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選択的夫婦別姓の是非ー完全版ー(作成途中)



1.本ページの指針と目的

 2025年2月現在、選択的夫婦別姓の導入を巡った議論が錯綜している。一見妥当に見える議論も事実の裏付けがなかったり、X上では陰謀論に近い主張が見られたりと、見るに堪えない状況になっている。ネット上の情報もどこまで信頼できるのかわからないし、法的観点からの情報は難しくて理解できない。
 そんな皆さんの力になれたらと、このページでは「選択的夫婦別姓をめぐる議論ー完全版」と銘打って、偏見のない公平な立場から客観的にこの議論の状況を概観し、分かりやすく解説していく。筆者自身はただの大学生であるが、根拠を明示してできる限り私自身の主観が入り込まないように配慮するので、その点は安心していただきたい。

 この記事が対象とするのは以下の人物像等である。
①学生で選択的夫婦別姓制度について調べる必要がある!
②社会人で、現在議論が盛り上がっている政治的議論について語れるようになりたいが、自分で一から調べるのは大変!

 そんな皆さんのために「完全版」として、「この記事だけ見れば夫婦別姓のすべてが分かる」というレベルにしていきたいと思います。
 

 さて、本ページの目的は以下の需要に応えることである。
 
「ネット上の情報がいまいち信頼できない(根拠の明示がない)。一方で、情報が膨大すぎて自分で調べ上げるのが大変!」

 そんなあなたの期待に応えるため、本稿では以下のことを徹底したい。
①情報にはすべて根拠(原則として、論文、新聞記事、国家機関や弁護士会などの公的機関の情報のみを扱う。)を明示する※¹。
②筆者の主観は交えず、客観的な事実や意見をありのまま(要約はするが)記載する。
③常に最新情報を更新したい(これは努力義務である※²)。
④もし、訂正などの意見がある方がいたら、根拠と共に送っていただけたら改善する。

※1私自身、高校時代に卒業論文を執筆し、それなりに高い評価を受けているので、引用方法や信頼できる情報の峻別等には一日の長があるので、そこは信頼していただきたい。(noteを使い慣れておらず、正しい引用のつけ方を模索中なのはご愛敬)
※2記事を書き上げるのにも相当な時間を要するので、ご愛敬。

 また、引用の示し方につき、各章で※¹のように1から示していき、章の最後にまとめて引用元を示す。

 では、選択的夫婦別姓について、見ていくとしよう。なお、本文では「です/ます調」は用いないので、悪しからず。
 


2. 我が国の現行制度の状況と歴史


 

2-1 選択的夫婦別姓制度とは

 念のため、選択的夫婦別姓の定義について法務省の定義を確認しておく。 
 なお、「姓」とは「苗字」ないし「氏」と同義である。

 現在、男女が結婚する際、全ての夫婦は必ず同じ氏(法律上、「姓」や「名字」は「氏」と呼ばれる)を名乗らなければならない。
 「選択的夫婦別氏制度」とは、夫婦が同じ氏を名乗るという現行制度に加え、希望する夫婦が結婚後もそれぞれの結婚前の氏を名乗ることを認める制度である※²。(法務省は「選択的夫婦別氏制度」としているが、一般通称の方が分かりやすいので以下、「選択的夫婦別姓制度」に統一)
 この制度は選択制であり、全ての夫婦が別々の氏を名乗らなければならないわけではない。これまでどおり、夫婦が同じ氏を名乗ることも可能であり、別々の氏を名乗ることを希望する場合には、それを選択できるようにする制度である。
 例えば、草野さん(男)と池田さん(女)が結婚したとする。その際、二人はいづれかの姓を選択する、というのが現行制度である。それに対し、選択的夫婦別姓制度では、草野さん、池田さん双方が苗字を変えずに結婚が可能になるのである。無論「選択的」であるから、従前と同様に苗字を片方にそろえることも可能である。

 具体的に「選択的夫婦別姓」を採用した場合の民法改正案は以下のようになる。
 

 第三 夫婦の氏
一 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。 
二 夫婦が各自の婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻の氏を子が称する氏として定めなければならないものとする。
第四 子の氏
 一 嫡出である子の氏 
 嫡出である子は、父母の氏(子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏)又は父母が第三、二により子が称する氏として定めた父若しくは母の氏を称するものとする。  

