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amulapo 鳥取砂丘を月面開発の聖地に - 前編[都村保徳]

amulapo

アミューズメントラボラトリを略して、amulabo。bをpに変換する逆転の発想を添えて、amulapo。その社名には、従来の宇宙開発に根付く堅いイメージを取っ払い、研究者や技術者といったもっと近しい存在が歩み寄り、子供から大人までより多くの人に親しんでもらいたいという願いが込められています。今回はそんなamulapoの取り組みや目指す未来について、代表の田中克明さんに熱く語っていただきました。

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月面極地探査実験

「宇宙飛行士になってみたい!」「月に行ってみたい!」誰もが一度はそう思ったことがあるだろう。そんな妄想を実現してくれるコンテンツ開発がamulapoによって進められている。1月23日・1月24日に宇宙飛行士を体験できる月面探査実験が鳥取砂丘にて行われた。応募は鳥取県のみならず全国各地から集まり、メディア告知前の時点でわずか募集開始1日で定員に達していたそうだ。それほどの反響を呼んだ実験は一体どのようなものだったのだろうか?

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月面探査実験の会場MAP

夜の鳥取砂丘を舞台に、人類の月面開発史を過去から未来へと辿る物語だ。月面に似た鳥取砂丘の環境資源を最大限に活かしつつ、VRゴーグルを着用して想像世界を創り出す。アナログとデジタルを融合することで得られるこの体験はまさに鳥取砂丘ならではと言えるだろう。

地上基地を出発後、地点1でこれまでの月面探査の様子を観察する。過去の軌跡を辿り、着陸地点に旗を立て、アポロを再現するのだ。

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地点1:アポロの足跡

地点2と3ではそれぞれの月面ミッションに挑戦する。具体的な身体運動(アクション)に連動してARグラス上に関連の月面コンテンツが出現するため、月面で仕事をする宇宙飛行士としての自分を体験できる。

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地点2:エネルギー探査

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地点3:建築資源探査

これらのミッションを終えた後、地点4で参加者を待ち受けるのは壮大な月面都市構想だ。ここでのミッションは一つ、「未来を旅しなさい」。資源探査・月面開発の末に広がる未来、その無限の可能性に私たちは何を思うのだろうか。

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地点4:月面開発予定地

そして地点5、とうとう最後のミッション。「地球を振り返って自分の感情を確かめなさい」。地球の出を眺めながら、改めて宇宙に行くことの価値を考えさせられたり、物事を俯瞰的に見ることの大切さに気づかされたり…いろんな感情が込み上げてくることだろう。

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地点5:地球の出

 一連のミッションを終えて、参加者は自分の選んだ曲を聴きながら地球に帰還する。その中には感動して涙を流した人もいたという。「最初はアポロで月に旗を立てることが限界だったところから、探査が進んで、都市ができて、2040年には努力の結晶がこうなるんだ、人って頑張ればこんなことができるんだ。そこで我を振り返ると、辛いこと、大変なこといろいろあるけれど、そんなことって宇宙の視点から見るとすごくちっぽけなことだなって改めて思った。」と言っていたそうだ。

宇宙飛行士体験と同時に、今後の宇宙探査への期待をも与えてくれる月面極地探査実験。そこには体験者と共に宇宙を創っていきたいというamulapoの願いが込められていた。

競争じゃなくて共創

今、宇宙を創っているのは国だ。宇宙ミッションもその多くが国プロジェクトなのだ。「宇宙開発はこうあるべきだ」と上から告げられるがままに決まっていく、要はトップダウン方式で動いている。最近では民間企業が参入してきてNew Spaceという新しい動きが見られるが、それすらも投資を受けている上で、思うように宇宙産業を展開できていないという。投資型ビジネスは、まず目先の利益を出すことが求められる。そうなると売り先がNASAやJAXAなどといった国家機関になり、結局国の宇宙予算を奪い合うことになる。新しく民間企業ができたとしても、そこの競争に参入しているだけで、市場拡大の動きにつながっていないのだ。

