ピープルフライドストーリー  (26)エッセイ④

      第26回
 (エッセイ)

   小学校のある思い出

          by    三毛乱

 小学三年生になって、それまでの近くの分校から本校に通うことになった。3㎞以上歩いて通った。バスはまだ通っていなかった。
 本校の算数の授業で、九九が皆全部覚えていたので焦った。分校にて、まだ四の段五の段を覚えている途中だったからである。
 けっこうストレスが掛かっていたのかもしれない。ある授業中に便意を催した。先生にトイレに行きたいと申し出た。許可された。丁度、教室の後ろのドアに一番近い席だった。ドアを横に開いて廊下に出て、すぐ閉めれば何の問題もないと思われた。
 ただ、学校の便所は、まだ汲み取り式であり、もしかしたら薄ねずみ色のチリ紙(その頃は、トイレットペーパーというものがなかった)がどこにも置かれていないのではないかという想像が頭の中に広がった。不安になった。なので、僕は良い考えだと思って、ノートの使っていないページの3~5枚をバリッと破って、すぐさま後ろドアを開け、廊下に出るとドアを閉め、便所へと駆け出した。
 すると、教室内からの爆笑の声が聞こえて来た。それこそ嵐のような爆笑の渦が廊下に溢れ出て、僕を立ち止まらせた。同級生の全員の笑っている顔と、女の先生の笑っている顔が一挙に想像出来た。僕は、ああこれが人に笑われるという事なのか、ノートを破いて便所へと駆け出す事は笑われる事なのだと初めて知った気がした。つまり、恥ずかしいよりも驚きの方が大きかったのである。そういう発見があったが、もちろん僕は、そのまま廊下にいる事もなく脱兎の如く便所へと駆け込んで行った。
 その後、その件に関してのイジメを受けた憶えはないし、変なあだ名を頂戴した事もなかった。
 田舎の小学校の、まだまだ牧歌的な雰囲気の残っている空間や時間の中に小学生らがいたのかもしれない、と今は思っている。
 そして、あれ以来、あれ程の爆笑を人からとった事がない。少々残念だ。出来れば、何かのネタでもう一度大勢の人の爆笑の渦を巻き起こしたいと願っている今日この頃なのである。

              終

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