星になった少年
街灯がまばらにあたりを照らし、凍った路面に反射する。
コートの隙間から吹き込む風が、首筋から胸、腹までを冷やし身震いした。
凍えるような。とはまさにこんな日を形容した言葉なんだろうなぁ。と一人ごちる。
______近くの商業施設でのバイトを終えた僕は、体を芯から冷やしながら帰路についていた。家まではおよそ1.5キロ。いくら寒くても歩いて帰れる距離だ。そう思っていた。
歩き始めて五分。僕は股間に違和感を覚えていた。
男性諸氏には理解できるであろう。寒さによる金玉の収縮である。
正確に言うならば、金玉袋の収縮になる。
普段は八畳一間に鎮座し、ちんちんと適度な距離感を保つ金玉たちは現在、二畳の独居房に押し込められたような窮屈な環境に置かれていた。
「「俺たちをここから出せー!」」
そんな彼らの叫びが、金玉の主である僕に届く。
「もう少しの辛抱だ。帰ったらすぐに風呂であっためてやるからな。」
またしても一人ごちる。
それにしても寒い。
延々と似たような街灯が連続する。
おかしい。
金玉たちからの返答がなくなった。
いつもはあんなに気さくなあいつらが、、、いったいどうしたんだ、、
その刹那、感じたことのない激痛が僕を襲った。
余りの痛みに全身が弛緩し、崩れ落ちる。自分のものと思えないうめき声が口から洩れ、額に脂汗がにじんだ。
鮮血がみるみる地面を覆い、顔にまで届いたところで僕はようやく事態を理解した。
ない。
金玉がない。
その直後、僕は星になった。
____________________寒さによる収縮を続けた金玉は“僕”との会話の直後に圧壊していた。
そして、なおも収縮し続けた金玉は内部で核融合反応を起こしていた。
金玉袋がもたらす無限の圧力により、まず金玉内のヘリウムが核融合反応を起こした。金玉は大量の熱と中性子を放出。この時点で僕の肉体は壊死炭化し、意識も失われた。
その後窒素、酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素と順に核融合反応を起こし、最終的にぼくの金玉は鉄を生成した。
そして一連の反応の終息とともに、核融合の放射による金玉の膨張と、金玉袋の圧縮の平衡が崩れ、金玉は爆縮を起こす。
光速の23%で中心に向かって収縮した金玉は1000憶ケルビンにまで加熱。逆ベータ崩壊によって中性子とニュートリノが生じ、10秒間の爆発で約10の46乗Jのエネルギーが放出された。
崩壊は中性子縮退によって止まり、反動で外向きの爆発が起こる。
つまり、衝撃波による爆発である。
金玉を中心に幾層もの空気が折り重なり、物理的な力を持って膨張する。
街灯が木っ端のように空を舞い、フルーツの皮のようにアスファルトがめくれ上がる。
金玉の周囲はバラバラに崩壊し、脱出速度以上に加速され、ミクロな規模での超新星爆発が発生した。
こうして超新星爆発を起こした僕は、僕の金玉は中性子星になった。
なんか星新一みたいなやつが書きたかった。