似て非なる人生迷宮。
小生の随筆制作を快諾して頂いたスマートフォン版無料迷宮ゲーム「NIZ」制作の白峯先生に感謝を込めて。
冒険、前日譚。
少し記憶の残滓を整理する。
ぽつり。
水滴が数滴、床を濡らす音。
嘶く断末魔、
春秋不明の不気味な無形立方構造。
....これは現実だ。
劈く耳障りと腐臭極まりない建築途中のR階スラブで作り上げる空想構造物とは訳が違う。
それに恐怖に引き攣る理由が異なる。
路傍で車中の褥の中、耳障りな一定周期なサイレンという擬似魔法で振り下ろす無法駐車切符でもない。
ブラウン管内で閉ざされたボクの、
いや。愛好思想の異空間。
迷宮探索。
8ビットという得体の知れない閉鎖空間にボクらはいた、これが現実だ。
探索全てが疑心暗鬼との闘い。
複雑且つ巧妙に仕組まれたラビリンス。望んでも叶わぬ歪な現実空間を紙に刻む。
予想し得ない不確定な「ソレ」が仄暗い下卑た感覚で行手を阻む。
来るであろうその日の為に、潜る。
性格が一致しない無味な冒険者と。
潜る、
死が穿つ。
潜る。
死が分つ、
潜る。
見えない終着駅すら定めと予定調和など存「やっと装備ゲッツー!!」
は?
「さっそくツイツイっ☺️
ハッシュタグ#wiz愛好会っと」
は?
「いいね👍増えてくう〜w」
あ?質問返しっと
「クリア余裕wリセットして低確率d
は?
なんだこれ。
仄暗い深層から戻ると、
世界が一変していた。
驚愕的城塞都市。
門番がいる城砦正門で纏まった貨幣を準備したが、あり得ない無料の手続きと合い成った。
信じられないが開門準備に入る。
あの光景を掻き消し、奮い立つ気持ちを落ち着かせ門をくぐる。
見知った景色がボクを和ませる。
むしろ雑踏や喧騒の雰囲気を肌で感じる環境だ、肌に馴染む。
違うのは、冒険者だ。
よく見ると、
高齢な冒険家は1人もいない。
若さを保ち、歳を取らない妙な冒険者が装備品を見せびらかしてく。
「ムラマサスゴイ?」
話しかけても会話が通じない。
馬小屋から出てきたなにかの家畜と見間違えたか。
街は活気に溢れている。
はやる気持ちを抑え酒場に向かう。
刹那、「てんぷれーと」と呼ばれる煌びやかな武器を手に取りお互いに自慢を営んでいる冒険者がまた居た。今後は冒険愛好員と呼ぶ事にしよう。
街の郊外を探索したが墓所らしき場所すらない。愛好会員は不死なのだろうか?
市場にも寄ってみたが購入する人影は微塵も居ない。買取り作業員が数人いた。恐らく明日へ向けた開店準備の仕入れ業者達だろう。
やはり新世界らしい。
愛好冒険員達への非礼を詫び、環境に適合する姿へ小生も偽装を施すことにする。
訓練所
ここで出会った教官に手解きを受ける。どうやら旧世界の元冒険者らしい。非常にクチが悪かったが理論に筋は通る。
一連のやりとりを経て無事卒業となった。今日の出来事はnote紙に「新訳ウィザードリィWiki」という名前で纏めておこう。
新世界に倣い、琉球弧で有名な出立ちに身を纏めてみた。愛好会員としてうまく溶け込めている事だろう。
そばにいた訓練所で共にいた愛好会員がリセットなる秘術で容姿を手に入れたと豪語している。魑魅魍魎の類と思ったが無言で後にする。
迷宮探索、序章。
此処から先の記憶が断片だ。
ランタンで火を灯し迷宮探索に挑む。
明かりに浮かび上がる景色は荘厳美麗で気分が高揚する。さすが新世界。
暫く道なりに進むと見慣れない墓標が突き立てられている
まだ外界から吹き込む風が届く浅い階層、無造作に貼られた赤紙の標識をカタカタ揺らしている。
歴戦の古兵の脳裏に刻まれた警報が鳴り響く。これは現実だ。
迂回を取り、真偽を確かめてからでも遅くはない。
攻略本?そんな旧式には頼らない。
あれは歪な現実空間だ。
紙とペンと経験則だけが真実だと棺桶が囁いてくる。
戦道行
−たたかいのみちのゆき−
