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フジファブリック1st「フジファブリック」日常の隙間に潜む非日常。耳を澄ませば、ここにしかない風景が広がる。ポップでもない、ロックでもない。それはただ、フジファブリック。
フジファブリック
ファーストアルバム『フジファブリック』
筆者にとってはこのアルバムは特別な思い出がある。
この作品がリリースされた2004年は筆者は大学を卒業して間もない頃だ。
まだまだ未熟な社会人として慣れない仕事の業務に追われていた。
7時台の電車に乗り終電での帰宅も珍しくない時代だ。
新しい音楽を、新しいバンドを積極的に探す事は減り、元々好きだったミスチル、スピッツ、スキマスイッチ、奥田民生、UKロック、レッチリ、などの10代の頃に吸収してきたアーティストたちの新譜を聴くだけになり、日々の忙しさを言い訳に、新しい音楽を受け入れる事に消極的になっていた。
お目当てのバンドの新譜を買いにたまたまレコードショップに行った時だったと思う。
たまには新しいアーティストを物色して感性をアップデートしてみようかと思い試聴機をハシゴして辿り着いのが、このフジファブリックのファーストアルバムだ。
聴いた瞬間に、脳が小学生の時代にタイムスリップする。何だ。この感覚は。
近所の空き地でビニールバットで野球をして、100円玉一つ握りしめて駄菓子屋でお菓子を選ぶ事が、何より楽しみだったあの頃。
遊び疲れて家へ帰る途中に、住宅街から漏れてくるカレーや煮物の美味しそうな匂いが忘れられなかったあの頃。
彼らの楽曲を聴いた瞬間、明らかに時空を超えてしまった。何だ。この感覚は。
昭和後期の情景に引き込まれるが、メロディもサウンドも歌謡曲染みてはいない。
「はっぴーえんど」の影響は感じなくもないが、古さは全く感じない。現代のロックバンドだ。
その日から筆者は彼らの虜になる。
この1stアルバムは、バンド初期の志村正彦を中心とするバンドの音楽的世界観が凝縮された一枚だ。
四季を象徴するシングル曲「桜の季節」「陽炎」「赤黄色の金木犀」を含む全10曲で構成されている。
志村の詩的な歌詞と独特なポップでありながらも叙情的なメロディラインが聴く者を幻想的な世界へと引き込む。
1. 桜の季節 (Album Ver.)
春の訪れを告げるこの楽曲は、アルバムバージョンとして再録され、より落ち着いたテンポと生ピアノの温かみが加わっている。
志村の歌声は、桜が舞い散る情景を詩的に描きつつも、その裏に潜む儚さや切なさを浮かび上がらせます。まるで桜吹雪の中で立ち尽くすような感覚を覚える一曲だ。
2. TAIFU
タイトル通り嵐のようなエネルギーに満ちた楽曲。疾走感あるビートとギターリフが印象的で、志村のボーカルが荒々しさと繊細さを行き来します。そのダイナミズムは、まるで台風の目に引き込まれるような体験です。
3. 陽炎
夏の空気感を纏ったこの曲は、揺らめく陽炎を思わせる幻想的なサウンドが魅力です。軽快なリズムながらもどこか物憂げで、夏の日差しの中に潜む影を感じさせます。志村の歌声がその情景を鮮やかに彩ります。
4. 追ってけ追ってけ
インディーズ時代から人気の高い楽曲であり、このアルバムでは新たなアレンジが施されています。軽快なメロディと遊び心溢れる歌詞が特徴的で、聴く者を無邪気な冒険心へと誘います。
5. 打上げ花火
夏祭りの夜空に咲く花火を描いた一曲。静かなイントロから徐々に盛り上がる構成が見事で、クライマックスではまるで夜空に大輪の花火が打ち上がるかのような高揚感があります。
6. TOKYO MIDNIGHT
都会の夜を彷徨うようなミステリアスな雰囲気を持つ楽曲。エレクトロニックな要素とジャジーなサウンドが融合し、大人びた世界観を演出しています。
7. 花
シンプルながらも深い感情を湛えた楽曲。片寄明人によるハーモニカやスタジオ内音響など、細部へのこだわりが光ります。その素朴さと温かみが心に染み入ります。
8. サボテンレコード
突発的に生まれたというこの楽曲は、その即興性ゆえか自由奔放なエネルギーに満ちています。ユーモラスでありながらもどこか切ない不思議な魅力があります。
9. 赤黄色の金木犀
秋を象徴する名曲であり、その香り立つようなメロディと叙情的な歌詞は圧巻です。ノスタルジックでありながらも未来への希望を感じさせる、不朽の名作と言えるでしょう。
10. 夜汽車
アルバムラストを飾るこの楽曲は、夜汽車に揺られる旅情を描いたもの。アコースティックギターとアコーディオンによるシンプルな編成ながらも、その静謐さが深い余韻を残します。
あとがき
『フジファブリック』というセルフタイトルに相応しく、このアルバムは彼ら自身を象徴する作品だ。
それぞれ異なる季節や感情を描きながらも、一貫して流れる独特の世界観は時に甘美で、時にエモーショナルで圧倒的だ。
この一枚から始まる彼らの音楽旅路は、多くの人々に新たな発見と感動をもたらす。
ぜひ令和の10代20代と素晴らしさを共有したい作品だ。
筆者の長々と拙い文章を最後まで読んで頂きありがとうございました。
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