米国のAI企業に対する主要な著作権関連訴訟の紹介(2024年)
今年2024年の米国でのAI企業に対する著作権関連の主要な訴訟を3つピックアップして、概要と現在の状況を紹介します。
各記事をベースにした内容となっていますので、詳細内容はリンクを貼ってある各記事をご覧ください。
前提
前提として、生成AIのトレーニングがフェアユース認定されているかどうかについて説明します。
複数の訴訟で、原告側の訴えが一部棄却されているケースもありますが、生成AIがトレーニングで著作権で保護された作品を使用することが、フェアユースにあたるのか、あたらないのかについては、結論が出ていません。
以下の記事でも、米国著作権局の局長であるShira Perlmutter氏が、生成AIのトレーニングに関する「フェアユースの重要な問題に対処する(裁判所の)判決はまだ出ていない」と述べています。
訴訟情報がまとまっている記事紹介
AI関連の訴訟の状況をまとめた記事は英語ではいくつか出ており、まずはそちらを紹介します。
以下は、WIREDが、AIが関連する著作権訴訟がどのように進展しているかを詳細に追跡し、どの企業や権利者が関与しているのか、訴訟はどこで提起されているのか、どういった主張がされているのかをビジュアル化した記事です。
以下は、Copyright Allianceが訴訟を一覧化してまとめている記事。関連している記事の一覧も同じページにまとまっています。
以下は、AI企業に関する訴訟の情報が網羅的にまとまっている記事。著作権以外の訴訟(プライバシーなどの訴訟)も含まれています。
主要な3つの訴訟の状況
注目度が高いと思われる、主要な3つの訴訟の概要と状況を紹介します。
Sarah Andersen v. Stability AI
この訴訟については、以下の記事を参考にしています。
アーティストであるSarah Andersen氏、Kelly McKernan氏、Karla Ortiz氏が、Stability AI、Midjourney、DeviantArtを相手取り、画像生成AIモデルのトレーニングのために原告の著作物を無断でコピーしたとして、直接的な著作権侵害を訴えている集団訴訟です。
2024年8月にこの訴訟について、Orrick判事は、原告の修正第一訴状に対する却下申し立てを一部認め、一部却下する命令を出しました。
その命令の中で、原告にとっての重要な進展がありましたので、紹介します。
1つ目。Orrick判事は、「データ」として統計的に表現された保護されていない情報をコピーしただけであり侵害ではない、とするAI企業の主張を明確に退けました。
2つ目は、Orrick判事は、AI技術が過去の技術とは大きく異なるため、過去の著作権侵害事件の判例が、これらのAI侵害事件にほとんど影響を与えない可能性があることを認めています。
判事は以下のようにも述べています。
… The plausible inferences at this juncture are that Stable Diffusion by operation by end users creates copyright infringement and was created to facilitate that infringement by design.
(前略)この時点での妥当な推論は、Stable Diffusionがエンドユーザーの操作によって著作権侵害を引き起こし、その侵害を促進するように設計されたというものです。
これらの命令は、訴訟の初期段階でのものであるため、今後の判断がどうなるかは分かりませんが、現時点では原告にとって重要な判断が下されたと言っても良いと思います。
New York Times v. OpenAI, Microsoft
こちらは、New York TimesがOpenAIに対して起こした訴訟で、約1年くらい前に提起されました。
この訴訟では、The New York Times(以下NYタイムズ) がOpenAIを相手取り、LLM(大規模言語モデル)のトレーニングにおける著作権侵害を主張しています。
こちらの訴訟に関する進展はあまりありませんが、最近では以下のようなことが起こっています。
OpenAIは、「生成AIモデルのトレーニングにコンテンツを利用した」と主張するアメリカの大手日刊紙「ニューヨーク・タイムズ」による著作権侵害に関する訴訟に直面しています。しかし2024年11月20日にOpenAIが裁判所に提出した書類の中でOpenAIは、この裁判に関する証拠のデータを誤ってすべて消去してしまったことを明かしています。
なおOpenAIへの訴訟は米国だけにとどまらず、各国で訴訟が起きている状況ですので、参考として紹介します。なお、米国内でもNYタイムズだけではなく、複数の訴訟が起こされています。
ドイツ:
OpenAI、無許可での歌詞使用によりドイツでGEMA(ドイツ音楽著作権協会)から提訴される
インド:
インドのニュース通信社ANIが、同社のオリジナルのニュースコンテンツが無許可で使用されたとして、OpenAIを提訴
カナダ:
UMG Recordings v. Suno, Udio
こちらは比較的最近起こされた訴訟です。
全米レコード協会(RIAA)が主導で、ユニバーサル ミュージック グループ、ワーナーミュージック・グループ、ソニーミュージックグループなどを含む原告が、SunoとUdioを提訴。レーベルの音源を違法にコピーし、AIモデルをトレーニング、音楽を生成したと主張しています。
以下の記事に詳細がまとまっていますので、興味がある方はぜひご覧ください。
また、追加情報として、Sunoが「基本的にインターネット上のすべての音楽ファイル」でトレーニングしたことを認めたという記事も出てきています。
以上、簡単ですが、注目されている主要な訴訟について紹介しました。みなさんの参考になれば幸いです。
最後に
こちらは「生成AIによる無断学習をどんどん禁止する Advent Calendar 2024」の12月23日分です。
参加者の記事は以下から閲覧可能ですので、興味がある方は他の記事もぜひご覧ください。
また、このアカウントは普段から生成AIに関するリスクや規制について情報収集と発信しています。もしよければ、参考にしてください。