だからこそ今求められているのがB2C (Business to Customer)。一般の人がどう享受して、恩恵を受けて、宇宙を楽しんでいくかを考えることがとても重要なのだ。いろんな人が宇宙を楽しんで、宇宙について考えて、一緒に宇宙を創っていき、お金が足りないのならみんなで出し合っていく。そうすれば宇宙市場もどんどん拡大する。このようにamulapoは一般の人と共創していくボトムアップな宇宙開発を目指している。

そのためにはまず、宇宙を理解する必要がある。宇宙飛行士とはどのような職業なのか、宇宙は何に役立っているのか。宇宙を身近に感じてもらう第一歩がそこなのだ。インターネット通信や気象予報、実用的な側面で欠かせない宇宙の存在だが、何より大きいのは、そこに夢があるということ。端から輝いてみえるということ。宇宙と聞くだけでワクワクするということ。そこに最大の価値を見出したamulapoは、宇宙が地方活性化の鍵となるのではないかと考えた。

課題先進国の中の課題先進県

今、日本全体が元気じゃない。人口が東京に集中し、どんどん地域格差が進んでいる。課題ばかりが溢れているが、むしろそれはビジネスチャンスなのだ。いわば地方の課題と宇宙という解決策のマッチングで地方創生を実現しようというのだ。amulapoは日本という課題先進国の中でも特に先をいく鳥取県に目をつけた。

今回行われた月面探査実験も、高校生向けの3Dアート制作ワークショップも、観光業、若い世代、鳥取県全体を活性化させるためのamulapoならではのアプローチだ。このような事業を展開していく上でも地元のサービス業との連携を大切にしている。体験デザインを制作する星ノ鳥通信舎や「鳥取ツアーズ」を展開するWorkplays、地元の商店街の山陰三ツ星マーケット、鳥取城北高校などといったところと手を組みながら、観光において稼げるモデルを作れるか、いかに地方創生に繋げるかということを本気で考えているのだ。宇宙そして、それに紐づく科学技術を利用して、amulapoは鳥取からの地方振興を図っている。

鳥取砂丘を月面開発の聖地に

鳥取砂丘は月面開発にはうってつけだという。人口減少が進む鳥取県から世界を牽引できるような科学技術振興の流れをつくる傍ら、「鳥取砂丘=月面」というブランディングを広め、多くの事業者が月面開発における実証実験に利用できる仕組みづくりも試みている。宇宙エンターテインメントのサービス化、高校生ICT教育やコンテストの実施、月面開発の研究拠点の設立。amulapoはこれら3つの展望を踏まえ、鳥取砂丘をハブとした月面開発の一大拠点化を目指す。日本だけではなく、海外からも注目される事業展開をしていくつもりだ。

課題においては世界の最先端を進む鳥取が、いつの日か世界的な月面開発の聖地になるのだろう。そして2040年、月面に都市ができ、そこに住む日本人の多くが、一足先に訓練を受けていた鳥取県民なのかもしれない…


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取材の様子:amulapo田中さん(中央下)、SS都村(右上)

ここまでは月面極地探査実験とそれに至るまでの背景について紹介してきました。次回はamulapoが手掛ける科学版ディズニーランドの構想とその取り組みに迫ります!


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田中克明(たなかかつあき)

宇宙ロボットの専門、博士(工学)。(株)amulapoの代表取締役としてxR、ロボット,AI等のICT技術で宇宙体験コンテンツの制作を行う。(株)ispaceのロボティクスエンジニアとして月面探査車のモビリティの設計にも従事、その他、経産省ELPISから派生のELPIS NEXTの理事、早稲田大学の招聘研究員、TECHNO-FRONTIERの航空宇宙委員、日本かくれんぼ協会の研究員などを兼任。2050年に向けて宇宙を中心に科学技術を促進。最高峰の宇宙体験の開発を目指している。


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都村保徳(つむらやすのり)
英ブリストル大学 航空宇宙工学科 4年

【専門・研究・興味】
軌道力学、宇宙機ダイナミクス、プログラミング

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