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カシナートの剣。
800字/2分
超短編小説《short short story》
サムネイル/執筆 ハナガサペノコ
わたしは運が良かった。
職業は「せんし」。
年齢は28歳。
幼少期からどうしても僧侶になるよう世間体に威圧感を交える親に強制される事に嫌気がさして冒険者稼業に身を落としている。
飲みたくもない酒場へ通い、
下卑た豚どもに義務なる会釈。
まさしく落伍者だ。
プレートに似つかわしくない体型のみが迷宮で生活する私の武器だった。
パーティ参加の条件として何度も姦通を強制されたが内容は覚えていない。
アタマの中ではいつも夢に出る女王蜂がひらり気刻みな輪舞曲を奏でる。
其れのみがいつか訪れる幸せだと本当に信じてるのだ。
事実、その夢は死という現実となって豚どもへ間接的な天罰となりて敵を穿つのだ。
それが私の武器。
武器枠など無くとも十分生活できた理由だった。豚どもの補充は容易かった。相手の前に立ち鉄壁を装う。
同じ豚の攻撃が振り下ろす軌跡に合わせてひらり輪舞曲を舞う。
あとは笑顔混じりの泣き虫素振りを見せ相手にすり寄り次の武器枠を確保する。袂を分かった母から譲り受けた装備に感謝する。
迷宮から帰還するとすぐに公設市場へ行きピルケースを補充する。安価な麻痺止めど毒消し薬を混ぜ合わせて使用する避妊薬だ。剣には鞘も必要だった。
寄宿舎に戻る途中、臭い堀の中から複数の小綺麗な身なりの悪鬼が舐めるような目線を送ってくるが相手にしない。
奴らは豚以下だ。死なない魑魅魍魎の類。既に経験則が警鐘を鳴らす。素早く会釈をし、反対方向に翻す。
奴らは死なない。自慢げに最強武器を片手に吹聴する悪鬼には関わるなと蜂が舞う。
今日の場所は東の外れ。
盛場養豚場用のドレスに身支度を済ませ夜の帷が降りた武器調達に向かった。
明日はレベルが上がる。
1人で祝おう。ずっとひとりで。
サムネイル絵/執筆者
ハナガサペノコ