ピープルフライドストーリー (20)短い舞台台本
【作者コメント 短い軽演劇の台本が出来た。当初考えていたより、数多くの物が舞台に置かれる事になってしまった。もっとキャラクターや舞台進行など煮詰めたり整理したいとも思う。なので、いつか改訂版を出したい……。】
第20回
泥棒三人組
の
お仕事
by 三毛乱
登場人物
ボス(泥棒)
手下①(泥棒)
手下②(泥棒)
───幕が開く。
舞台暗い。ドアの開閉音。
パチッという音で明かりが
つく。部屋の入り口のドア
を背に三人の男がいる。下
手にキッチン、上手に浴室
がある。部屋は、本や雑誌
や服と空き缶空き瓶などの
ゴミと思えるものが、ひど
い散らかり様のまま置かれ
ている。
ボス ここが今から仕事する現場
だ。泥棒組合の情報ではここ
と両隣りの住人が今日は留守
だとの事だ。金目の物も多く
あるとの事だ。まあ、時には
鵜呑み出来ない情報もあるけ
どな。ドロボーの道はキビシ
イんだ。
手下①② ハイ。
ボス よし、じゃあ金目のものを
探すんだ。
手下①② ハイ。それにしても凄
く汚く散らかってますね。
舞台暗くなる。ボス、足で
物をのけながら中央前に出
てくる。スポットライト。
ボス いやー、うちのオヤジは職
人気質で男は背中で教育する
もんだってんで、いつも背中
ばっかりを俺に見せようとし
ていたんだけども、俺がぐる
ぐるオヤジの周りを回ると、
子供に負けじと後ろ向きによ
り早く回ろうとするので、す
ぐにぶっ倒れるバカなオヤジ
でした。アハハハ。
手下① ボス。
舞台明るくなる。
手下① 何やってるんですか。
ボス 漫談だよ。
手下① 漫談?
ボス そうだよ。これからは野球
選手だけじゃなく、いろんな
世界で二刀流の時代になると
思っているからね、漫談でも
勉強して役立てようと思って
いるんだ。アハハハ。
手下① はあ……。
ボス それで何かあったかい?
手下① ええ、この本の中に千円
が入ってました。
ボス そうか。(と言って、自分
の財布を開いて千円札を取り
出して本の千円に加える。)
手下① ボス?
ボス 情けは人の為ならずだよ。
宝くじが当たったから、少し
おすそ分けだ。親切と同じで
この千円が回り回って何十倍
にもなって俺のところに帰っ
てくるんだ。わかるか?
手下① ボスッ!
ボス わかるな、俺の気持ち。
手下① はい……ボスはドロボーの
風上にも置けない人間です。
ボス お。
手下① はい。
ボス それお前どんな意味だか分
かってる?
手下① はいっ。ボスはヤバイく
らい置いてけない程凄くて、
ヤバイことはいいことです。
ボス ちょっと違う気がするが、
まあいいや、俺は小さい事に
は気にしないタイプだから。
ポジティブシンキングのシン
キングだから。あっははは。
手下① あっははは。
ボス ところでお前、学はある方
かい?
手下① がく?
ボス 学校は?
手下① 中卒です。
ボス 俺なんか中学は三日で卒業
したぞ。
手下① さ、さすがっすボスッ。
ボス そうまあおだてるなよ。は
ははは。
手下① ははは……。
ボス 俺は小さい事は気にしない
タイプだからね。おっ?
ボス、左のキッチンにいる
手下②へと行く。
ボス お前何やってんだ。水流し
て何やってるんだ。仕事から
足でも洗うつもりなのか?
手下② いえ…。あんまりコップ
や皿が汚くて気が散って仕方
がないので、ちょっと洗っち
まおうかと思って……。
ボス バカヤロー。何やってるん
だ。そんな時はこの洗剤とタ
ワシを使わなきゃダメだぞ!
手下② ハイッ!…いいんですか、
使っても。
ボス 今度だけだぞ。
手下② ハイッ。
ボス 今回は大目に見てやるが、
次はないからな。ドロボーの
道はキビシイんだ!!
手下② ハイ。
ボス、上手の浴室に水を流
してる手下①のところへ行
く。
ボス お前もこの仕事から足を洗
うつもりなのか?
