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ピープルツリーのオーガニックコットン ~ゼロから始めたストーリー~

9月は「オーガニックセプテンバー」。オーガニックなものをもっと身近に感じて、広めていこうというイギリス発のムーブメントです。ピープルツリーの看板商品でもある「オーガニックコットン」アイテムについて、これまでの道のりを紹介します。

【2021年9月8日にピープルツリーのブログ「THE DAYS」に掲載された記事を転載しています】


ピープルツリーとオーガニックコットン

ピープルツリーがオーガニックコットン製衣料品の開発を始めたのは、1995年のことでした。

この年、私たちは途上国の生産者たちがコミュニティの環境を守りながら持続的な生産ができるように独自の「環境ポリシー」を定めました。

取り扱う製品をすべて人や環境を害さないものにしたいと、衣料品の素材とするオーガニックコットンの仕入れについて調査を始めましたが、当時、現地で共に働く生産者パートナーたちは、オーガニックコットンを手に入れるすべも、調達のための情報も持ってはいませんでした。

そんな状態から、試行錯誤しながら一歩ずつ歩みを進め、いまでは生産者パートナーが直接自分たちでオーガニックコットンの調達を行い認証を受けるという、サプライチェーンのあるべき形がインドでは完成しました。

バングラデシュなど、まだオーガニックコットンの調達に課題のある地域の生産者パートナーたちもその後を追いつつあり、現在ではコットン素材の衣料品の8割以上がオーガニックコットン製となりました。

社長のジェームズに聞いた、オーガニックコットン衣料品の開発から現在に至るまでのストーリーと、ピープルツリーのオーガニックコットンテキスタイル認証についてのお話です。

ゼロからの挑戦

オーガニックコットン製衣料品のゼロからの出発は、原料のオーガニックコットンをどこからどうやって仕入れるかの調査から始まりました。当時ピープルツリーの衣料品をつくっていたインドやジンバブエの生産者パートナーは、市場で一般的に流通している糸や生地を購入するしかなく、オーガニックコットンを手に入れる方法についても情報がありませんでした。

そこで、ピープルツリー共同創立者のサフィアとジェームズは、ジンバブエやインドのコットン農家を直接訪ねて回りました。
ジンバブエでは、農薬を使わず昔ながらの農法で栽培している農家が多くいましたが、コットンのジニング(綿と種の分離)、紡績(繊維から糸にする)などの加工工程は政府が管理しており、直接取引は難しいことがわかりました。

インドでは、1997年、マハラシュトラ州でオーガニックコットンの栽培に取り組む小規模農家たちと出会い、彼らの共同組合を通じて原綿を買えることになりました。農家組合に翌年の購入量を約束し、栽培開始時に代金の一部を前払いすることで、小規模農家たちが安心して栽培を続けられ、私たちも継続して確実にオーガニックコットンを仕入れられるようにしたのです。

製品の縫製は、南部タミル・ナドゥ州でカトリック修道会が耳の不自由な女性たちが働ける場として運営していた縫製作業所「アシシ・ガーメンツ」が担ってくれることになりました。
しかし、農家組合から仕入れたオーガニックコットンがアシシ・ガーメンツで製品となるには、他にもハードルがありました。

ジニング工場では通常、原綿を繊維の長さなどで仕分けするのみで、栽培地ごとに分けることはしません。そのためせっかく原綿がオーガニックであっても、糸や生地となる前にオーガニックでないものと混じってしまいます。工場に、オーガニックコットンの原綿だけ分けるよう協力してもらわなくてはなりません。

コットンの加工についてまったくの素人であったサフィア、ジェームズの二人は、多くの人に相談したり紹介してもらったりしながらあちこちの工場を訪ねて協力を依頼しました。
そして1998年、ついにオーガニックコットン100%のTシャツを製品化することができたのです。

1998年に発売されたピープルツリーの初めてのオーガニックコットン製品と、当時の通販カタログ(注:当時のブランド名は「グローバル・ヴィレッジ」)