法務省:民法の一部を改正する法律案要綱

2-2 現行制度の仕組み

 人は,出生の際に、 嫡出である子については父母の氏を,嫡出でない子については母の氏を称すること によって氏を取得し(民法790条),婚姻の際に,夫婦の一方は,他方の氏を称することによって氏が改められ,離婚や婚姻の取消しの際に,婚姻によって氏を改めた者は婚姻前の氏に復する(同法767条1項,771条,749 条)等と規定されている。また,養子は,縁組の際に,養親の氏を称することによ って氏が改められ(同法810条),離縁や縁組の取消しによって縁組前の氏に復する(同法816条1項,808条2項)等と規定されている※¹。
 民法750条を受けて、戸籍法74条1号は婚姻届にその夫婦の姓を届け出ることを規定し、両規定の結果、夫婦が称する姓を定めない限り婚姻届が受理されない。実務でも「夫は夫の氏,妻は妻の氏を称する」旨を記載して婚姻の届出をした場合、市長から不受理処分がされるという運用になっている※³。すなわち、門前払いされるというわけだ。

2-3 歴史的経緯

 続いて、上記制度がいかに成立してきたのかを概観する。これは口述する「日本の伝統」という議論とも密接にかかわる。

日本における氏の変遷※⁴

江戸時代(別姓)

武士の結婚は家制度に基づいて行われた。
生家の氏を名乗る。
墓には「○○氏女」、家系図には「○○母、△△氏」と記載された。

苗字は武士の特権であり、庶民の氏の公称は禁止されていた。

明治時代

1870年
太政官布告
一般市民にも氏の公称を許可

1872年
太政官布告
一人一名主義を導入し、改称を禁止

1875年
氏の使用を義務化
目的 兵籍取り調べのため

1876年(別姓)
太政官指令

婦女は結婚後も生家の氏を名乗る
ただし、夫の家を相続した場合は夫家の氏を称する
特徴 姓氏は出自を表すものとされた

1898年(同姓)
明治民法公布・施行
妻は婚姻により夫の家に入る(旧788条)
戸主および家族はその家の氏を称する(旧746条)
その他
氏は家の称号とされた
女戸主も認められていた
女戸主が結婚した場合、夫が妻の氏を名乗るが、入夫した夫が戸主となる

1947年(同姓)
民法改正(翌年施行)

変更点 家制度および戸主制度を廃止。現行制度と同様に夫婦いづれかの氏を称する仕組みになる。

2-4 諸外国の状況

 次に、各国における夫婦の姓の制度を見てみよう※⁵。諸外国の資料を参考にする意義は後述する。また、諸外国の細かい制度の説明は蛇足になるので省略する。もし、必要があるのであれば諸外国の制度を個々別々に調べていくしかないが、私の調べたところではかなり難しい。以下の表は自由に使用してかまわないが、ムードルなどで提出すると引っかかるので注意を要する。



佐藤一明「夫婦別姓」日本経大論集 45 (2), 115, 2016-03-30

2-5 日本における世論調査の状況

 世論調査の状況は制度の是非をめぐる極めて重要な指標になるため、ここは慎重に記載したい。特に、各新聞社が行う調査や内閣府が行った調査など、様々なソースがある。1で示したように本稿の目的は中立的・客観的判断資料の提示にあるのであるから、なるべく多くのデータを提示したい。なお、データに対する「評価」はここでは記載しない。
 また、世論の意識の変化も重要でああるため、最初に現在の世論調査の状況を示し、次に歴史的変遷を見ていく。なお、後者の点については重要性が相対的に下がるため網羅的に各データをさかのぼるのは蛇足と考え、極力省略していく。
 

現在の世論調査

 内閣府

 要約:現在の制度である夫婦同姓制度を維持すること、選択的夫婦別姓制度を導入すること及び旧姓の通称使用についての法制度を設けることについて、どのように思うか聞いたところ、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」と答えた者の割合が27.0%、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」と答えた者の割合が42.2%、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」と答えた者の割合が28.9%となっている。
 

