ブラックウィドウ
MARVEL映画の、テクノロジーへの無関心。
つるっつるの流線パイパン戦闘機が登場し、レーザー銃がピュンピュン光線を吐き出してしまう恥ずかしい画面。現在と全く地続きでない、全年齢向けの肉のえぐれない兵器達に飽き飽きしている人間はいませんか。
そんな人間は必ずブラックウィドウを見ましょう。垂涎ものです。
そしてこの映画はかなり笑えるコメディでもあります。
一人の少女が暖かな逆光の中、笑いながら姉を追っている。
転んでしまった彼女に姉は寄り添い、母は魔法の言葉を与える。
「痛みは人を強くする。」
豊かな自然、暖かな家族、そして愛情に囲まれた彼女。しかし、姉はどこか俯瞰でそれらを眺めていた。
舞台は90年代オハイオ。10歳のナターシャロマノフは、父アレクセイ、母メリーナ、妹のエレーナと幸せに、しかし偽りの家族である彼らと暮らしていた。彼女らはソ連から米国に遣わされたスパイであり、家族はカモフラージュのための活動単位だったのである。
オハイオでの諜報を終え、一家は社会主義の息のかかったキューバに亡命する。ソ連のスパイ養成機関レッドルームの長、ドレイコフは泣き叫ぶナターシャ、幼さゆえ事態を理解できないエレーナを引きはがし、一家は離散。
彼女らは再びレッドルームに教育され、家族として会うことは二度とないだろう。舞台は90年代、まだ世界は二つの巨大なイデオロギーを根拠に対立していたのだ。
時は流れ現代。冷戦がとっくに終わりを告げたいま、ナターシャとエレーナは再会する。
潰したはずのレッドルームは存在し、ドレイコフは健在であること。強烈な洗脳を用いて今も多くの少女をスパイに仕立て、支配していること。そして今の今までエレーナも洗脳下にあったことを聞かされたナターシャは、今度こそレッドルームを完全に潰すことを決意する。
そして、そのために離散した一家を再び招集することを、、、
いやー、良かったです。デビッドハーバー最高!
MARVELやしとりあえず行くか!と映画館に行き、F列の17席という糞座席から猛烈にパースのかかったスクリーンを眺める。そんな状況でもこの映画は面白かったです。
愛に飢えた魔界の王子ヘルボーイ。歪な、それゆえに美しい奇妙な親子愛を描いたストレンジャーシングス。そして今作でもデビッドハーバーは愛を求めるおっさんです。
戦時に投獄され、20年を経てナターシャらの協力のもと脱獄した彼は、全くモダナイズされていないかつての思考で娘に接します。
「お前たちは立派に育った!その手は多くの血にまみれている!」
実に可愛いじゃないですかー(何が?)
人間を殺し、敵性国家の侵略が絶対の肯定である彼の発言に、ナターシャ エレーナは当然総スカン。臭いから近づくなと言い捨てられ、ヘリの限界高度から突き落とそうと画策されるおっさん。
おっさんが若い娘に雑に扱われるシーンってよくないですか?ジェネレーションギャップにうろたえる、禿げ上がった無邪気な巨体のおっさん。ほらね?(何が?)
あとエレーナ役のフローレンスピュー、非常に可愛いです。タイプです。キックアスのクロエモレッツをそのまま成長させたみたいな。本家がアレなだけに歴史のifを見てる感じもうれしいです。
ちなみにこの映画、めちゃくちゃB級な感じもいいんですよね。MARVELの巨大予算によるロケ撮影、グリーンスクリーンの多用に目が行きがちかもしれないけど、内容は恐ろしくボンクラです。
ソ連残党のいかれポンチが、完全な全体主義を体現する洗脳技術を使って世界各地にスパイ派兵。掌握!天空の城(爆笑)から世界を牛耳ってやるぜーという恐ろしいほどのB級。最高です。
B級といえばですが、ブダペストのカーチェイスでアニメのヨルムンガンドを思い出したのは僕だけでしょうか。僕にはレゲフLMGで海面を撫切りにする機械仕掛けの音楽が聞こえてきたのですが。
まぁ、ヨルムンガンドは僕の願望が生んだ幻でしょうが、ラピュタをはじめ攻殻機動隊、スターウォーズからの明らかな引用から分かるよう、これは肩ひじ張ってみる映画じゃないです。
この映画をマンスプレイニングみたいなフェミニズムや米ソ冷戦の政治的闘争にひきつけて語る批評家がほとんど(未来予知)だと思うんですけど、たぶんそんな映画ではないと思うんですよね。
もっと純粋にエンタメのやつです。
じゃーこの映画の見どころはどこなんだ。お前が一番楽しんだのはどこだ?ということで
ぶっちゃけ、僕がこの映画で一番面白かったのは中盤のご飯です。
体操選手ばりに車両が宙を舞い、派手な爆発、雪崩、アクション(暴力は控えめ)のオンパレードな、相変わらず凄まじいMARVEL作品ですが脚本的な要所、そして個人的なツボは意外とご飯食ってるシーンでした。
登場人物のすべての経歴、行動、関係が集約した濃密な一家団欒の食卓シーン。
自身の研究が娘の洗脳に直結し、自由を剥奪していることに無自覚な母親。
ドレイコフの娘を爆殺した事で、母親を取り巻く環境を激変させたナターシャ。
3年間のオハイオでのミッションは退屈だったと言い、空気を破壊するアレクセイ。
そしてそれら全てから不利益を被るエレーナ。
これら全てが食卓で明かされ、ポテトサラダを肴にがばがばウオッカを煽りながらコメディチックに進行する修羅場の独特の雰囲気。これがめっちゃ良いんですねー。
なんか映画って、それが面白い面白くないに関わらず妙に印象に残るシーンがあるんですよね。「糸」のカツ丼とか。
パッと頭に浮かぶのはご飯食ってるシーンばっかです。なんでなんでしょうか。体重の増加との奇妙な相関を感じます。ご飯好きのデブは映画館に走れ!
Twitterを見た感じマーベルファンからの賛否が割れている感じですが、個人的にツボです。マーベル知らない人が見ても絶対面白い、ウェルメイドな傑作なので入門にいいんじゃないでしょうか。
ちなみに僕はソコヴィア協定が何かをずっと思い出せず、劇中ずっとモヤモヤしていました。そんくらいの人間が見ても十分面白いのです。見に行きましょう。
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