新型コロナウイルスによって変化した日常への心理学的な対策
世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるっている。
日々感染者が増えていく中で,外出することは控えるよう要請され,自宅で過ごす日々が多くなったのではないだろうか。
新型コロナウイルスによって,人間の社会生活は大きく変わったのは事実である。
対面で会ってコミュニケーションするのが当たり前ではなくなっていく
新型コロナウイルスの一件で,コミュニケーションの取り方は大きく変化した。
たとえ現代がグローバル化や情報化により,インターネットを通じて世界中の人とコミュニケーションを取ることができる時代になったと言えども,Face-to-Face(対面状況)でのコミュニケーションは,ついこの前まで当たり前であっただろう。
しかし,今後はインターネットを通じたオンラインによるコミュニケーションが当たり前になるかもしれない。
リモートワークが増えてきた現在では,SlackやFacebookのメッセンジャーなどを使ったテキストによるコミュニケーションに加えて,ZoomやGoogle ハングアウトなどの音声によるコミュニケーションも行うようになってきた。
私たちは実際に会うことに価値を感じているかもしれないが,オンラインでのコミュニケーションへ強制的に移行することで,実際に会えることが難しくなり,「会える」こと自体がとても貴重なことになるかもしれない。
インターネットでのコミュニケーンョンが当たり前になる
インターネットを通じたオンラインによるコミュニケーションは,「コンピュータを介したコミュニケーンョン (Computer-MediatedCom- munication; 以下,CMCと表記する ) 」と言う。
CMCは,距離的,時間的な制約を解放し, 人々とのコミュニケーンョンの機会を増加させ,未知の人々とのコミュニケーションの機会も提供した (宮田, 1993)。
SNS(Social Networking System)などのソーシャルメディアが世界的に普及したおかげで,新型コロナウイルスが蔓延しても,ほとんどの人がCMCを行うことができる。
ただし,CMCは,Face-to-Faceによるコミュニケーションと異なる特徴を持っている。
CMCは,Face-to-Faceによるコミュニケーションと異なり,言語コミュニケーションが主体となる。つまり,印象形成などに重要な役割を果たす非言語コミュニケーションがほとんど伝達されない場合がある。
例えば,FacebookやTwitterなどでの CMCは,非対面状況かつ非同期的なコミュニケーションであり,相手のメッ セージに対して即時的な反応を必要としないため, 自分の伝えたい内容をまとめて表現することができる。
CMCで必要とされるコミュニケーションスキルは,文章表現や, 相手のメッセージへの反応のタイミングなど, Face-to-Faceによるコミュニケーションで用いられるスキルとは異なる。
そのため,CMCによって充実した人間関係を築いたり維持したりするためには,一定のコミュニケーション・スキルが必要になる。
対面でのイベントができなくなる
今年は,学会などが中止や延期になっている。
楽しみにしていたイベントもことごとく中止となった。
今後イベントを開催する上でどうすれば良いのかを教えてくれる記事があった。以下の記事では,Remoというオンラインビデオツールが紹介されている。
対面でのイベントやカンファレンスを開催することが難しくなった現在は,Remoなどを活用すれば開催できるかもしれない。
精神的な健康が失われていく
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,Twitter上で「疲」や「ストレス」などを含む投稿が増加していることが明らかになっている。
世間では「コロナ疲れ」「コロナ鬱」という現象まで出てきている。
人と会えなくなり孤独感が増える
新型コロナウイルスの感染拡大によって自宅で過ごす日々が多くなることで,人と会えなくなり,孤独感を感じている人がいるのではないだろうか?
孤独感とは,「他者との社会的なつながりが感じられないと主観的に知覚すること」である。
孤独感の考え方は研究者によって様々であるが,Peplau & Perlman(1982加藤訳)によれば,孤独感とは,個人の対人相互作用に関する現実の達成レベルが,理想の願望レベルと一致しない時に生じる主観的で不快な経験と言われている。
彼らの考え方は,孤独感を認知的な立場で考えており,孤独感は,①願望レベルの変化,②達成レベルの変化,③両レベルの違いの重要性や,違いの程度についての知覚の変化,のいずれかの方略で低減することが可能である(諸井,1989)。
つまり,孤独感を解消するためには,自分が求めている他者との関係を手に入れるか,求めている関係の水準を下げるかという2つのアプローチがある。
CMCを上手に行えば,普段から付きあいのある人とコミュニケーションすることを保つことができるため,孤独感を低減することができると言われている(White & McConnell, 1999)。
ひとりでいられる能力(Capacity to be alone)が求められる
「ひとりでいられる能力」(Capacity to be alone: 以下CBAと表記する)は,児童精神科医である Winnicott(1958)によって提唱された概念である。
CBAは,単に孤立に耐えられる能力を意味しているかのように誤解されやす いが,本来は「ひとりでいて誰かと一緒にいること」を意味しているため,青年期において個人の情緒的な成熟の指標と位置づけられている(吉田, 2014)。
つまり,CBAという概念では,一人(ぼっち)をポジティブな意味で考える。
この概念は,一人(ぼっち)をネガティブな意味で考える孤独感とは対照的なものである。
CBAを発揮すれば,一人で過ごす時間を楽しむことができる(和田, 2017)。
新型コロナウイルスが蔓延する中では,一人で余暇を楽しんだり,SNSを通じて誰かと会話したりするバランスが求められるだろう。
結論
今後は,コミュニケーションの在り方や取り方が変わり,それによる影響が出てくるだろう。
今後は対面で雑談がしづらくなってくると,雑談を促進するツールが流行りそうだ。
心理学の立場からコミュニケーションを考える身として,人々の生活が充実するコミュニケーションの在り方や取り方を問いたいと思う。
参考文献
五十嵐 祐 (2002). CMC の社会的ネットワークを介した社会的スキルと孤独感との関連性 社会心理学研究, 17, 97-108.
諸井 克英 (1989).大学生における孤独感と対処方略 実験社会心理学研究, 29, 141-151.
Peplau, L. A., & Perlman, D. (1982). Perspectives
on loneliness. In L. A. Peplau & D. Perlman (Eds.), Loneliness: A sourcebook of current theory, research, and therapy (pp. 1-18). New York: Wiley.
和田 実 (2017). 一人でいることは孤独か?―一人享楽と友人つながりからの検討― 応用心理学研究, 43, 11-20.
Winnicott, D. W. (1958). The Capacity to be Alone. In:The Maturational Processes and the Facilitat- ing Environment. London: Hogarth Press, pp. 29-36.
White, H., McConnell, E., Clipp, E., Bynum, L., Teague, C., Navas, L., ... & Halbrecht, H. (1999). Surfing the net in later life: A review of the literature and pilot study of computer use and quality of life. Journal of Applied Gerontology, 18, 358-378.
吉田加代子. (2014). 青年期におけるひとりでいられる能力 Capacity to be alone の獲得と内的対象像との関連 青年心理学研究, 26, 1-15.