認証への長い道のり

原綿の農家から最終製品の加工までのサプライチェーンを築いたピープルツリーが次に目指したのは、オーガニック製品であるという認証を取得することでした。
これは当時、「オーガニック」を謳う製品が注目されはじめたものの、真偽がわかりづらく、きちんと背景を説明できる透明性と信頼性が必要と考えたからです。

当時は、農産物である原綿のオーガニック認証については各国の基準を世界的に統合する作業が進んでいましたが、製糸や織り・編み、染めなどの加工を経て製品となったテキスタイル(繊維製品や生地)の認証は、一部のオーガニック認証組織が独自の基準を制定しているのみでした。
ピープルツリーは、オーガニックテキスタイル基準を持つイギリスの認証機関「ソイル・アソシエーション(SA)」で認証を取ることを決め、2005年に審査を申し込みました。

オーガニックテキスタイルと認められるためには、オーガニック認証を受けた原綿が最終製品となり出荷されるまでのすべての過程において分離・識別され、加工の過程でも有害な化学物質が使用されないことや、生産者の健康と人権を守る倫理規定が求められます。
これらが実践されていることを第三者に証明できなければなりません。

原綿のオーガニック認証書類や加工過程でのそれぞれの商取引の証明書を入手したり、製造や保管を適切な方法で行うためのマニュアルや作業記録を作成したりといった作業は、最終製品をつくるアシシ・ガーメンツが担わなければなりませんが、小さな縫製工場にとっては簡単なことではありません。ピープルツリーはアシシ・ガーメンツと二人三脚で、ひとつひとつ必要な作業をクリアしていきました。

アシシ・ガーメンツ代表(2007年当時)のシスター・ヴィニータ
縫製作業をする女性たち

サフィアとジェームズは、アシシ・ガーメンツの担当者と共にジニングや紡績、染色、生地の織りなどそれぞれの工場を訪ね、書類の発行を依頼したり、時には基準に合うよう作業工程を変えてもらう交渉をしました。
大規模な工場は、小規模の取引のために手間とコストをかけてオーガニックコットンの加工を別管理することに難色を示し、同意を得るまで何度も説得しなければなりませんでした。
ピープルツリーが費用を負担してコンサルタントを雇い、書類の作成や手続きをアドバイスしてもらうこともありました。

ようやく申請書類が整い、SAの審査官がインドに査察にやって来ると、今度は別の問題が発覚しました。
生地加工の方法のいくつかが、SAが定めるやり方と異なるため認められないというのです。しかしその加工方法は単に、ヨーロッパで通常行われていなかったためにSAの規定に含まれていなかったに過ぎませんでした。それまでSAの認証を受けたテキスタイルはすべて、欧米で加工されたものだったのです。
審査官もSAのスタッフも、インドで行われていた加工方法に問題はないという見解でしたが、規定に加えるには調査やテストが必要です。それらを経て、やっとSAの基準を満たしていると認めてもらうことができました。

そして、ピープルツリーも製品を輸入・販売する事業者として認証を受けるために、輸入から倉庫での保管、お客様への発送までの過程で必要な書類やマニュアルを整え、査察に合格しました。

こうして2007年、アシシ・ガーメンツでつくられたオーガニックコットン製品が、ついにオーガニックテキスタイル認証を取得しました。原綿栽培から最終加工まですべて途上国で行われたオーガニックコットン製品が認証を取得するのは、世界で初めてのことでした。

ソイル・アソシエーションのオーガニック認証を受けたことを示すラベル

これと並行して、2006年、SAはドイツ、アメリカ、日本のオーガニック認証組織と共に、各組織のオーガニックテキスタイル基準をすり合わせて世界共通の基準となるGOTS(Global Organic Textile Standard)を策定しました。ピープルツリーのオーガニックコットン製品は、世界で認められるものとなったのです。

GOTS策定の作業グループのメンバーの一人は、ピープルツリーのインドの生産者パートナーを査察した審査官でした。彼の知見があったことで、インドでの生地加工の方法を規定に含んだSAの基準はGOTSにも円滑に引き継がれたのです。ピープルツリーの働きかけが、欧米以外の国で加工されるオーガニックテキスタイルにも認証取得の門戸を開いたと言えるでしょう。

