
四つ葉のクローバー
夜ふけにふと、ウイスキーのつまみにネットの購入履歴をつらつら眺めてみた。
ずらりと並んだ商品をスクロールし、のんびり過去へとさかのぼる。同じカテゴリの品が続くと、あの頃こんなのにハマってたなあ……という具合に記憶がよみがえったりして、思いのほか楽しい。
ところが干支にして半周をこえたところで、まったく記憶にないアイテムがあらわれた。四つ葉のクローバーの苗だ。
アルコールの天使が唱えるステキな呪文で、夜の記憶はしばしば消されてしまう。注文した覚えのない商品が届いてアラびっくり、という経験も二度や三度ではない。
だが四つ葉の苗は、届いただけで終わらないアイテムだ。植物だって生き物だから、当然ほっとくわけにいかない。水やりやらなんやらのお世話で、それなりに長いお付き合いだったはずだ。仮にすぐ枯らしたとしても、数週間はともに過ごしたろう。
ところがそんなクローバー育成の記憶が微塵もない。注文の覚えがないのはまだしも、育てた記憶や枯らした罪悪感まですっぽり消え失せてるのはさすがにおかしい。
スクロールを止め、四つ葉の画像をぼんやり眺める。そもそもなぜ、クローバーの苗を買おうとしたのか。幸せを求めてたのだろうけど、それほどまでに追い詰められた状況や心境がさっぱりだ。つらかった記憶さえもまるでないのは、やはりミステリーと言うほかない。
引っかかりは他にもある。幸せの四つ葉は、たくさんの三つ葉から見いだしてこそ価値あるものだろう。それに幸福をオカネで手に入れようだなんて、我ながら浅ましく情けない。たいして立派な人間でないとの自覚はあるが、まさかここまでのガッカリ星人だったとは……。
そんな話をいくつかの飲み会で披露するうち、真相が判明した。飲み仲間のひとりが、四つ葉のクローバーをもらったけど覚えてないの? と苦笑まじりに返してきたのだ。
目を丸くしてしばらく話し、ようやく経緯が見えてきた。どうやら四つ葉の苗は、娘ができた飲み仲間への出産祝いとして購入したらしい。
届いた苗は開封せず、緑を目にしないまま包装した。そうして酔いつつ渡したのなら、長い年月に記憶が消えても不思議はない。オカネで手に入れようとしたのは同じでも、自分でなく他人の幸せを願ってならば、その意味合いもだいぶ変わってくる。
まあ、クローバーはとっくに枯れちゃったけど、おかげさまで娘は元気よく小学校に通ってるよ――。すこし照れながらも幸せそうな近況報告に、内心ホッとしながら大きく相づちを打った。