール内にタスクを完了させて、成果を出したのだけれども、決してチーム内が完璧に回ったわけではなかったということですよね。最終的にチームを振り返るというような活動はあったりしましたか。

SS江島:そうですね。大変だったねというような会話はもちろんたくさんしました。チームとしての振り返りはあまりしなかったんですけど、個人で振り返ったときに、もう少しあそこでフォロワーシップ発揮しとけばよかったなというのはあります。例えばPMが仕切っていたミーテイング中に、積極的に発言したり、もっとこういう言い方で言えばよかったなとか、今後はこうしようという振り返りはあります。まだそれを実践するということはできていないんですけど、そういったところの振り返りは個人レベルではしました。

内山さん:江島さん、ありがとうございました。面接は以上になります。

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模擬面接終了直後の様子

面接を終えて

本当に緊張した。内山さんが面接のイメージをセットアップし始めた時、僕の目の前に突如として現れた暗い部屋。その部屋の真ん中には椅子が一つだけあって、その椅子にはスポットライトが当たっていた。今からここに座って面接が始まるんだ、とそんな妄想もあり本番の気持ちで臨めたのはいいが、緊張しすぎて思う自分が出せなかったのが悔しかった。対する江島さんはというと、この面接を楽しめたそうだ。研究で教授にガンガン突っ込まれて毎回冷汗をかきながらミーティングするのに慣れていたこともあり冷静に質問に答えられたという。僕たち二人の対照的な部分が垣間見えた面接となった。

面接を終えて内山さんから各質問の裏に隠された面接者の意図や内山さん自身の面接体験談について話していただいた。まず面接というのは、その人と一緒に働きたいか、その人が信頼できる人なのかということを見極めるためのものなのだ。能力に限らず、人間性をも含めて審査される。そのため、しっかりと自分の熱意や考えを伝えきることが重要で、自分として自分を最もアピールできて、自分の想いも伝えられるエピソードを説得力をつけて答えることが求められるのだ。

質問も大きく分けて二種類あるという。今回の面接での1、2問目のような絶対に聞かれると分かっているものと、3、4問目のような人の資質を見極めるものだ。前者のような問いには簡潔に答える、そして後者では更なる質問に丁寧に対応することが望ましい。これを聞いて僕は、一問目に長く答えすぎたかなと思ったが、時間を意識しすぎて思いの丈を伝えられないのが一番惜しいことなので、ちゃんと熱意が伝わる回答で良かったよと内山さんは褒めてくれた。

次に江島さんに聞かれたのが、現在のキャリアと宇宙飛行士とを天秤にかけるような意地悪な質問。内山さんも実際に選抜試験で聞かれて、江島さんと同じように答えたそうだ。ここで大事なのは、現実をちゃんと理解した上で、見栄を張らずに自分にできること・できないことを認識すること。江島さんはしっかりとそれをクリアできていた。

続いて三問目の現役宇宙飛行士との比較質問。実際の選抜試験では、受験者だけではなく、現役の宇宙飛行士も含めてライバルだということと、その人たちを超えていけるだけのポテンシャルがあるということを示すことが大きなポイントになってくる。自分の強みを理解して、それを体験談や苦労エピソードをもとに証明できれば良い回答になるだろう。

そして最後にこれまで最も苦労した体験とそれをどう乗り越えたかということが聞かれた。このような質問には、矢継ぎ早に質問の嵐が待っている。下手な表面的なエピソードでは到底乗り切れないだろう。深掘りをすることで、本当に苦労したのか、その経験から学んでいるのか、人間的な側面が顕になるのだ。江島さんが話した内容も苦労とリカバリーがひしひしと伝わってくるとてもいい経験談だった。


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宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶 (SB新書)


最後に

こうして無事、第5.5期宇宙飛行士選抜試験の最終面接を終えた僕たちは内山さんから総じて素晴らしいという評価を得た。だが慢心してはいけない。宇宙飛行士という果てしない夢を目指している限り、常に自問自答を繰り返し、一歩下がって客観視して、また自分自身の深掘りを続けなければいけない。見たこともない自分を引き出してくれたこの面接試験にはとても感謝している。

昨年発表された宇宙飛行士選抜試験はもうすぐそこまで迫っている。長い間準備をしてきた人、最近宇宙に興味を持ち始めた人、これまで切磋琢磨し合って進んできた友、選抜試験で出会うかもしれない未来の友。そのすべての人たちへ、全3回に渡りお届けしてきた内山さんとの対談企画が少しでも励みになり、これからの指針になることを願っている。進む道は違えど、いつか同じ場所に集結し、宇宙を語り合い、心の底を分かちあう。そんな仲間との出会いを楽しみに、僕は今日も夢に耽る。

とりあえずこの模擬面接を経て、宇宙飛行士の仮免許を取得できたことにしておこう。
今秋の本免許試験に備えて、宇宙へと広がる道を走り続ける。


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取材の様子:内山さん(左下)、SS江島さん(右下)、SS都村(右上)

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内山さんのエバマガとのコラボで、こちらにも模擬面接に向けて対談した様子をご紹介頂いてます!!エバマガに登録すると対談動画もご覧いただけます!

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内山崇
1975年新潟生まれ、埼玉育ち。2000年東京大学大学院修士課程修了、同年(株)IHI入社。2008年からJAXA。2008(~9)年第5期JAXA宇宙飛行士選抜試験ファイナリスト(10名)。宇宙船「こうのとり」フライトディレクタ。2009年初号機〜2020年最終9号機までフライトディレクタとして、9機連続成功に導く。現在は、新型宇宙船開発に携わる。趣味は、バドミントン、ゴルフ、虫採り(カブクワ)、ラーメン。宇宙船よりコントロールの効かない2児を相手に、子育て奮闘中。

宇宙兄弟Official Webにて『宇宙飛行士選抜試験〜12年間 語ることができなかったファイナリストの記憶〜』2020.6.16より12.15まで連載(全27回)。2020.12.5書籍『宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶』(SB新書)発売。

Amazon(Kindle版もあり):https://www.amazon.co.jp/dp/481560522X/
Twitter(有人宇宙情報発信) : https://twitter.com/HTVFD_Uchiyama
note(宇宙飛行士挑戦エバンジェリスト活動) : 


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江島 彩夢(えしま さむ)
米コロラド大学ボルダー校 宇宙生物学 博士課程2年

【専門・研究・興味】
環境制御/生命維持装置(ECLSS)の自律化に関する研究

【活動】
Homer Spaceflight Project
SGAC

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都村保徳(つむらやすのり)
英ブリストル大学 航空宇宙工学科 4年

【専門・研究・興味】
軌道力学、宇宙機ダイナミクス、プログラミング

【活動】
enfty - エンジニアリングをもっと身近に -


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