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叔父上を石川先生にしてしまった



※本編中盤くらいまでのネタバレがあります。未プレイの方はご注意ください。



今更ゴーストオブツシマを遊んでいる。

ちまちまと進め50時間ほど。ようやく對島の北側までやって来た。
一周目なのにDLCと思わしきマップに行き、地獄のような難易度の上がり方に元から削れていた誉を追加でドブに捨てる羽目となった。
それまではギリギリ叔父上の教えを胸にしようと果敢に正面から一騎打ちを申し込んだ日もあったのだが、
壱岐から帰ってきた私の仁は爆竹で敵を集めてつはうで一網打尽にする畜生へとなれ果ててしまった。
叔父上、申し訳ございません。
その後、馬突撃と冥人の型を覚えた結果正面から飛び込んで切り回るのが一番楽になってしまい、また正面突破へと変わった。
叔父上、これはこれで申し訳ございません。

まだまだ北にきたばかり。ストーリーも佳境ではあるが、まだ全ての結末は分からない。
その状況でこれを書き留めておきたくなったのは勿論あのお方

皆大好き。石川先生のおかげである。

ちょっと嘘である。


正直、私はプレイ序盤から石川先生のことを「なんだこの老人と武士の悪い部分が鍋で煮込まれたような奴は…」と思っていた。
石川先生は非常に腕の良い弓取りである。
物凄く尊大な口調で仁に弓を教え、ものすごく尊大な態度で自らを裏切った弟子を追うのを手伝うよう命令し、
戦闘では常に弓を使うが時々仁に無茶をさせた挙句稽古と言い張るのである。
歯に衣を着せないなら偏屈なじいさんである。

そしてこの石川先生は先述した通り裏切者の弟子を追っている。
弟子は巴といい、盗人の生まれではあったが神がかったような弓の腕前を持っていた。
恐らく先生を信頼すらしていなかったのか、一時期は食べ物を勝手に蓄えたり、小刀を常に隠し持っていることもあったようだ。
しかしそれらを知った上で、石川先生は彼女の弓の才に惚れこみ、養子にすることを考えていた。
ただ、巴は腕は良いが性質に難があった。幼い頃から石川先生に弓を教わる裏で、悪事を働いていたのである。
それに激昂した石川先生は巴を罰し…というのが大体のあらすじである。
(ちょこちょこwikiで確認はしたものの、細かい間違いがあったらすみません)

石川先生と巴の話を聞いた時、私は「マジで弓しか見てないんだなこの爺さん…」とちょっと半笑いになってしまった。
石川先生は都合の悪い事は隠しまくる。
上記の話もちょくちょくちょくちょくちょくちょく聞き続けてようやく全体が掴めた感じである。
とかくプライドが高い。見たい物しか信じていない。自分が一番偉いと思っている。なんなんだこの爺さんは。
などと思っていたのだ。

「前の拠点はそういうの無かったじゃん…」と声に出た

叔父上と仁が袂を別つ瞬間を見るまでは。

物語の中盤、強大な敵である蒙古を倒すため、仁は非道な行いに手を染める。
蒙古の宴の酒にトリカブトを仕込み、毒殺する――。
それは叔父、志村が求めていた「武士の誉れある戦い」とは間反対のものであった。

志村は仁を糾弾し、彼に「武士」として戻るよう説得するが、仁はそれを拒み投獄される。

蒙古は手強く、強大である。
また侍と、侍の戦い方を知り尽くしている。
ゆえに侍の求める「誉れ」ある戦いでは常に蒙古の掌の上となってしまう。
ツシマを救うためには「誉れ」を捨て、闇に生きる「冥人」となってでも戦うしかない――

実際、仁と意識を共にするプレイヤー視点でもその事実を何度も見せつけられる。
侍の名乗り。正面突破の矜持。誉れで出来た戦いの作法は易々と蹂躙されていく。
侍が蹂躙されることは即ち、更に弱い立場である農民や下人が人間以下の扱いを受けることを意味する。
それを何度も見て、弱いものを救おうとした覚悟の結果が仁の道なのだ。
(ただ毒の件に関しては、結果として蒙古も毒を使うようになり、結果として民への非道な行いを加速させることとなってしまった。
下法を用いれば下法で返される。結果として「誉れ」なき戦いの悪面とも言えるのではないだろうか。)

投獄されることとなっても仁のこの道は揺るがず、また私もその直前まで「叔父上はもうちょっと現実見ろよ…」などとヘイトをむき出しにしていた。
そうして志村は仁に背を向け、仁を彼の跡取りにするという彼の「武士」の道が書かれた紙を火にくべ、灰にする。
その直後に志村の瞳から流れた涙を見て、急に頭を殴りつけられたようなショックを受けたのだ。

「今私は、仁は、叔父上を石川先生と同じ立場にしてしまったのではないか?」

志村は。叔父上は侍である。
石川先生もまた、侍である。
侍であるが故、侍の生き方しかできない。

叔父上には後を継がせたい男がいた。
石川先生にも後を継がせたい女がいた。
だが仁は侍としての「誉れ」を捨てたような戦を時折見せ、
巴からは石川先生に反目するような行動が垣間見えた。

だが、叔父上は仁が武士へと帰って来れることを信じた。
石川先生も巴の弓の腕を信じ、黙認した。
そうして、二人とも裏切られたのだ。

勿論、人を助けるために道を違えた仁と、賊と悪事を働いた末蒙古に寝返った巴を一緒にするべきではない。
しかし、武士としての生き方しか知らない2人が「跡取り」として選ぶということ。
仁を人ではない冥人から人間の誉れある侍へと戻す事。
それは誉れや体裁、武士矜持のためだけでもない。
志村の、甥に向けた家族への愛だったのではないかと思うのだ。
そうして恐らく、石川先生もそうなのではないか。
不意にその辺りが自身の中で繋がり、結果として「夢見がちで堅物な叔父上と袂を別った」のではなく
「名も知らぬ弱き人を助ける為、唯一の肉親の願いを裏切った」ということに気付かされたのである。

今、私の仁は志村の叔父上に追われる身である。
巴も未だ生死が分からない。これからどうなるのかも分からない。
だが恐らく、いつか。志村の叔父上とはまた会うのだろう。
その時「武士の志村」として終わるのか。「唯一の叔父上」として終わるのか。
今から楽しみでもあり、恐ろしい。
ゴーストオブツシマ、本当に良いゲームである。

追伸 それはそれとして政子殿のターンの時ずっと「やれ!いけ!仇討ちだ!邪魔するな仁!」と叫んでしまいます。
悲しさが土台ではあるのであまり茶化すべきではないのですがあの苛烈さ 癖になってしまう瞬間がある。

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