映画『走れロム』(ネタバレ感想文 )ベトナムの湿気と熱量
ベトナム戦争物以外で、ベトナムを舞台とした映画って馴染みが薄い。
私は、この映画の製作にも名を連ねているトラン・アン・ユン監督の『青いパパイヤの香り』(93年)くらいしか観た記憶がない。ああ、あと、『ナンバーテンブルース さらばサイゴン』っていうベトナム戦争末期の南ベトナムでオールロケを敢行したけど未完のままお蔵入りになって制作後39年を経てやっと公開された日本映画を観たことがある。
ああ、あと、モー娘。全盛期の頃の矢口真里ベトナム撮影写真集&DVD。ヤグチのアオザイ姿可愛かった(<どーでもいい話)。18年前だってよ。ヒャー!
国とか地域とか、それぞれ独特の「空気感」みたいなものがあると思うんです。
日本国内だって、横浜聡子が撮る青森の空と入江悠が撮る埼玉の空は違う。
映画って、その土地の空気感が切り取られている所も面白い(だから私は、CGばかりの近年のハリウッド映画に面白味を感じないのかもしれません)。
ベトナムの空気感って、上手く言えないんですが、なんかこう、画面から湿度を感じるんです。ただ暑いだけではなくて、ジトッとしてる感じ。もちろん行ったことがないから本当の所は分かりませんけど。
何が言いたいかというと、この映画から感じる「熱量」はかなり「ウェット」だということです。
「走る」という映画として魅力的な動きを、ドローンやステディカムといった今時の機材を活用し、且つ、スタイリッシュに編集していますが、決して「ドライ」や「クール」ではない。
私は、「走れ!」よりも「這い上がれ!」の方が相応しい気がしたくらいです。
33歳だという監督は、この映画の中で「まともな大人」を一切登場させません。「物語上の親」と言い換えてもいい。親のいない子供達の物語です。
実際メインの少年2人に両親はおらず、2人を動かす(彼らに行動理由を与える)のは「金貸しのチンピラ兄ちゃん」と「(ちょっと優しいけど)お金が必要な賭け屋のおばさん」なのです。いずれも「金」。
フランスから独立して半世紀以上、共産党一党独裁が続くベトナムの底辺を覆うのは「金」。知性や理性ではなく「金」。
これがベトナムの現実。この若い監督は、湿気を伴った熱気と共に、自国をそう切り取ったのでしょう。
この国(の最下層)が、まるで「親のいない子供」のように見えるのです。
この映画の主人公・ロムにとって「走る」という行為は「生きる」ことそのもの。
だからその「走り」に嘘がない。この映画の最大の魅力は「嘘がない」ことだと思うんです。
(2021.07.22 ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞 ★★★★☆)
監督:チャン・タン・フイ/2019年 ベトナム(日本公開2021年7月9日)