世界共通基準となったことに伴い、2012年にGOTS認証ラベルに変更。「DK22103」がピープルツリーのライセンス番号

支援から自立へ

ピープルツリーは、アシシ・ガーメンツが継続してオーガニックコットン製品をつくることができるよう、毎年コットンの栽培が始まる前にオーガニック農家組合と仕入れの相談をし、仕入れに必要な費用をアシシ・ガーメンツに前払いするなど資金的なサポートを行いました。

アシシ・ガーメンツはその後、ピープルツリーの仲介なしにオーガニックコットンを調達し、GOTS認証を受けるための査察の受け入れや書類の作成もすべて自力で行えるようになりました。今では、オーガニックコットン専門の縫製工場として他のバイヤーから注文を受けたり、インド国内の他の工場からオーガニック認証についてアドバイスを求められるまでになっています。

また、ピープルツリーが原綿の購入を支えていたマハラシュトラ州とグジャラート州の小規模農家組合は、販売の仲介に頼ることなく自立し、オーガニック農法の普及を支援する組織へと役割を変えて活動を続けています。

グジャラート州のコットン農家の女性(2013年)

認証が意味すること

GOTS認証では、使用される繊維全体の95%以上にオーガニックコットンが使用されている製品は「Organic」、70%以上95%未満であれば「Made with Organic」と表示されます。
ピープルツリーでは、インドの5つの生産者パートナーの製品がGOTS認証を取得し、そのすべてがオーガニックコットン含有量95%以上の「Organic」です。
バングラデシュの衣料品生産者パートナーはまだGOTS認証の取得には至っていないものの、原料にオーガニックコットンを使っています。
これらを合わせると、ピープルツリーのコットン衣料品の8割以上になります。オーガニックでないコットンの使用は、リサイクル素材を使ったものやオーガニックコットン糸の入手が難しい一部の生産者パートナーのものに限られています。

近年、コットンの生産背景に多くの問題があることが広く認識されてきたことから、大手企業の間でも改善の動きが出てきました。
2006年に発足した「ベターコットン・イニシアティブ(BCI:Better Cotton Initiative)」は、環境保護団体などの呼び掛けに欧米のアパレルメーカーが応じて実現した取り組みで、農家が農薬の適切な使用や労働環境の改善を遵守することでライセンスを受け、そのコットンをメーカーが仕入れることでコットン栽培の持続可能性を高めることを目指しています。

オーガニックのように厳しい基準やサプライチェーン認証、履歴確保(トレーサビリティ)まで求めないBCIのような取り組みは他にも次々と生まれ、2020年の世界のコットン生産量のうち、BCIまたは同等の取り組みで生産されたコットンは24%を占めるまでになりました。

このような動きは、コットン農家を少しでも苦境から救うためには喜ばしいことです。
とはいえ、BCIでは農薬の使用を大幅に減らすことは見込めず、環境への悪影響が懸念される遺伝子組み換えコットンも容認されているなど、真に持続可能なコットン生産といえるかについては疑問が残ります。
BCIコットンの生産量の多くを占めるのはアメリカやブラジルの機械化された大規模農業です。インドを初めとする小規模農家が恩恵を受けられ、すべてのコットン生産地で生態系が守られるよう、BCIに参加する企業もいずれはオーガニックコットンに移行することを目指してほしいものです。

ピープルツリーが20年かけて独自に築いたオーガニックコットン製品のサプライチェーンは、GOTS認証という世界的な制度によって一つのモデルとして確立され、これからオーガニックコットンを扱う企業や業界の指針となったものと自負しています。

オーガニックな素材を使うだけでなく、最終製品になるまでのすべての工程で持続可能なものづくりを。
ピープルツリーはこれからも、人と環境を大切にするベストな選択として、フェアトレードとオーガニックを推進していきます。

参考:
Textile Exchange “Preferred Fiber Material Market Report 2020”


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