かがみの狐城
前々から買っておいて、一気に読み切った「かがみの孤城」。2018年本屋大賞ということである。
いじめが原因で不登校になった中学生の女の子が鏡の中に逃げ込む。そこには、同じように様々な理由で不登校になった、同じ中学校の子が七名(スバル・アキ・リオン・フウカ・こころ・マサムネ・ウレシノ)集まっていた。それぞれの部屋の鏡から、そこに導かれていたのだが、同じ中学だというのに、現実世界では顔を合わすこともできない。実は、鏡の中で、彼らは、時空を超えて過ごしていたのだ。
この城を管理するのは、「オオカミさま」と、子供たちが呼ぶ、オオカミのお面をつけた少女。あとからの種明かしで、中学へ行きたかったのに病気で行けなかった、リオンの姉だった。
何しろ、時空を超えているという設定なので、大学生のアキが「心の教室」の活動を通して、入院しているリオンの姉(オオカミさま)の勉強をみてやったり、やがてその死に直面したり、その後、スクールカウンセラーとなったアキが、こころや、マサムネに寄り添うシーンが出てきたりする。
城の中で、また、現実世界のなかで、子供たちは考え方の視野を広げ、仲間がいるという強さも手伝い、現状を変えていこうとしていく。
子供たちは成長し、三月、別れのときがくる。記憶はなくなるが、どこかで会おうと約束し。そして、それぞれの部屋のかがみのドアは閉じるのであった。
SFの世界で使われる手法、パラレルワールドの世界は、大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」でも見ることができた。
私も、NHK「少年ドラマシリーズ」で、未来から転校生が来たり、ヒロインが自由に時間を移動したりするのを見ながら、あこがれたものだ。「少年ドラマシリーズ」では、未来人たちは、たいてい、未来の地球が滅んでしまうので何とかしなければ、と訴えていた。たぶん、みんな、正義感の強い主人公と一体化して未来の地球のために戦っていたと思う。
でも、未来の日本で、不登校の子供が増えたり、虐待死する子供が増えたり、子供による残虐な犯罪が増えたりするという予想は、できてなかったように思える。もしかしたら、十年先を行くアメリカを見れば、わかっていたのかもしれないが。当時は、二十一世紀を担う子供たち(私たち)は、期待され、大切にされていたように感じる。
パラレルワールドのお決まりは、必ず、別れがあることだ。時空間がねじれたままだと、世界がなくなってしまうからだ。歴史も変わるので、記憶もなくなる。これが、一番、つらい。ともに過ごした大切な思い出を捨てるのは。しかし、一縷の望みもある。生きていれば、どこかで出会えるだろうと。
パスポートの切り替えのための写真をパスポートセンターで撮って、古いパスポートの写真と比べて、十年前に自分は本当に存在していたのかと思った。今の自分しか、今はいない。古い自分は、いまでも、そこに存在しているのだろうか。パラレルワールドの世界を想像してみたりした。
とりあえず、はっきりシミ、しわがうつり込んでいる写真をこれから十年使うのがちょっといやで、駅前にある証明写真を撮る機械に入りなおし、修正写真を撮った。安く簡単に、十年前に戻れる方法があった。