ピープルフライドストーリー (9)三毛乱短編小説
【作者コメント: 今回は…過去のコントや漫画などで激似しているものがあるかもしれません……。最後のところまでもソックリでしたら、もうオリジナルなものが少しもないという事なので…、関係者の方々へ土下座をして深く陳謝しなければ……と思っています。】
第9話
世にも奇妙なマラソンの
ゴール会場
by 三毛乱
先頭の男のランナーが会場に入ってきた。
ゴールに張られた白いテープに近づく。
ゴール地点のそのテープを走る躰の勢いで切ろうとする。
と、ところが、テープは切れない。
ランナーが1m、2m…と超えてもゴールテープはぐぐーんと伸びて切れない。
なんという粘り強いゴールテープ。
もはや普通のゴールテープなどではない。
ランナー泣かせのゴムテープ。
しかも強力な。
10m程もランナーがゴール地点を超えても切れない。
力つきたようにランナーの足が止まる。
すると強力なバネの性質を持つこのゴールテープは、ランナーをじりじり押し戻し、あとは一気に勢いよくランナーを後方へ弾き飛ばした。
ランナーはゴール手前10m程に倒れ込んで口から泡を吹いた。
大会関係者の数名が担架を持ってきてランナーがすぐに運ばれてゆく。
倒れたランナーは失格となり優勝者と言えない、というアナウンスが会場に流れた。
更に、比喩などではなく厳格に物理的な意味でテープを切らないと勝者と認めないというアナウンスが続いた。
2番手のランナーがやってくる。
2番手のランナーも同じ目に遭う。
3番手も4番手も……。
次々とランナーが来てもゴールテープを切る事が出来ず、弾き飛ばされて、ゴール手前に倒されて、運ばれていった。
9番手のランナーがやってくる。
そのランナーはテープの前に来ると、腰に付けたランニングポーチからハサミを取り出して、足踏みをしながらテープをじょきじょきと切り始めた。
テープが切れた。
ファンファーレが鳴った。
観客の歓声が最高潮となった。
表彰台に上ったランナーは、後にインタビューされた。
レースに勝てた勝因はなんでしょうかという質問を受けた。
そのランナーはこう答えた。
「僕はルールを読むのが好きなんです。…だから、ルールをよく読んだからです」
そのルールブックには幾つかの項目・注意点が書かれていた。
その1つに、
[ランナーはゴール地点でのゴールテープを切らなければならない。このゴールテープを物理的に切らなければ完走した勝者とは認めない。]
…という文章があった。
そして、その文に続いて、とても小さい、あまりにも小さくすこぶる小さい字で[ハサミ使用可]と書かれていた。
(終)
2023 1 4