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鳴子温泉でこけしの底力を見た話
私にとってのこけしと言えば、おばあちゃんちの玄関にある、妙に気味の悪い表情をした置物であった。
薄目の表情が、幼少期の私には、どこからともない監視の視線のように感じられて恐ろしく、なるべく目線が合わないようにしていた記憶がある。
また、同じような表情をした日本画調の人物画も家の中に飾られていて、その表情も記憶の片隅に、恐怖に近いものとしてハッキリと残っている。
さて、こけしは鳴子温泉郷が発祥の地で、東北地方を主として、各地に微妙な流派の違いを持って栄えてきたようだ。
表情や本体の形状、装飾などが各地ごとに異なっている。
諸説あるようだが、子どもの玩具として始まり、昭和期に?お土産物としての繁栄を誇った。
伝統工芸品全般がそのようであるが、現在は産業規模が縮小し、後継者も少なくなっているようだ。
実際、工房を覗いてみても人気は少なく、職人さんたちはどうやって生計を立てているのか気になってしまった。
鳴子温泉郷は、温泉番付において東の横綱とも言われるほど、豊富な湯量と多様な泉質で、温泉ファンを虜にしている地域である。
その中の1つ、川渡温泉をぷらぷら散歩していると、菜の花畑や桜並木があり、待ちに待った春の訪れを楽しむ人たちで賑わっていた。
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出店や音楽バンドの演奏が、お祭りに華を添えている。
通りかかった橋の欄干や、切り株などに小さなこけしが置かれているのを見つけ、展示のアピールも無しに置いてあるなんて粋な計らいだな、と感心する。
通りがかりに、ささやかながら賑わいのあるカフェを見つける。
小綺麗な店内に、無数のこけしがそこかしこにいらっしゃる。
こけしたちは一部に固まってドン、とあるのではなく、店内中に散りばめられている。
花瓶になるこけし、電球になるこけし、トイレの隅にいるこけし、地球儀になるこけし…
こけしが全てに成っている!
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机にはこけしの絵本が置かれていたので、暇つぶしに手にとってみる。
なんとも言えない手作りの良さが出た、味のある絵と、地元の人でないと書けない鳴子の歴史・文化・風景を絡めたストーリー、そしてディテールに意匠が凝らしてある。
聞けば、夫婦で制作されていて、ストーリー担当の旦那さんの構想がまとまったら、奥さんが絵をつけていく2人3脚スタイル。
現在1〜7巻が自費出版で出されていて、カフェで各巻を読むことができ、購入することもできる。
この絵本が、べらぼうに面白い。
私(たち)は大層気に入ってしまい、1〜7巻をあっという間に読破した上、何冊かをお土産に購入した。
旦那さんは、元々全く別の仕事をしていたのだが、木工制作を趣味でやっていて、趣味が高じて前衛的なこけし作品を生み出すに至ったようだ。
道端で見かけた小さなこけしたちも、実はここのご主人の仕掛けであった。
作品のなかで特に感心したのは、カフェのトイレの隅で見つけたこけしで、以下のようなものである。
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通常のこけしが1/4にカットされており、ありとあらゆる角にフィットするようになっている!
通常で言えば1つ分のこけしから、4つが生み出され、更に置ける場所が圧倒的に増えるこの製品の発想、天才である。
持ち歩いていると、どこにでも置いてみたくなってどこかに忘れる危険性が高まるので、家に持ち帰ってから置きまくることをおすすめしたい。
いわゆる伝統的なタイプのこけしは悲しいかな、時代の流れとともに存亡の危機に陥ってしまっているが、こうした新たな発想と伴にこけしは新時代を迎え、更なる繁栄の日が近いかもしれない。
そうした大きな可能性を感じた鳴子温泉のこけしであった。
他にも意匠を凝らしたオリジナル製品が販売されているので、ぜひ現地を訪れて、絵本を読んでから目の当たりにしていただきたい。
本を読んだ人にしかわからない小ネタが入ったTシャツなんか、めちゃくちゃ欲しくなるから!