マンスリーデルタV 2020.1月号
ボイジャーは本当に太陽系を脱出したのか問題
地球のみなさんこんにちは。ここのところ立て続けに地球が終わるレベルの巨大隕石が落ちる夢を見ている石松です。夢占いによれば、隕石が落ちて地球が滅亡する夢は「思いがけず体調を崩している」という暗示なんだそうですが、実は最近、原因不明の頭痛&耳痛&歯痛に悩まされ、今世紀初めて歯医者に通っております。夢占いが当たっていてヾ(ヽ°ਊ°)ドキッ!!としました。あけましておめでとうございます。
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さて、2020年一発目のトピックは、やはり今年の目玉『マーズ2020ローバー』・・・ではなくって、誠に勝手ながらボイジャーの話をさせてください。名付けて、「ボイジャーは本当に太陽系を脱出したのか問題」!
ボイジャーといえば、NASA史上(人類史上)最も偉大な宇宙探査機と言っても過言ではないでしょう。人類史上最も遠くまで行った人工物で、今もその記録を毎秒更新中なのが、ボイジャー1号。そして2位がボイジャー2号です。2020年1月現在、ボイジャー1号は地球から149 AU(地球と太陽の距離の149倍)、ボイジャー2号は124 AUのところを飛んでいます。
ボイジャー1号は2012年に太陽圏を脱出し、星間空間に入った初めての探査機となりました。そして2018年にボイジャー2号も太陽圏を脱出したと発表されたニュースは、宇宙ファンなら記憶に新しいでしょう。そのどちらのニュースのときもそうでしたが、日米の多くのメディアが「太陽系を脱出」「left the solar system」などと報じていました。
これは「太陽系」の定義を都合良く変えて解釈すれば、そういう言い方もできるのですが、厳密にはボイジャー1号2号が脱出したとされているのは「太陽圏」といって(英語ではHeliosphere)、太陽から放出された「太陽風」が届く範囲のことです。太陽風というのは、太陽から吹き出して、秒速数百kmというスピードで飛んでくる、電気を持った高温の粒子(プラズマ)です。
一方、星間空間には一般に、星間物質と呼ばれる希薄なガスや塵などが分布しています。この星間物質と太陽風の圧力が釣り合う境界面が、太陽圏の境界とされていて、ヘリオポーズ(Heliopause)と呼ばれています。つまり、太陽風が星間物質を吹き飛ばす力がなくなる場所、ということです。太陽の縄張り(物質的な意味で)とでも言いましょうか( ¯෴¯ )
では、「太陽系」の本来の定義は何かというと、太陽の重力によって繋ぎ止められて太陽の周りを直接的・間接的に公転する天体から構成される系のことなんですね。つまり、重力的な意味での太陽の縄張りです。太陽系の一番外側には、球殻状に「オールトの雲」と呼ばれる天体群があると言われています。
このオールトの雲は、直接観測されたわけではないので、あくまで仮説の域を出ませんが、だいたい1,000 AUあたりから始まり、100,000 AUあたりまで続くとされています。この外縁こそが、真の太陽系の境界です。つまり、ボイジャーが太陽系を脱出する(オールトの雲を抜ける)には、あと3万年かかりますド―――(゚д゚)―――ン!!
さしずめ、太陽圏はジャニーズ事務所、太陽系はジャニーズファン、といったところでしょうか。ジャニーズ事務所(太陽圏)は、ジャニー喜多川(太陽)の息(太陽風)が直接かかっている範囲。今なら藤島ジュリーかタッキーですかね。惑星はタレント、衛星はマネージャー、小惑星はジュニアの子たちです。一方、ジャニヲタ(オールトの雲)には、別に事務所の息(太陽風)はかかっていませんが、ジャニーズの魅力(重力)に取り憑かれて周りを取り巻いているわけです。
というわけで、厳密にはボイジャー1号2号が脱出したのは太陽圏ですが、太陽圏(Heliosphere)という言葉は一般の方には馴染みがないので、3万年も待ってられない一部メディアが注目を集めるために、意図的に太陽系(Solar System)と読み替えたか、あるいは単に太陽系と太陽圏をごっちゃにしてしまったかで、「太陽系を脱出」という表現が使われてしまったのでしょう。
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宇宙好きで知られるBUMP OF CHICKENというバンドの『話がしたいよ』という歌の歌詞に「♪ボイジャーは太陽系外に飛び出した今も~」という一節があります。これについて、以前僕が「誰か、彼らに伝えてくれ…ボイジャーが太陽系を脱出するにはあと3万年かかると…」とツイートしたら、思いの外たくさんの反応をいただきました。
BUMPファンと思われる方からは「藤くん(ボーカル)は間違ってないと思います!藤くんに失礼だと思います!」とまで言われる始末。。そうですね、芸術作品に間違いなどありません。だけど、太陽系と太陽圏の違いは語尾の一字だけなんです!「い」を「ん」と歌い替えればいいだけ!今後BUMPがライブなんかで語尾を「ん」に寄せてきたら、僕のメッセージが届いたと判断します!
