"i" #1
注:これは逆噴射小説大賞の没作です。没の理由は最後に書いてあります。
僕はやっとたどり着いた。
校門の石に刻まれた文字を確認する。…Y大学。間違いない。
探偵からもらった資料を握りしめる。
五年間探し続けた『彼』についての資料だ。
ようやく、会える。
思わず笑みがこぼれてしまった。
僕が小学二年生の時。
僕の家族は東京から、ど田舎のH市に引っ越した。父が薬品系の会社に勤めていて、その仕事の都合だった。僕にとっては、初めての引っ越しだった。
不便なこともあったけれど、クラスの友達もすぐにできた。家族みんな幸せだった。
ある日、友達から一緒にサッカー部に入らないかと誘われた。しかし、その時の僕は
「入らない」
と答えてしまった。けれども、心の中には迷いがあった。
僕の兄は優秀だった。頭もよかった。スポーツもできた。二つ下の僕は、なんでもできる兄が自慢だった。僕は兄を目指して日々勉強していた。
しかし、スポーツは別だった。年のせいもあったのかもしれない。兄には到底及ばなかった。兄は小四でサッカー部のエースを任された。羨ましくもあり、絶対にたどり着けない存在だった。
そんな僕が、兄と同じサッカー部に入るのは気が引けた。兄と同じ道を歩んで比べられるのが嫌だったのかもしれない。それでも、きっぱり諦めきれない自分がいた。
そんな気持ちで過ごしていた時、僕は友達の家に遊びに行こうとして迷子になってしまった。引っ越して半年も経たないのに、一人で遊びに行くのはさすがに無謀だったようだ。
途方に暮れていると、人気のない公園を見つけた。H丘第三公園。全く見覚えのない公園だった。
どうしようかと一人でブランコに座っていると、ボールの音が聞こえた。サッカーボールで遊んでいる僕と同じくらいの男の子がいた。
「初めまして。僕は上野修二。君は?」さっそく声をかけてみた。
「僕はア…いや…」
これが『彼』との出会いだった。
そして高校一年の時、『彼』がH市を去るまで毎週のように『彼』と会っていた。忘れたくても忘れられない思い出だった。
五年の月日が流れた今、僕は『彼』に会わなければならなかった。会って「すべきこと」があった。
人目につかない路地裏。
『彼』の背後から声をかける。
「こんにちは。お久しぶり」
『彼』は立ち止まり、すぐに後ろを向いた。五年ぶりに見る顔は、驚いた表情をしていた。
「その声は…!」
「待ってたよ、この時を。ねぇ『アイ』」僕は『彼』を通称で呼んでみた。
「どうしてその名前を…」『彼』の顔は青ざめているように見えた。
僕はずっと隠し持っていたナイフを取り出した。
兄の敵はここで取らなければならない。
【続く】
没にした理由:800字以内でまとまらなかったため。