新聞社

 有料につき表は省略

 過去の調査結果の推移

 では、「選択的夫婦別姓制度」の導入につき賛成派の人の割合はどのように変遷してきたのだろうか。内閣府のデータをもとに見てみよう。

  1. 平成8年(1996年)6月調査

    • 賛成:32.5%

    • 反対:39.8%

    • 通称使用を認める:22.5%

    • わからない:5.1%

    • 出典:内閣府「家族の法制に関する世論調査」

  2. 平成13年(2001年)5月調査

    • 賛成:29.9%

    • 反対:42.1%

    • 通称使用を認める:23.0%

    • わからない:5.0%

    • 出典:内閣府「家族の法制に関する世論調査」

  3. 平成18年(2006年)12月調査

    • 賛成:35.0%

    • 反対:36.6%

    • 通称使用を認める:25.1%

    • わからない:3.3%

    • 出典:内閣府「家族の法制に関する世論調査」

  4. 平成24年(2012年)12月調査

    • 賛成:36.4%

    • 反対:35.5%

    • 通称使用を認める:24.0%

    • わからない:4.1%

    • 出典:内閣府「家族の法制に関する世論調査」

  5. 平成29年(2017年)12月調査

    • 賛成:42.5%

    • 反対:29.3%

    • 通称使用を認める:24.4%

    • わからない:3.8%

    • 出典:内閣府「家族の法制に関する世論調査」

  6. 令和3年(2021年)12月調査

    • 賛成:28.9%

    • 反対:27.0%

    • 通称使用を認める:42.2%

    • 無回答:1.9%

    • 出典:内閣府「家族の法制に関する世論調査」

賛成派の推移

 その他の興味深いデータ

 1家族の役割に関する調査※⁶
 家族の役割として最も大切だと思うものは何か聞いたところ、「子どもをもうけ、育てるという出産・養育面」と答えた者の割合が22.7%、「親の世話をするという介護面」と答えた者の割合が3.8%、「心のやすらぎを得るという情緒面」と答えた者の割合が51.4%、「日常生活の上で必要なことをするという家事面」と答えた者の割合が17.4%となっている。
 都市規模別に見ると、「心のやすらぎを得るという情緒面」と答えた者の割合は大都市で高くなっている。
 性別に見ると、「子どもをもうけ、育てるという出産・養育面」と答えた者の割合は男性で、「心のやすらぎを得るという情緒面」と答えた者の割合は女性で、それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると、「子どもをもうけ、育てるという出産・養育面」、「日常生活の上で必要なことをするという家事面」と答えた者の割合は70歳以上で、「心のやすらぎを得るという情緒面」と答えた者の割合は18~29歳から50歳代で、それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると、「子どもをもうけ、育てるという出産・養育面」と答えた者の割合は男性の40歳代から70歳以上で、「心のやすらぎを得るという情緒面」と答えた者の割合は男性の18~29歳、女性の18~29歳から50歳代で、「日常生活の上で必要なことをするという家事面」と答えた者の割合は男性の70歳以上、女性の60歳代、70歳以上で、それぞれ高くなっている。

2ページ目-家族の法制に関する世論調査(令和3年12月調査) | 世論調査 | 内閣府

 この他にも、内閣府の世論調査では興味深いものが多く掲載されているが、ここでそれらすべてを張ってもしょうがないので、そちらのページを参照されたい。

2-6 参考資料

※1 最判平成27年12月16日 民集 第69巻8号2586頁
※2 法務省公式ページ 法務省:選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について
※3最大決令3年6月23日 最高裁判所裁判集民事266号1頁
※4利谷信義『家族の法』(有斐閣、1996年)158-184頁。高橋・前掲注(6)134-178頁。坂本洋子「夫婦 別姓訴訟最高裁判決に思う―立法府は速やかに法改正を」時の法令1994号(2016年)58-59頁を参照。
※5佐藤一明「夫婦別姓」日本経大論集 45 (2), 115頁, 2016-03-30 
※6 内閣府 世論調査 2ページ目-家族の法制に関する世論調査(令和3年12月調査) | 世論調査 | 内閣府

 

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