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気の進まない休暇

クリスマスのプレゼントなどを用意したりしないといけないこともあり、12月が近づくと何かと忙しい。そういうことを建前に木曜から日曜まである街に行く。元彼の住む街だ。

この旅行自体は夫から私への誕生日のプレゼントで、私がそこへ行きたかった理由など、夫は到底知らない。その国の言葉を勉強していることもあって、語学の勉強も兼ねているくらいにしか思っていないようだ。

元彼と別れて少し事情が変わったが、今更変更など出来はしないし、少し休暇を取るのも悪くない。一人で出かけることにした。

彼には元彼のことを話してある。短い付き合いで破局したこと、夫との関係についても簡単に説明した。数ヶ月前のことだから覚えているかどうか分からないけれど、気づいてはいるはずだと思う。嫉妬はしないようなので、気にしていないのだろうか。彼のことを時々掴みどころのない人だと思う。

昨夜、いつ頃日本に帰れそうなのかと初めて聞かれた。年に二度くらい定期的に帰るので、大体の予定を話した。仕事の関係でその時期が丁度いいことも。

旅行の前日だというのに、私は気持ちが昂らない。大抵フライトの前は緊張したりするのに不思議だ。私は旅行好きなのに、今回は何故か気が進まない。

明日は天気が悪いようだと、彼に話しかける。日本時間はもうすぐ午前一時半で、彼にしてはかなり遅い時間だ。今夜は眠れないようだ。日本に帰る時期の事を話したせいなのか、私が明日元彼の住む街へ行くことが気になるのか、それとも別な事なのか、私には分からない。

眠らないと、とは言うけれど、付き合ってくれると嬉しいので、ついメッセージを書いてしまったりする。それは私たちの間では、いつものことだ。眠りにつくまで短い返事をくれる。時差が8時間あるので、既読がつかなくなるまで見届けたり出来る。時差があることの利点もあるのかもしれない。

さらっと、冗談まじりに私に触れたいのだというようなことを言ってきた。初めてのことではないし、特に深い意味のある言葉ではないのに、ドキドキさせられる。そしてかわいいと思う。覚悟という程のことではないけれど、心の準備が必要だと思う。彼の希望を叶えてあげるということだ。

彼のおかげで、私は心の安定を取り戻した。今は、LINEを見る時間がなくても、彼からのメッセージが来なくても、以前のような不安を感じない。もちろん、寂しいし、話をしたいけれど、苦しみとかいうものではない。まるでドラッグに依存するかのように、私は元彼とLINEに依存していた。時間が作りにくい週末はどう言い訳をして外出しようか考えてばかりいた。

何かが間違っていて、修正しないといけないのに、出口が見つからなかった。あの日、元彼は気分が優れないようだったのに、わざとほんの少し逆らってみた。糸口を掴むためだったのか、最後のチャンスを与えたかったのか、分からないけれど私はどこかで軌道修正をしたかったのだ。

二度と会わない、連絡を取らないと決めるまでの1ヶ月は悲惨だった。救いを求めるようにして出会ったのが今の彼だった。正反対の性格、何もかも安定していて、一見幸せそうな人生に私が割り込む余地があるということは、彼にも色々とあったに違いない。でも、私はそういうことには触れない。会った時に彼が話したければ話せばいいと思っている。

日本時間は午前2時を過ぎた。眠れないらしい。もう寝ないとねと、再度促す。明日また連絡するからとキスの絵文字をつけた。この他愛もない小さなシンボルを挨拶がわりにつけるのに、数ヶ月を要するとは滑稽だが、恋とはそういうものだ。


明日の朝、同じ時間に起きるよと夫はアラームをセットした。私のために朝5時に起きる必要はないのに、心配してくれている。帰りのフライトいつだっけ、メールしておいてと言い残して、夫は先に眠りについた。

彼への最後のメッセージに既読がついた。そしておはよう、眠いと短い返事。私の方は寝る時間なのでおやすみ、ともう一度キスを送る。間接的であっても救ってくれた感謝の気持ちもあるが、愛情であるとこの頃はっきりと感じている。彼の方も私のことを少しは想ってくれていると今夜のような日には感じられる。

具体的に日本へ帰る計画を立てようと思う。夫はまたきっと快く送り出してくれるだろう。

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