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私の映画鑑賞録2021(ネタバレ感想文)

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2021年新作映画のマイベストは『トムボーイ』。いや、日本公開が今年だっただけで本当は2011年の映画だけど。
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2021年8月の記事一覧

映画『子供はわかってあげない』 (ネタバレ感想文 )暗殺と左官と想い

大変素晴らしい映画で、珍しく原作マンガを即買いしました。まだ読んでいないので、あくまで映画から読み解いた感想を書きます。 冒頭からセメント伯爵だモルタルだと一体何を見せられているのやらwww。 その後に続く「絵に描いたような幸せな家族」。一体何を見せられているのやら・・・。 この冒頭エピソードで、「壁は超えるものではなく塗り替えるもの」という本作のテーマが宣言されます。 さらに巧みなのは、「絵に描いたような幸せな家族」シーン(ワンカット長回し)のラストで、カメラが静かに少

映画『 ドライブ・マイ・カー』 (ネタバレ感想文 )福音を待ちながら

長いアヴァンタイトルで「この映画は片眼が緑内障になるお話しですよ」と宣言されます。医者が言います。「もう一方の目が視力を補完してしまうので日常生活に支障がなく、病気の進行に気付きにくい。気付いたら突然失明していることがある」と。 一見問題ないように思えても、事態は後戻りできないほど悪化していることがある。夫婦関係に於いても、母娘関係に於いても。 そして、家福もみさきも何かを「喪失」していて、それを埋めるのではなく、静かにゆっくりと「受け入れていく」。 村上春樹の主人公はあま

映画『サマーフィルムにのって』 (ネタバレ感想文 )セカイ系ビューティフル・ドリーマー

おそらく監督は、映画(映像)に対する危機感を抱いているのでしょう。 ド腐れキラキラ映画ばかりが全国上映され、本格派よりお手軽胸キュンがもてはやされ、思考を必要としない短絡的な短編動画が主流となる。好きを好きと口にしないのが映画の魅力なのに、逆に好き好きしか言わないアバンギャルド感。監督が言いたいことは痛いほどよく分かります。 こうした風潮、特にド腐れキラキラ胸キュン厨房デート映画なんか、我々世代にとっては『斬る』対象なのです。斬られりゃ痛えぞ!しかしこの映画は「共存」の道を

映画『豚と軍艦』 (ネタバレ感想文 )まさかの娯楽大作

今村昌平初期(日活時代)の傑作と名高い『豚と軍艦』。初鑑賞。イマヘイは私の課題なんですよ。観てない作品(観るべき作品)が多すぎる。 ウチのヨメに謎の「長門裕之ブーム」が起きていたところに、ちょうどラピュタ阿佐ヶ谷で長門裕之特集上映があったもんだから足を運びました。 いろいろ驚かされる映画でした。 丹波哲郎と大坂志郎と加藤武と小沢昭一が西村晃をドツキ回すって、どんな豪華キャストよ。そもそも主役は津川雅彦の兄貴と芳村真理の妹だし(<面倒くさい言い方)。てゆーか、吉村実子17歳

映画『ファイト・クラブ』 (ネタバレ感想文 )本来P.T.A.向きの話だったかもしれない

公開時以来20数年ぶり鑑賞。正直、再鑑賞して少し評価下げる。 ブラピの魅力と流麗な語り口にだいぶ騙されてた気がする。あ、ファイト・クラブのメンバーと一緒だ。 「流麗な語り口」で思い出したんですが、この映画が製作・公開された1999年には『マトリックス』もあるんですよね。ある種の技術革新・映像革命が起きた年のような気がします。この映画、画面(えづら)の見せ方が新鮮だったんですよ。 町山智浩が『仮面/ペルソナ』(1966年)からの引用を指摘していて「なるほど!」と(つい最近)

映画『ファーゴ』 (ネタバレ感想文 )人間はおかしくて、哀しい

1996年の公開時(劇場鑑賞)以来、四半世紀ぶりに鑑賞(<最近そんなのばっかりだな)。コーエン兄弟は大好きなんですが、あんまり観直す機会がない。 日本公開時、この映画には「人間はおかしくて、哀しい」というキャッチコピーが付いていたと記憶しています。 これ、ある意味正解だし、ある意味間違いの元だったと思うのです。 正解だと思う理由は、その後ずっと(それ以前も)、このインテリ兄弟は「人間はおかしくて、哀しい」というテーマを描き続けているように思えるからです。 まあ確かに、世の

映画『いつかギラギラする日』 (ネタバレ感想文 )当時の時代錯誤感も今となっては許容範囲

映画館で鑑賞した1992年の公開当時でも年寄り臭く古臭い「時代錯誤」感のある映画でしたよ。しかし、一昨年、27年ぶりの再鑑賞をした際に「今となっては許容できる誤差の範疇」と思うようになりました、という話を(寄り道しながら)書きます。今回なぜかまた鑑賞。3度目。意外と嫌いじゃないんだな。そう何度も観るほど好きでもないけど。 (以下、以前の感想のリライトです) いろいろ「事後情報」を語りたい映画なんですよ。 自宅で不倫相手に自殺されたスキャンダル女優・荻野目慶子を深作欣二が救