冗談はさておき、ここからは僕の意見ですが、そもそも太陽系の定義が「半径 ◯◯AUの空間」ではなく「太陽の重力に縛られた天体の総称」ならば、軌道離心率が1未満の物体のみをカウントするのが妥当です。太陽系外からやってきた「オウムアムア(軌道離心率1.20)」や「ボリソフ彗星(軌道離心率3.36)」を誰も太陽系のものとは呼ばないでしょう。ボイジャー1号2号はともに1979年に木星をフライバイし、軌道離心率が1を超えたので、その時点で「太陽系を脱出」と解釈しても良い気もします。はい、引き続き「ボイジャー、太陽系を脱出」と言いたい方に抜け道を差し上げました
(・∀・)r
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2ヶ月ほど前にNature Astronomy誌に掲載された一連の論文の話も少ししておきましょう。2012年に太陽圏を脱出したボイジャー1号はプラズマ計測器が損傷していましたが、2018年のボイジャー2号では正常に動作していたので、一連の貴重なデータを得ることに成功しました。これによって、太陽風の構造、プラズマ粒子の組成と挙動、宇宙線の相互作用、磁場の構造と方向など、太陽圏の境界を定義するさまざまな特性が各種分析され、Nature Astronomy誌に5編の論文として発表されました。
その中で、とりわけ個人的に興味深かったものをひとつ取り上げておくと、データ解析の結果、星間空間に出たはずのボイジャー2号が、太陽圏由来の物質を検出したのです。どうやら「太陽圏が漏れている」ようなのです。
論文の1つを執筆した物理学者クリミギス氏曰く「太陽圏の物質は、何十億kmも離れた距離まで、銀河に漏れていた」と。また別の論文の著者である物理学者ストーン氏(実は元JPL所長であり、ボイジャー計画のプロジェクトサイエンティスト)は「ヘリオポーズのすぐ外にまだ我々とつながっている領域があるように見える。太陽圏とのつながりはまだ残っている」と語ったそうです。もしかしたら、まだはっきりと星間空間に達したとは言い切れないのかもしれませんね(*゚▽゚*)ワクワク
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さて、2機のボイジャーはプルトニウム238の崩壊熱を利用した原子力電池で駆動し
ていますが、その寿命もあと5年と言われています。いずれ電力不足となり、科学機器が使用できなくなってしまうのです。それまでの間、2機のボイジャーは引き続き観測を続け、地球にデータを送信し続け、僕らに太陽圏や星間空間についての手掛かりを与えてくれるでしょう。
残念なのは、現時点ではボイジャー計画の後継ミッションがないことです。ボイジャーを追って、星間空間に向けて飛んでいる探査機はもう3つあるのですが、パイオニア10号11号はどちらも電力の低下によりとっくの昔に交信を絶っており、一番後発のニュー・ホライズンズも90 AUあたりで電力不足となる見込みです。そろそろ新しい恒星間探査ミッションの提案が期待されますね。
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最後に、ボイジャーとパイオニアは遠い未来、いつどの恒星に接近するか、という面白い予測を紹介したいと思います。電力が途絶え、通信が途絶えても、ボイジャーたちは飛び続けますからね。これら4機は現在、秒速約10kmでそれぞれの進路を飛行しています。ざっくり10万年で約1パーセク(3.26光年)進む速度です。
太陽圏の形状が変化しないと仮定すれば(実際は太陽の活動によって変化します)、パイオニア11号は2機のボイジャーと似たような方角に向けて飛んでいるので、2027年あたりに星間空間に達する見込みです。一方、パイオニア10号は運の悪いことに(?)真逆の方向に飛んでおり、先の図からわかるように太陽圏は後方に尻尾のように長く伸びているので、星間空間に達するのは2057年頃なんだそうです。
さて、問題はその後です。「接近」を恒星から1光年以内のところを通過することと定義して、マックス・プランク天文学研究所とJPLの研究者たちが、天の川銀河の恒星の位置と速度の最新の3Dマップを用いて計算しました。
まず最初に何らかの星に接近するのはパイオニア10号だそうです。一人だけ違う方向に飛び続けた甲斐がありましたね。90,000年後に赤色矮星HIP 117795から0.75光年のところを通過するそうです!続いてボイジャー1号が303,000年後にTYC 3135-52-1という星から0.97光年のところを、さらにパイオニア11号が900,000年後にTYC 992-192-1という星から0.80光年のところを通過するそうです!
可哀想な運命にあるのはボイジャー2号です。ボイジャー2号は、向こう500万年の間に、恒星から1光年以内のところを飛行する予定がありません。最も接近するのは、42,000年後にアンドロメダ座のひとつ、ロス248という赤色矮星で、1.73光年のところを通過します。
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長生きしなきゃね ( ˙灬˙ )
石松拓人
システムズエンジニア。NASAジェット推進研究所にて火星ローバーのシステム設計や深宇宙探査機の自律化、宇宙ガソリンスタンドの研究などに従事。東京大学の非常勤講師も務める。福岡生まれ、福岡育ち。将棋とギターをこよなく愛する。2018年パンアメリカン将棋大会4位。得意戦法は右玉。作曲・宅録が趣味で、これまでに30曲以上制作。CDアルバムを手売りした過去も。
noteでブログ『JPL日記』や、Voicyで科学バラエティ『地球のみなさんこんにちは』を配信している。
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