手下① いえ、しかし…。
ボス お前、靴も靴下も脱いで水
を流してたら、足を洗うとし
か見えねえじゃないか。俺の
目はふし穴かい?
手下① 違います。
ボス じゃあ、なんだ?
手下① あんまりフロ場が汚くて
ヘドが出そうになったんで、
少し掃除をやっておこうかと
思って……。
ボス バカヤロー! てめぇー、
トイレの掃除までやろうって
言うんじゃねえだろうな。
手下① いやー、そこはどうしよ
うかと考え中でした。
ボス ふん、良い根性してるじゃ
ねえか。仕事の前に整理整頓
しとけば仕事がやり易いって
いうからな。じゃ、やっちま
いな。
手下① え、いいんですか?
ボス そっちをささっと終わらせ
てこっちへ来てくれ。こっち
の部屋は入った時から汚くて
胸がムカムカしていたんだ。
この部屋を少し片付けないと
気持ちの収まりがつかないん
だ。分かったか。
手下① ハイッ。
ボス、手下②のところにへ
行って肩を叩き、この部屋
を整理整頓しろと指示して
一緒にやる。手下②がパン
ティを拾う。
手下② ボス、パンティです。
ボス だから、どうした?
手下② へへ、もらっちゃおうか
な。
ボス バカヤロー!
手下② へへ、冗談です。
ボス パンティ泥棒は泥棒界でも
最低のランクに入っているの
を知らないか?ドロボー社会
はキビシイんだぜ。パンティ
泥棒はドロボー社会から爪弾
きにされてんだ。ド・ロ・ボ
ー・社・会・は・キ・ビ・シ
・イ・ん・だ・ぜ!(と歌舞
伎のように大見得を切る。)
手下② わかりました。ハイ。
ボス あ、そう。わかりゃいいん
だ。わかりゃ。(もっと大見
得を切っていたかったのだが
見てくれなくて残念がる動作
をする。)
手下①がやって来る。
ボス お、来たか。一緒に片付け
てくれ。
三人で部屋の整理整頓をす
る。照明、次第に暗くなっ
てゆく。(─黒子があらわ
れて一緒に動作をする。時
間短縮の為だが、この辺は
演出家の手腕に任せたい、
とりあえず。─)
舞台完全に暗転した後に、
パッと明るくなる。だいぶ
部屋の整理整頓が出来てい
る。部屋の中央の入り口辺
に、三人がいる。
手下① いやー、金目の物が、ほ
とんどなかったですね、この
部屋は。
ボス そうだな。情報ではある事
になっていたがなかった。情
報に踊らされた結果になった
が、これもまた勉強だ。鵜呑
み出来ない情報もあるという
事だな。じゃあ、そろそろ帰
るか。
ボス、部屋の中でバシャバ
シャと写真を撮る。
手下①② ボス…。
ボス 何だ。
手下①② 何で写真撮ってるんで
すか?
ボス この写真を、撮った後にだ
な。
手下①② ハイ。
ボス この部屋の住人にな。
手下① 分かった。俺達が部屋の
中に入った事を知らせて、
脅しか何かに使うつもりな
んですね。
ボス ちがうっ!!
手下② じゃあ、何すか?
ボス ここの住人に、以前のよう
に汚い部屋だと俺達の仕事が
やりにくかったという事と、
単にこれからは写真の画像ぐ
らいには部屋をキレイにして
おけといった注意喚起の文書
を書いて送り付けようと思っ
ているんだ。
手下① ボス…、ボスはやっぱり
ドロボーの風上にも置けない
人間ですね。
ボス そうかあ?
手下① そうです。
ボス まあ大層な事を言うなよ。
とにかく部屋は少しはキレイ
になったし、俺達の気分も晴
ればれとなった、ちょっぴり
な。
手下① はあ、まあ。
ボス よし、じゃあ笑おう。笑う
門には福来たるって言うから
な。アハハハ。
手下①② アハハハ。
三人は入り口ドアの前で観
客に向けて立つ。
ボス よし、じゃあ最後は、久し
ぶりに仕事のシメの言葉を上
げて帰ろう。やれば出来る!
手下①② やれば出来る!
ボス 元気が一番!
手下①② 元気が一番!
ボス ドロボーバンザイ!
手下①② ドロボーバンザイ!
すかさず、手下の一人が部
屋の照明スイッチを押す。
その音。
暗転。
───幕。
(終)