女風つれづれ話「寄り道」優子
名前は優子、両親は名前のごとく優しい人になってほしい気持ちで名付けたと聞いている。優しい言葉を掛けること、人に対して優しく接することしかできない。そういえば聞こえがいいが人間関係の不調を生む原因になりたくなだけ。
28歳の誕生日に出会った運命と思える人、浩二と結婚したが、いいなりになることで私はモラハラの被害者となった。
「こんなこともできないのか」
たわいもないフレーズも毎日聞くと自分が何のために生きているのかわからなくなってくる。
ある日の朝、目が覚めるも体が動かない。それでも起き上がろうとした瞬間、見慣れた景色が暗闇に包まれた。
薄目を開ける。
眩しい…
白衣を纏った白髪でメガネの男性がいる。病院だ。
原因は過労ではなく、極度のストレス症状だった。
2か月休職して3か月後の8月、3年半の結婚生活を終えた。
仕事と自宅アパートの往復の毎日、両親は優しく「戻ってきてもいいんだよ」と言ってくれたがみっともないと感じで断った。
育児はわからないが、家事は嫌いではない。
仕事もお給料も特段問題ない。
「私なんかこのまま一人でいいんだよね」
最近、毎晩自身で確認している。
ケンジは38歳のセラピスト。と言っても心理カウンセラーではない。ケンジは女性用風俗のキャストいわゆる風俗嬢の男版だ。
「ユウコは優しいよね。優しい子はいろんなことを我慢してるから本当は強い子なんだ。」
「だから、ボクが癒してあげる。」
初めて会った時から好きになった。
まさか自分がこんなとこ利用するとは思わなかった。軽い気持ちにちょっとだけ男の温もりが欲しかっただけだった。
ケンジとはいつでも会える。
違うのは予約とお金が必要なこと。
最初は理解してたけど、ケンジの屈託のない笑顔を見ると思考が一瞬止まる。そこで抱きしめられてキスされると脳みそがとろける。好きが止まらなくなった。
タバコ吸わないしお酒も付き合い程度でどちらかというと酔った醜態は嫌悪に感じる。依存するものそして依存してる人は大嫌いだった。
だけど今はケンジのことしか考えれない。ケンジに会いたくてたまらない。
ケンジに依存している。
初めのころは月に1、2回会えればいっか
ってぐらいだったけど会えない間がつらい。その原因はわかっている。ケンジが他の客と会ってるから。
「仕事だからね。」
「ユウコはボクの特別だよ」
ケンジの言葉。
私と同じことみんなに言ってるの?
特別扱いは私だけなの?
私の疑念
頭の中がパンクする。
会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい
この4文字だけがループする
これを解消するには、”会う”しかなくなった。
一年が経った。
「オレ、女風辞めるからこれからいつでも優子と会えるよ。」
何かが引っかかった。
ケンジって誰?
ケンジってなに?
男?
本当の名前なの?
おかしいな?貯金が減ってる。
この男にあげたの?
記憶が薄いが、露草色の静寂を取り戻す。
鏡で見る自分は私。
早く化粧をしないと電車に間に合わない。
ナチュラルメイクだけど、それなりに時間がかかる。
よしっ。こんなもんか。
いつもの朝。
いつもの電車で職場に向かう。
何も変わってない。
変わったのは、テーブルの隅にくすぶる口紅付きの数本のタバコが慌ただしくガラスの灰皿に舞っている以外は。
たった一年の長い「寄り道」だった。
了
あくまでボクが持つイメージと人生観からのフィクションです。実在の人物は存在しません。