令和6年に「戯言遣いの名前」を考える

※「戯言シリーズ」「人間シリーズ」のネタバレと、牽強付会が含まれています。

未読の方、こじつけの酷い考察が苦手な方はブラウザバック推奨です。




皆さんは、令和の時代に舞い降りた戯言シリーズ最新作「キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘」をお読みになられましたか?

2002年「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」から始まり、
2005年「ネコソギラジカル(下) 青色サヴァンと戯言遣い」にて幕を閉じた本シリーズが、まさかの復活。


シリーズを通して語り部であった「ぼく」の娘・玖渚盾が代わりとして主人公を務めながら、シリーズ最初期で描かれていたミステリー小説の特質を取り戻した正統続編。

2022年から戯言シリーズを読み始めた新参者の私も、大変楽しませていただきました。

その中において、玖渚盾の父親であり──引いては以前まで語り部を務めていた戯言遣いである「ぼく」(通称「いーちゃん」)の本名が明かされることを期待していた読者の方々は少なくなかったでしょう。

かくいう私も、その内の一人でした。

とはいえ。

ぶっちゃけ「たとえ新作が出ても、いーちゃんの本名が明かされるわけないだろ
と予測していた人のほうが多かったでしょうし、私もその点に関しては低い概算で見積もっていました。

そもそも彼の名前は、戯言シリーズ6作品を通して徹底的に伏せられてきたのです。

その上、スピンオフの「人間シリーズ」でも戯言シリーズ用語辞典と銘打たれた「ザレゴトディクショナル」でも開示されなかった本名。



そんな謎に包まれた戯言遣いの本名について、今まで数多くの人たちが思いを巡らせてきたことでしょう。

実際に検索エンジンで「いーちゃん 本名」と打てば、多種多様な考察が出てきます。

というわけで今回は、そんな数々のサイトに触発された私が「いーちゃんの名前を考えてみよう!」という趣旨の記事です。

話半分、冗談半分でお送り致します。
それでは。


あまりにも多過ぎるヒント


まず始めに、戯言遣いの名前に関して書かれた記述の整理。
ここで戯言シリーズを知る方々なら察していただけるかもしれませんが、考察の観点から本作を読み直すとヒントとなる情報が大量にバラ撒かれていることがわかります

ですが、そのヒントはどれも婉曲的です。
…………それだけなら普通のヒントとして受け入れるべきなんですが──それを語るのが戯言遣い本人であることが、ここでは問題になります。
だってアイツ信用できねえから……!!!

……語り部の信用問題はともかく。


「周囲の人物に名前を明かさない」という彼の設定が、果たしてどこまでのレベルなのか読者には想像が付かないからです。

よく考えたら「自分の名前を呼んだ人間は全員死んだ」とか普通にダウトだろ。
とか疑っていけばキリがないので、いーちゃんの本名を考える時には『ヒントを無視してでも、条件をある程度まで絞る』ことが必要になってきます。

で、その前提となるヒントというのは

  1. 彼のニックネーム全般

  2. 名前はローマ字だと子音が7、母音が8

  3. 「あ」を1、「ん」を46とした場合……名前の総和は134

  4. 妹の名前が「井伊遥奈」

  5. 「戯言遣いと読んだ」みっちゃんの所見

  6. 「☓☓☓☓☓」という台詞


パッと思いつくのは、このあたり。


1〜3は皆さんご存知かもしれませんが『萩原子荻に出題した名前当てクイズ』の中でいーちゃんが答えた証言です。
戯言シリーズ3作目「クビツリハイスクール」から今日に至るまで、何度も読者の首を捻らせてきた戯言遣いの謎。その契機となった会話。

考察サイトを巡れば、この3つの条件を満たした名前がいくつも読者から提唱されています。




今回はこれらの条件を無視します





いーちゃんの人間性



ここからは、【名前当てクイズの解答は「あのつぎにくるじ」で決定してもいいのではないか?】という前提で考えていきます。
(あのつぎにくるじというのは、インターネット上に挙げられていた名前候補。あのしたきのよこ、という別解も。初めて見た時は「なんでそんなの思いつくんだよ」と慄いた)


