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10年目のライター・イン・レジデンスを振り返る

今月はじめ(2024年8月)に、長野県木曽塩尻市でライター・イン・レジデンスプログラムをおこなった。

2015年からスタートさせたライター・イン・レジデンス『LOCAL WRITE』としては今年で10年目であり、今回で10回目の開催となった。
飽きっぽい自分がこれだけ長くひとつのことを続けているということと、これだけ回を重ねているにも関わらず、自分自身が未だに新鮮な刺激を感じていることに驚いている。

ライター・イン・レジデンスとは「一定期間ライターに滞在場所を提供し、その創作活動を支援する制度」のこと。聞いたことのない人がほとんどだと思うが、各地の芸術祭などで行われることも多いアーティスト・イン・レジデンスのライター版と言うとわかりやすいかもしれない。

海外では自治体などが主催者となることが多く、もともとは小説家やプロのライターを対象にその地域を題材に書いてもらうことで、地域の魅力を外部に発信するということを目的としていたようだが、ぼくはこれを自分なりに解釈して、ライター志望者や発信力を身につけたい人、そして地域に関心を持つ人を対象とした合宿スタイルの実践講座を行ってきた。※当初はプログラムに『地方で書いて暮らす4日間』と名前を付けていた。

そもそもぼくがライター・イン・レジデンスというものを初めて知ったきっかけは、全米鉄道旅客公社Amtrack(アムトラック)の取り組みを、たまたまwebで見つけたことだった。

Amtrackはアメリカ合衆国を東西に横断する長距離鉄道なのだが、航空便の価格が下がってきたこともあり、乗客の減少が顕著だった。そこで、広く募って集めたライターを寝台列車に乗せ、2日間から5日間の乗車時間を鉄道旅行の魅力を発信するための執筆に充ててもらうというアイデアで集客を図ろうとしたのだ。

その名も「Amtrak Residency」。数日間も列車に乗りながら執筆するというのは、新幹線の中での数十分の執筆さえままならないぼくにとっては目眩がしてしまいそうだが。

次に目にしたライター・イン・レジデンスも同じくアメリカ、デトロイトで行われた「Write A House」。これは財政破綻したデトロイト市が、増えすぎてしまった空家に借り手を増やすために打った作戦で、内容はいたってシンプル。空家にライターをほぼ無料で住まわせ、町の情報を発信させることで地域を活性化させようというものだった。

このプログラムにさらに驚かされたのは、ライターが2年間そこで成果を出すと、住まいとなっていた空家そのものがプレゼントされるということ。その発想の奇抜さも秀逸だが、地域外のライターによる当該地域の課題解決事例であることに感心した。

「Amtrak Residency」と「Write A House」は、どちらもライターを一定期間滞在させて執筆してもらうという、ライター・イン・レジデンスの枠組みに沿ったもの。通常の場合、ライターは物理的にも精神的にも客観的な立場から仕事することが多いものだが、ライター自身が現場に入り込み、自らも当事者となっていく構図にとても興味を引かれた。

また、ぼくがライター・イン・レジデンス『LOCAL WRITE』を始めた2015年頃には国内の事例はほとんど無かったように記憶しているが、最近では面白いライター・イン・レジデンスもたくさん生まれている。

なかでも一番尖った企画が、宮崎県椎葉村の「秘境の文筆家」。地域おこし協力隊として赴任した地で、最長3年間、月給をもらいながらプロの小説家を目指すというものだ。
この企画、直木賞作家の今村翔吾さんに執筆指導をしてもらえて、家賃も無料。期間中は6か月に1作品程度の執筆を行い、3年以内の商業出版を目指すという。
「秘境の文筆家」に参加したいと思った人には残念だが、2024年度はすでに締め切られており、92名の応募の中から4人が選ばれて着任したという。
次年度以降も椎葉村で同様の「秘境の文筆家」となる地域おこし協力隊を募集するのかは不明だが、関心を持って見ているのはぼくだけではないはずだ。

「秘境の文筆家」ほどインパクトがあるものは稀だが、このほかササっと検索するだけでも岡山、尾道、嬉野などでライター・イン・レジデンスのプログラムが企画されている。それぞれに企画意図があり、参加者はかけがえのない時間を過ごしていると思う。
10年前を思い出してみると、ぼく自身がライター・イン・レジデンス『LOCAL WRITE』を始めたのは、それ以降にできた言葉ではあるが、やはり
「関係人口」を生み出せるかもしれないことにわくわくしたからだと思う。

※長くなって来たので一旦切ります。経緯について、次の投稿で。


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