ランタンが突然消え去った。
いや、叺の匂いは残る、発する熱も消えていない。
ぞくり。
急激な酸素濃度変化が脳に伝達する。
三叉神経の一つ、視神経の消失。
暗闇ではない、我々の伝達神経のみが遮断されたいわば擬似的な目眩し。
此処で怯えるような初心者は小便を撒き散らし脱兎せよ。先ほどの赤紙召集令状の意と解釈する。
ふふふ。訓練場で叩き込まれた新訳ウィザードリィWikiの経験則だ。
暗中模索を整理しよう。
つまり冒険者の互いの行動半径半径1メートル。
つまり前衛3人合計で5〜6メートル。矮小な四方の閉鎖空間だろう。
つまり腕[かいな]から前衛者で利き手と逆手を壁に打ち付け、一定周期で音を鳴らしていけば進軍は可能。
闇雲に進んでは命の燈が消えソレの餌になるのが必至だろう。
サムネイル絵師の知識が役に立つ。
さあ、進軍だ。
イジメノススメ。
虚偽偽装に彩られた偽札や豪華な瞞し。中央に座する象徴化した異物。
先刻、視力剥奪な目眩しより花灯路に突き当たる。頭痛も消え去り視界が広がり目に映る、その先に彼がいた。
いつの時代も上位に立ちたい煌びやかな屑共は此処にも登場した。車にブランド、最近なら相互フォロワー押し付けというのか?
恐らく何度も何度も何度も、
虚偽偽装を施す経験の押し付けが耳障りでしかない。
惨めなポルシェだ。と心で吐き捨てその場を後にする。
帰路、そして出立。
この綺麗な門扉入場が無料だといまだに信じられないあの城塞都市に戻ってきた。
此処の宿は質素だが綺麗に行き届いている。金額に見合った傷処置も見事。今後の指針値に値する心地良さ。
一週間ほど過ごしてゆっくり傷が癒えていくのを確認していく。
窓から下を見ると馬小屋付近で何度も迷宮入口へ負の往来を行う下賎の冒険者が後を絶えない。これが怪物を生むシステムだろう。
おっと負の落雷で二次災害を生む前に呪文を唱えておこう「桑原、桑原」
死が穿つ、終焉
迂闊だった。
過去、サキュバス達の前でなす術もなく柔らに蹂躙され、拐かされた後、無銭路傍の石へと変えられた苦い経験が蘇る。
今回は淫夢ではない。
路銀だ。それも自販機の下では留まらない夥しい数のクリーピングコイン。
恐らく数百幾千の金のチカラに抗えなかった自分を恥じる。
旧世界では無力だったただの金貨。
好きなだけ猫糞しても咎められない悪魔の誘惑。
刹那、
傷のカウント数にぎょっとした。
でもやめられないとまらない。
「1」
「1」
歪なカッパえびせんでは「1」冒険者達には効かな「1」だ。
着実に「1」ボクらの勝「1」あれ「1」
「1」おかしい?
「1」
いた 「1」
金貨ではない。虫だ。
数を数える暇なく襲いくる貯金残高の桁数が0単位で増えていく昆虫。
事実、
断末魔なんて存在しない。
走馬灯なんて存在しない。
事切れるのだ。
一瞬で。
墳墓の地、終焉の園。
「死生観の強さは私生活の発露。」
5回ほど集中治療室で目覚めてからだ。
カドルトでもザオラルでも、
救急車でも緊急蘇生手術でも。
*囁き、祈り、詠唱*
時折の蘇生失敗も範疇のうちと笑えるようになった。リセットをし続けていると理解できず泣き喚く事だろう。
「死」とは、
ラッキーの積み重ねなのだ。
人生ゲームで死生観を体験出来るのなら是非、勧めたい。
もちろん、ノーリセットで。
いつかくる現実に抗う気力が今だけ無料で手に入る。
本粋に天使の贈り物だろう。
空想のフォロワーより
大切な、ダイレクトなメールでの友人達に心から感謝を。
死に掛けた自分を引っ張り出してくれた友人達に笑って「生かすなバーカ」と伝えよう。
新世界でも、現実社会でも。
wizでもNIZでも、
大事な物は変わらない。
明日も踠いてみよう。仲間達の住うあの場所へ。
すこし泣ける楽しいあの場所へ。
似て非なる同じ迷宮へ。
イラスト執筆者
花笠ペノコ