────
「あのつぎにくるじ」
ANOTUGINIKURUZI
ローマ字(訓令式)で子音が7、母音が8

あ=1 の=25 つ=18 ぎ=7
に=22 く=8 る=41 じ=12
で合計が134

そして「いっくん」「いの字」「いー兄」「いーの」「いのすけ」など、諸々のニックネームに通底している【い】の文字。

あのつぎにくるじ。
つまり「“あ”の次にくる字」。
────

これで萩原子荻の設問から聞き出された名前のヒント、そのすべての条件を満たしています。

以上のことから、いーちゃんは名前当てクイズにおいて「あのつぎにくるじ」という偽の文章を解答として、あくまで本名は隠していた。
という結論が妥当なのではないか?と予想します。

つまり「いーちゃんは萩原子荻に対して本名を教える気はなかった」という推論です。
現に彼は作中において、下記のような会話を行っています。

「ふん。なるほど。それでは最後の質問です。《あ》を《1》、《い》を《2》、《う》を《3》……そして《ん》を《46》として、あなたの名前を数字に置き換えます。その総和は?」
 詰まされたって感じだった。頭の回転が速い。
「134だ」
「変わったお名前ですね」
 子荻ちゃんはおかしそうに笑った。
「さあね、案外偽名かもしれないよ。ぼくは今まで他人に本名を教えたことが一度しかないのを誇りに思っているくらいだからね」
「そうなんですか?」
「ああ。それに、多分きみが思ってるので正解だろうけれど、その名でぼくを呼ばない方がいい。今までぼくを本名で呼んだ人間が三人いるけど、生きている奴は誰もいない」

『クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子』
講談社文庫


「詰まされたって感じだった。」という文言。
この文章から、「子荻ちゃんに答えがバレた」という意味合いが汲み取れることに異論はないと思われますが、
“「本名がバレた」とは言ってない ” のではないでしょうか。

それに「他人に本名を教えたことが一度しかない」「今までぼくを本名で呼んだ人間が三人いるけど、生きている奴は誰もいない」
これら台詞が本当なら、たとえ激難クイズといえども、萩原子荻にそう易々と名前のヒントを伝えるような真似はしないと思うのです。


結局名前は?


では、結局「いーちゃん」というニックネームの由来は【井伊ちゃん】なのか問題について。

戯言遣いの本名を考える上で、読者は必ずやこの壁にぶち当たるわけですが。
個人的には「井伊ちゃん」でもいいと思います。

しかし、作者である西尾維新はザレゴトディクショナルの【井伊遥奈】の項で、

 戯言遣いの妹。
 ただ、この名前は嘘かもしれない。
『いーちゃん』が『井伊ちゃん』だとは限らないように。
妹が実在するのは、確かなようだけれど。

『ザレゴトディクショナル 戯言シリーズ用語辞典』
講談社ノベルス

…………このように語っています。


うおおおお意味がわからねえ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんで井伊ちゃんの可能性がバッサリ否定されてんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

……ただ、兎吊木垓輔というキャラのニックネームが「さっちゃん」だったり、式岸軋騎が「ぐっちゃん」だったりするような作品ですので、そういった形で変則的なところからニックネームが生まれているのかもしれません。


というわけで……予想を発表しますと、

ズバリ いーちゃんの本名は
鷹槊直人(たかほこ・なおびと)』ではないか。

これが今回の仮説です。



玖渚機関との関係


まずは、下の名前「直人(なおびと)」について。

「直」の字は、直木三銃士玖渚直を参考にした推測です。

人間シリーズ「零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係」において、玖渚直が自らのボディガードを雇う際に『自分の名前との関連性』から直木三銃士というプレイヤーを選んだという話。
玖渚直というキャラクターが既にいるものの…………いるからこその選出です。

いーちゃんと玖渚機関の関係性は深い謎に包まれていますが、おそらくいーちゃんが玖渚機関にスカウトされた際にその辺りの名前が絡んでいたのではないでしょうかという妄想


さらに「人」の字は、あの零崎人識から1文字頂戴する形になりました。

そうした理由で「直人(なおびと)」という熟語を当て嵌めた、ストレートな予想です。

鴉の濡れ羽島にいた天才達や、玖渚友に対する劣等感を抱いていたいーちゃんの名前が「平凡」を現すものだったなら?
そんな可能性があってもおかしくないのでは……といった意味も含めた候補「直人」です。


哀川潤との関係


当初、いーちゃんの本名を考える上で私は絶対に戯言遣いと読む名前なんだろうなーと思っていました。

が、

(自然な名前で)戯言遣いと読ませるのはかなり難しいです。

いーちゃんの本名を『戯言遣い』と読ませるためには【戯言】という単語が……重い!!!!!!!!!!!!!
加えて【遣い】の要素まで本名に含めようと思えば、もう名前っぽい名前を考えるのが至難の業。

