やりたいことがあったら「まずはやってみる」がいいよね
「パステルを使って絵を描かれたことはありますか?」
似顔絵師として、イベントに来場された親子の輪郭を色紙に写している時だった。まだ幼い息子さんを膝に抱えたお父様から訊かれた。
パステル と聞いて、ふと見かけた街の作品展に掲げてあるパステル画の、なんともホンワカしたイメージが頭に浮かぶ。
失礼な話だが、目の前に座られている香ばしく焼けた肌にゴツゴツとした顎鬚、ツーブロックが入った髪型の、正に「男らしい」の象徴のようなお父様から、パステルについて訊かれて少し意外に感じた。
私は水彩を主として絵を描くため、パステルは使用したことが無い。
パステルは使ったことが無いんですよ〜、と答えると同時にその質問の意図を尋ねてみると、息子さんのお顔を眺めながら照れくさそうに答えてくれた。
「いやあ、息子の知育の為に幼児用のパステルを買ってあげたんだけどね。試しに僕が、自分が好きなふるさとの海の絵を描いてみたら、とても楽しくて。」
「もし似顔絵師さんがパステルも使えるのなら、絵の描き方を教えてもらおうと思ったんです。」
なるほど、と納得し。お子さんを見てみると、親子と私の間にあるテーブルの上に置かれている色とりどりの絵具達をじっと見つめていた。触れてみたいのか絵の具に手を伸ばしてみるが、お父様から阻止される。
絵の描き方を教えるとなると、基本はデッサンから!とかそういった話になるが、そういった堅苦しい話は野暮かもしれない。
せっかく親子で絵に興味を持ってもらったのだから、思いのままの絵を描いて欲しいなと思った。
「描き方なんてありませんよ。好きなものを、感じたままに、思い切り描ければ、それだけで100点満点です。」
そう答えると、お父様がにっこり笑ってくれた。
雨続きの毎日が明けたら、親子でパステルを握って描くんだろうな。
夏空の下で、広大な海の絵を。
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