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エイハブの六分儀-2023.8月号 西 香織

【今月の星空案内】

日中の陽ざしはまだ強いですが朝夕に、秋の気配を感じられるようになってきましたね。でも、早い時間帯だとまだまだ夏の大三角が宵空の主人公です。夜の8時に、頭の真上を見上げたあたりで輝きます。これから、少しずつ西へと傾いていくことになります。

こと座ヴェガはクールビューティ、0等星の青白い光です。M57は、惑星状星雲と呼ばれること座随一の解説員推し天体です。たて琴の弦の下のラインのちょうど間のあたりに口径10cm以上の望遠鏡でなんとか輪っかが見えるか見えないか、という感じで、双眼鏡でもぼんやりとした微かなシミのようなものが見えたら大成功です。おなじみの天体画像では美しいリングに見えることからリング星雲とも呼ばれますが、ヴェガは織姫星なので織姫の結婚指輪のようだとも言われています。また、ヴェガのすぐ東となりのこと座ε(イプシロン)星である4重連星もファンが多い天体です。双眼鏡でのぞいてみると、仲良くちょこちょこりとならぶ星をとらえることができます。次に高倍率の望遠鏡でのぞいてみると、さらにそれぞれが二つの星が寄り添って愛くるしいこと。ダブルダブルスターという魅力的な名前で呼ばれる人気の天体です。

ヴェガとは対照的なあたたかみのある輝きのアルタイルは、「飛ぶわし」というアラビア語で、その名の通りわし座が描かれています。ギリシャ神話の大神ゼウスが化けた姿です。北よりの3つめの恒星がデネブはくちょう座のしっぽの星です。ちなみに、しっぽを意味するデネブという名がつく星は実はたくさんあって、わし座のε(イプシロン)星デネブ・オカブ。いるか座ε星デネブ・アルダルフィヌ。他にもくじら座のしっぽはデネブカイトス、しし座のしっぽはデネブの変化形のデネボラ…etc 古代の人々が楽しみながら星を結んでいった様子が、思い浮かんでくるようではありませんか。

ただ、2016年にたくさんのデネブたちは幻となり、今ではシンプルに、オカブアルダルフィヌです。デネブカイトスにいたってはディフダ、2匹目のカエルというなかなか謎な意味をもつ星の名前に、国際天文学連合によって改名されたのでした。ちょっと味気ない気もしますが時代の流れには抗えません。解説する際には、長年親しんできた「デネブカイトス」と口の筋肉が勝手に紹介しちゃうので、毎回、ディフダとインプットし直さなければならない、要注意の天体になってしまいました。

さて、はくちょう座の羽の横のラインとデネブからくちばしの位置で輝くアルビレオまでの縦のラインで、北半球のわれわれが楽しめる北十字と呼ばれる十字架のできあがり。京都のあたりでは昔から、十文字さまと親しみを込めて呼ばれていたそうです。

はくちょうをそのまま、南へ羽ばたいていくイメージで、夏の大三角を横切る天の川を南へ下っていくと、その先にいて座が描かれています。目印は小さなひしゃくのカタチです。6つの星を結ぶと、こじんまりしたスプーンがみつかるでしょうか。英語圏の方はミルクディパーと呼んでいます。春に結ぶお馴染みの北斗七星は北西の反対側に位置していて、こちらは南斗六星です。古代中国では北斗七星は死を、南斗六星は生をつかさどると考えられていたそうです。この星座は、ケンタウルス族というとても気の荒い種族で、半分は人間で半分は馬という姿をしています。いて座はその中でも、ギリシャ神話に出てくる数々の登場人物を育てた賢人ケイローンの姿だとされています。

続いて、ヴェガとアルタイルを結んだラインを下の方向へ伸ばした先に、淡い星々でゆがんだ三角を結んでみましょう、それが、いて座を追いかけてのぼってくるやぎ座です。三角のもっとも東よりのδ(デルタ)星は、3等星のデネブ・アルゲディ。意味はやぎのしっぽ。ほら、しっぽ星がここにありました!しかもデネブの名も健在です、よかった。

9月29日(金)が中秋の名月です。中秋の名月とは、二十四節気秋分以前の新月から数えて15日目の月を秋の収穫に感謝しながら愛でる行事ですが、月の軌道は楕円で月自体も複雑な動きをするため、満月ではない月にあたる場合もあります。でも、今年はちょうど満月と重なりましたので、まん丸のお月さまの優しい光を浴びて、猛暑だった夏の疲れを癒して頂ければと思います。

西 香織
コスモプラネタリウム渋谷「星を詠む和みの解説員」。幼い頃からプラネタリウムに通う。宇宙メルマガTHEVOYAGE 「エイハブの六分儀」で毎月の星空案内を担当。そそっかしく、公私ともに自分で掘った穴に自分でハマり(ついでに周囲の人も巻き込んで)大騒ぎしながらも、地球だからこそ楽しめる眺めを満喫する日々。

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