そもそも、ネコソギラジカル(下)で玖渚の口から語られた「みっちゃんがはじめに戯言遣いと呼んだ(読んだ)」という辺りの前後のニュアンスからして、【戯言遣い】というニックネームがそのまま思い浮かぶような名前になっているとは考えにくいと結論付けました。

……でも、やはり諦めきれなかった。
戯言遣いと読めなかったとしても、ちょっとしたニュアンスを残したい。

そこで出てくるのが【】です。
「戯」の部首として使われている漢字。

この【戈】という漢字、【とも】という読み方(名乗り訓)があるらしいのです。

「ともって……玖渚友のともじゃん!」と閃いた私は、なんとかして◯◯戈◯みたいな名前を考えて考えて最終的に諦めつつ、適当に開いた広辞苑で鷹槊という熟語を見つけました。



戯の部首である「戈構(ほこがまえ)」。
そして鷹槊(たかほこ)。

ここで玖渚盾の『誇らしき盾』と繋がりが生まれます。


矛らしき盾。

矛盾を高らかに名乗る彼女。
「パパの尊敬する人物の、哀川“潤”の読み」という由来に加えて、戈と盾の対比。
そして戯言遣いの苗字が鷹槊なのであれば、《砂漠の鷹》と呼ばれる哀川さんから名前を拝借するのも頷けるのではないでしょうか



たかほこ なおびと=誇り高い一般人

フルネームで読むと、戯言遣いに相応しいような、あるいは皮肉のような意味にも取れる名前。




ちなみに「たかほこ」という言葉……実は「鷹架」とも書き、この場合は実在する地名にもなります。
(予測変換だとそっちが出てくる)

鷹架という文字列だと……砂漠の鷹・哀川潤と永久欠番・架城明楽が揃った苗字になってしまうので、どちらかといえば鷹槊の方ではないかと予想。

そして苗字が鷹槊だった場合、ここに含まれる「朔」という部分から
「朔=ついたち=1日」で、いーちゃん。

という読み方をすることができます。



そして【鷹】という漢字。これを書き順通りに書くと、
途中でこのような状態が出来上がります。

鷹を7画目まで書いた図


見ての通り、隹(ふるとり)から人偏のような途中式が抜き出されることで
「イイ」という文字列が浮かび上がるのです。

そもそも、戯言遣いである「ぼく」と玖渚友が出会った頃、二人はかなり幼い年齢だったはず。

「うん? いや、ああ見えても玖渚は十九歳なんだから、十六歳のきみががき呼ばわりはおかしいと思ってね。女ってのは確かに当たってるけど、少なくともきみに較べれば玖渚はがきじゃない」

『サイコロジカル(上) 兎吊木垓輔の戯言殺し』
講談社文庫

 そして思い出す。
 昔のこと。
 あの頃のこと。
 五年前。
 五年前か……。
《いーちゃん》。
 あの頃から玖渚は、ぼくをそんな風に、なれなれしく呼んでいたけれど……。

『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』
講談社文庫

 ──いつだったか。
 姫ちゃんを、玖渚に見立てたことがあった。
 六年前、玖渚を助けられなかった分を──姫ちゃんを助けることで、埋め合わせをしようとしたことがあった。

『ネコソギラジカル(下) 青色サヴァンと戯言遣い』
講談社文庫

これらの情報を信じるなら……玖渚友が大体13、14歳の頃、既に戯言遣いは「いーちゃん」と呼ばれています。

そして、戯言遣いが玖渚友と出逢ったそれ以前に亡くなっている井伊遥奈
(こちらの情報は公式ファンブック「西尾維新クロニクル」に年表として記載されている)

彼女も戯言遣いのことを《いーちゃん》と呼んでいた。

《いーちゃん》。
 なんでもないことのようだが──異常だ。
 何故なら、ぼくは先月、狐面の男との会話の中で──そして、出夢くんや理澄ちゃん、木賀峰助教授や朽葉ちゃんの前ですら、そんなニックネーム、呼ばれたことも名乗ったこともないからだ。
 ぼくをその名で呼ぶ存在は、後にも先にもただ三人──三人だけ。
 かつて死んでしまったぼくの妹と。
 もういなくなってしまった親友と。
 そして──
 玖渚友しかいない。

