君が作る宇宙ミッション『きみっしょん』[榎木谷 海]
みなさん、こんにちは!Space Seedlingsの一員の榎木谷(えのきだに)です。
一員と言いつつも、これまで約1年間影を潜めておりました。
今回、初めて原稿を書くにあたって「何を書こうか」「読者の皆様に何を伝えたいか」を考えた結果、この宇宙メルマガTHE VOYAGEの読者様に中高生やそのご両親が大勢いらっしゃるということで、『きみっしょん』について書くことに決めました。
今、この記事を読んでいる大体の方が「きみっしょんって何だろう?」と思ったと思います。それもそのはず、”あの”JAXA宇宙科学研究所(以降、宇宙研)主催にもかかわらず、意外と認知度が低いプログラムなのです。
もし、以前から知ってくれているなら、それはあなたが普段から宇宙というキーワードに対して非常に敏感だからでしょう。残念ながら、私は大学院生になるまでその存在を知りませんでした。
宇宙科学研究所(JAXA 相模原キャンパス)
『きみっしょん』とは【君が作る宇宙ミッション】の通称で、高校生を対象とした研究体験型教育プログラムです。参加者となる高校生は数組のチームに分かれ、宇宙に関するミッションを高校生が主体となって 一から作り上げていきます。
例年、参加者の高校生は夏休み期間中に宇宙研に泊まり込み、朝から晩まで宇宙漬けの濃厚な5日間を送ります。涼しい室内での作業にもかかわらず、高校生の頭から湯気が上がっているように見えるくらい、脳から汗が吹き出しているのが伝わるくらい、毎年白熱した議論が繰り広げられます。
議論の内容は、ミッションの柱である背景・目的・手段の検討から、定量的な評価に至るまで多岐にわたります。例えば、探査系のミッションなら、「どの天体を目標とするか」、「何を明らかにしたいか」、「どのように探査するか」などについてを、さまざまな考えを持つ高校生たちが集まって意見を交わし、最終的に1つのミッションを作りあげていきます。
作ったミッションは、5日間の集大成としてJAXAの研究者のみなさんの前で発表します。ドキドキですね。参加者のみなさんが真剣になって考えたミッションに対して、JAXAの研究者のみなさんも本気でアドバイスをしてくださいます。
議論の様子(2019年度)
最終発表会の様子(2019年度)
ここまで読んでくださった皆様の中に、「うーん。興味深いし参加してみたいけど、宇宙の詳しい話を知らないし、定量的な評価には物理や数学が必要そうで、自分にはハードルが高いかな…」と思った方がいらっしゃると思いますが、安心してください。これまで参加してくれた高校生も全員が全員、宇宙について詳しいわけではないし、全員が全員、数学や物理が得意なわけではありません。
ミッションを作るためには多くの知識が必要ですが、知らないことはその都度調べ学習を行って、チーム内で情報の共有を行うことで全員の知識レベルを上げていき、全員が納得しながら議論を進めていくことが重要です。
議論に行き詰まった時は、日々宇宙研で研究活動を行なっている大学院生がサポートするので安心です。
どうですか?少しは応募するハードルが下がったでしょうか。
もちろん、応募者全員が参加できるわけではなく、スタッフの人数の都合上選考をさせていただきますので、決してハードルが低いわけではありません。
しかし、応募する前から、「どうせ自分は応募してもだめだ。止めておこう。」と諦めて欲しくないのです。
さて、ミッション作成についてこれまで熱くお話ししてきましたが、実は『きみっしょん』参加中はミッションを作成するだけではありません。JAXA の研究者による特別講義や、普段は関係者しか立ち入ることができない場所を巡る所内見学など、『きみっしょん』に参加しなければ体験できないお楽しみが盛りだくさんです。
最近ですと、はやぶさ2プロジェクトマネージャーの津田先生に特別講義をしていただきました。「いやいや、津田先生ほどの有名人なら『きみっしょん』に参加しなくても、他のところでも講演しているよ。」と思うかもしれません。しかし、『きみっしょん』の特別講義は一味違います。聴講者は数人の高校生のみです。そう、時間の限り質問し放題なのです。
はやぶさ 2 プロジェクトマネージャー津田先生による
特別講義の様子(2019年度)
2021年度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、オンライン開催でした。すでにオンラインでのミーティングを経験した方は感じたことがあるかと思いますが、やはり対面で顔を見合わせてするミーティングより、発言のタイミングが難しかったり、相手の意図を汲み取りづらかったりします。
ましてや、参加者の高校生たちは全員初対面です。話づらさは相当なものでしょう。どうすれば高校生たちが円滑に議論できる場を提供できるか。現地開催と同等の十分な議論ができるように、私たちもさまざまな工夫をこらし、万全の体制で臨みました。
その努力が功を奏したのか、高校生たちは非常に積極的に発言し、協調性を持って議論を進めることができました。高校生たちがすでにそういう能力を持っていただけかもしれませんが、結果的に満足していただけたようなので本当に嬉しいです。
本年度も開催予定です。開催方式に関しては、感染拡大状況を鑑みて後日発表いたします。2022年度の募集開始は、4月上旬です。きみっしょんホームページに随時最新情報をアップしていますので、目を光らせて監視してください。ちなみに、ブログ・Twitter・YouTubeチャンネルでも多くの情報を発信していますので、「もっときみっしょんについて知りたい!」という方は、ぜひチェックしてみてください。
YouTubeでは、オンラインで開催した 2021年度の最終発表会の様子をアップしています。最後にそちらのURLも載せておきますのでご視聴ください。参加者全員の熱気が伝わると思います。
このプログラムの対象は高校生の皆様です。今はまだ中学生や小学生の皆様、応募資格がないからと、がっかりしないでください。『きみっしょん』は今年度で21回目です。みなさんが高校生になる頃も、きっと続いています。なぜなら、高校生の頃に『きみっしょん』に参加した高校生がその魅力に取り憑かれ、大学院生になってスタッフとして戻ってくる、そんなプログラムだからです。
まずは、応募してみてください。皆様と会える日を楽しみにしています。
第20回きみっしょんの参加者とスタッフ (2021年度 zoom開催)
<きみっしょん情報>
HP:https://www.isas.jaxa.jp/kimission/
ブログ:https://kimission2021.blogspot.com/
Twitter:https://twitter.com/kimission
YouTube チャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCUSCGim5e14Q-0v5BoOr0xQ/featured
最終発表会の様子:https://youtu.be/f1j5KK4XET8
榎木谷 海
総合研究大学院大学 物理科学研究科宇宙科学専攻 M2
【専門・研究・興味】
赤外線天文学、DOGs、銀河形成・進化、系外惑星