いにしえのアナログ技術が愛おしい男子映画。『ミッドナイトクロス』ネタバレ感想文
ブライアン・デ・パルマ監督1981年の作品。最近、旧作ばっかり観てるな。
主演は『サタデー・ナイト・フィーバー』と『ステイン・アライブ』の間辺りの若きジョン・トラボルタ。ヒロインは当時デ・パルマ夫人だったナンシー・アレン。
この40年前の映画を30数年ぶりに鑑賞(ほとんど忘れてる)。
だいたい『ミッドナイトクロス』ってキーボードで打つのも、録音技師が主人公だった韓国映画『春の日は過ぎゆく』のレビューで「この職業を観たのは『ミッドナイトクロス』以来だ」って書いて以来で、それだって2001年。つまり20年も前の話。
20年ぶりにその名前を口にして30年ぶりに再鑑賞した40年前の映画も、50歳を超えて観るとなんだかもう愛おしくって仕方がない。
なんでもミケランジェロ・アントニオーニ『欲望』にインスパイアされたとデ・パルマは言ってるそうです。本当かよ。まあ、アントニオーニをアメリカンにしたらこんな感じになるのかもしれませんけど、やっぱりデ・パルマはヒッチコックなんですよ。
冒頭の劇中劇は『裏窓』や『サイコ』、背後からの絞殺は『ダイヤルMを回せ』、その公衆トイレからカメラが引いていくのは『フレンジー』、クライマックスの花火は『泥棒成金』。ウヒウヒ言っちゃう。そもそも話自体が、典型的なヒッチコック風巻き込まれ型サスペンスですしね。
さらにこの映画でウヒウヒなのが、当時の技術。
オープンリールですよ。さすがに扱ったことはありませんが、私が大学生の頃、放送部だった友人は磁気テープを切ったり貼ったりしてましたから(こんな立派な装置じゃないけど)よく目にしました。ちなみに映研の友人は8mmフィルムを切ったり貼ったりよくやってました。
しかし(動画に関して言えば)この映画の数年後には一般家庭でもダビングでビデオ編集できるようになり、2000年代にはデジタル化されてPCで動画編集できるようになるんですよ。今じゃスマホで編集できちゃいますしね。
半世紀にも満たない間に起った凄まじい進化を目の当たりにしてきたから、当時の技術はなんだか胸熱。コマ撮り動画と音を合わせる作業なんか鼻血出そうなくらい興奮する。
でも一番興奮するのは、ショットガンマイクで音を拾っているシーンなんですよね。ここの演出、超興奮する。
でも冒頭30分。事件が起きる前。起承転結の「起」。そこで一番盛り上がっちゃうのがこの映画の欠点なんだよなあ。
つまりこの映画(欠点はさておき)男子が大好きなガジェット(という言葉は当時なかったけど)満載の映画だったのです。
そう考えると、今ではチープに感じる80年代的メロドラマが、実は男子が大好きなハードボイルドだったことに気付きます。
そうだよ。これ、めっちゃハードボイルドじゃん!ボギーあんたの時代はよかった。
陰謀とサスペンス。ガジェットとハードボイルド。男子の大好物。ザ・男子映画。
そうか、おじさんになってこの映画がことさら愛おしく感じられたのは、ある意味ガンプラ的な郷愁と愛着が理由なのかもしれません。
余談
撮影がヴィルモス・スィグモンドだったとは今の今まで知らなかった。
当時の大きい機材でスタビライザーなんか無かった時代に、これだけ安定した移動撮影や長回しは大変なことだったと思う。興奮する。
もっとも、『ディア・ハンター』なんかもっと過酷な撮影だったろうけど。
(2021.01.24 CSにて鑑賞 ★★★★☆)
監督:ブライアン・デ・パルマ/1981年 米