『ネコソギラジカル(上) 十三階段』
講談社文庫


こうなると井伊遥奈が《いーちゃん》というニックネームを使用していたのは、ほぼ小学生と言えるような年代になるはず。
そんな年齢で先程のような「朔」から《いーちゃん》というニックネームを考えるかといえば、若干無理を感じます。

しかしこちらのパターンならば、遥奈ちゃんが戯言遣いの名前を漢字で覚える過程で、先程の説よりも自然にニックネームが生まれるのではないかと考えました。

なので、これこそが《いーちゃん》というニックネームの由来なのではないかと類推します。


まあ真偽は別としても……これで少しは「鷹」という漢字が使われている仮説の補強になったのではないでしょうか。


零崎人識との関係


ところで、零崎人識の「識」の字に「戈」が含まれていることに皆様お気付きでしょうか。

ここからは槊という漢字から、上で挙げた「識と戈」以上に零崎人識との関連性を見出してみます。ただし割と強引。


まず零崎人識(ぜろざき・ひとしき)という名前は
いーちゃん→1ちゃん
    0→零崎
「1に等しき0」という由来から名付けられたとザレゴトディクショナル内(零崎人識の項)に記載されています。

そして……ここで私は、
刀語 第三話のタイトル「千刀・鎩」という形で漢検配当外の漢字を見せつけてきた
西尾維新の漢字力を信じて、この漢字を引用させて頂きます。


それは「侔」という漢字です。

この漢字には「侔しい」と送り仮名を振ることで、「ひとしい」と読む用例があります。

等しいという言葉にも様々な種類があるように、【ほこ】という単語も同様に多数のラインナップが存在しています。

その中にある「鉾」という、漢検準1級に配当されているこの漢字。

それを「鷹槊直人」の槊と入れ替えて横書きで見ると、

  鷹  鉾  直  人

「鷹」の中にある人偏、「鉾」の旁の部分を合わせて「侔」の文字が入っていることが伺えます。
これが零崎人識と戯言遣いの相似性を現しているのではないでしょうか。



(いやあ……流石に穿ち過ぎか…………)


最後にいろいろ


ラストは語り残したことの書き連ねになります。

ところで「直」と「盾」って構成が似てるよね。



最後に語っておくこととして、『じゃあ戯言遣いの苗字は「井伊」じゃないの?』という疑問があります。
なんなら「井伊直人」とかの方がそれっぽい気もする。


「クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識」に登場した大学メンバー四人の苗字(江本、葵井、貴宮、宇佐美)がすべて「ア行」で統一されていることから、いーちゃんの苗字も同じくア行で始まるのではないかという推測が、考察サイトにて俎上に載せられていました。(なんでそんなことに気付けるんだよパート2)

無論、この情報を鑑みれば「井伊苗字説」の説得力はグンと上昇するわけですが…………この点については情報が少なすぎるため、なおかつブラフの可能性がありますので、議論のしようがないのではないかとも思います。




そして、「鷹」の中に「イイ」が入っている話に追加として。
今回の説で取り上げた「鷹槊」という熟語。
こちらの「槊」の方にも「イイ」が入っています。

「どこをどう見ても入ってないだろ!」という意見はごもっともですが、その前にこの漢字の訓読みに注目して頂きたい。

訓読み「ほこ」に加えて「すごろく」という読みがこの漢字には存在します。

すごろく。

漢字で書くと、『双六』。

更にそれを旧字で書くと……『雙六』。



おわかりいただけましたか……?

隹(ふるとり)がふたつありますね。


…………しかしこちらの漢字だと、「鷹」の時のように書き順通りに書いて綺麗に「イイ」を抜き出すことはできませんし、完全な連想ゲームですので、あくまでオマケの解説(うがちすぎ)。



あと何か言っておくことあったかな…………


あ、そういえば「止戈為武」って四字熟語と『無為式』が関係あったら面白いなーという妄想をしていた。



と、他にも何個かこじつけられる要素はあるんですが………………無名キャラクターの本名予想は何とでも言えますからね。
作中に出てきた苗字を使わなかった今回は、特にそれが顕著だったと思います。



そんな感じで。

今回は戯言遣いの名前を考えるというよりも、「鷹槊直人」という名前がいーちゃんであることの熱弁みたいになりましたね。
基本的な作中のヒントを無視する形になりましたが、ひとつの予想としてここに挙げさせて頂きました。
最新刊が発売されたこの頃──皆様も戯言シリーズを読み返してみてはいかがでしょうか。



それでは、また縁があれば。




P.S.

ちなみに、
「首」と書いて「おびと」とも読む。

戯言だけどね。




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