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スガシカオ「sugarless」。甘くはないけど、心に染みる Sugarlessな旋律、星屑のように、散りばめられた、無糖の詩
筆者はスガシカオの音楽が大好きだ。
しかし毎日、毎週は聴けない。
「それじゃ好きじゃないんじゃないか...笑」と言うツッコミが来そうだがそうではない。
彼の楽曲は1曲1曲が濃密過ぎて聴くのに体力がいる。
作業しながら、ジョギングしながら、食事しながらなどなど、謂わゆる「ながら聴き」が出来ないのだ。
彼の作り上げた1曲1曲と対峙して、他の作業を全て止めて感性を研ぎ澄まして集中しないと聴いてむしろ疲れてしまうのだ。
筆者はデビューアルバム「Clover」、3rdアルバム「Sweet」そして今作「Sugarless」を聴くのに人生の貴重な時間をどれだけ捧げたかわからない。
「Sugarless」はスガシカオの音楽的才能が結晶化した作品だ。
都市の喧騒と個人のどろどろした内面が交錯する空間で、彼の繊細な感性が紡ぎ出す言葉の数々は、現代社会の孤独と希望を鋭く描き出す。
今作を通して流れる静謐な空気は、その都会の喧騒を逃れた深夜の公園のようだ。
そこには、孤独な魂が紡ぎ出す繊細な物語が広がっている。
アコースティックな音色と都会的なサウンドの絶妙な融合は、聴く者の魂を揺さぶる。
各楽曲は、日常の些細な出来事を通じて存在の本質を問いかけ、断片化された経験を繋ぎ合わせる試みとなっている。
スガの独特な声質が紡ぎ出す旋律は、時に囁くように、時に叫ぶように、時に絞り出すように、聴く者の内面に沈潜していく。
この作品は、現代を生きる個人の苦悩と、それでも前に進もうとする強さを、糖分のない真摯な音楽性で表現した傑作といえる。
それでは楽曲をレビューしていきたいと思う。
1.マーメイド
かつて共に大人を嫌悪していた「君」が、いつの間にか「汚れない大人」になろうとしているにも関わらず、「君」は永遠に純粋な少年の頃の心を持ち続けたいと願い、持っている振りをしている姿を。主人公が複雑な思いで見つめている様子を描いている。
永遠の象徴でる人魚が「君」が永遠に純粋な少年のままいたいと願う姿とリンクする。
深海から響く歌声。都会の喧騒に溺れそうな魂が、静かに泳ぐ。波間に揺れる月明かりのように、儚く美しい旋律。
2.ユビキリ
幼年期の純粋な約束と、大人の複雑な現実が交錯する瞬間。小指に宿る記憶の重さが、現代人の孤独を浮き彫りにする。
3.夜空ノムコウ
SMAPに提供して彼らの代表作でもある名曲だが、スガが歌うと重く悲しみ帯びた楽曲になる。
まるで自己の全体性を取り戻そうとする魂の彷徨。
星座を結ぶように記憶を紡ぐ試み。断片化された経験を繋ぎ合わせ、もがき苦しみそれでも明日に向かって生きて行こうとする姿。
夜空を見上げれば、そこに広がるのは過去と未来。点と点を結ぶ歌声。
4.ぬれた靴
雨上がりの街を歩く心情を、見事な比喩で表現。湿った空気感すら感じさせる、スガならではの繊細な楽曲。
5.夏祭り 夏の恋の儚さを、祭りの一過性に重ねる。民謡調のメロディが、懐かしさと切なさを見事に引き出している。
6.ココニイルコト 存在の証明を歌う、深遠なテーマの楽曲。スガの真骨頂である、哲学的な歌詞と心に響くメロディの融合。
7.バクダン・ジュース 青春の甘酸っぱさを、爽やかなポップチューンで表現。スガの多彩な音楽性を示す、軽快でキャッチーな一曲。
8.ひとりぼっち 孤独を肯定的に捉える、スガならではの視点が光る。静謐な音楽性が、歌詞の深さを引き立てる秀作。
9.うきぶくろをもって 重い心を水に浮かべるという斬新な比喩。スガの詩的感性が存分に発揮された、印象的な楽曲。
10.これから むかえにいくよ 待ち合わせという日常を、深い愛の表現に昇華。スガの卓越した作詞力が光る、心温まる楽曲。
11.8月のセレナーデ
夏の終わりの切なさを、蝉の声と重ねる繊細な表現。季節感溢れるメロディが、情景を鮮やかに描き出す。
12.Room201
閉ざされた空間での自己との対話。スガの内省的な歌詞と、静かに迫るサウンドが見事にマッチしている。
13.坂の途中
人生の困難を坂道に喩える、普遍的なテーマ。スガの力強い歌唱が、聴く者に勇気を与える名曲。
あとがき
『Sugarless』は、スガシカオの音楽性が凝縮された珠玉の一枚だ。アコースティックな音色と都会的なサウンドが絶妙に融合し、彼の独特な詞世界を鮮やかに彩る。このアルバムは、聴く者の心に静かに、しかし確実に染み入り、長く余韻を残す作品となっている。
筆者の長々と拙い文章を最後まで読んで頂きありがとうございました。
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