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2024年6月度のSES業界 by TSUMUGU
前半戦終了
こんにちは。TSUMUGUの中の人です(TSUMUGUについてはこちらをご覧ください)。早いものでもう半分が過ぎてしまいました。今年は梅雨入りが随分と遅く、関東ではようやく雨の多い日が増えてきたなあという印象です。「なくしたらどうしよう」「なくしたら嫌だなあ」と無駄にどきどきしてしまうから傘を持ち歩くのは好きではないのですが、雨がなければないで作物への影響が心配ですよね。季節はその季節らしくあるのがなんとなく落ち着きます。
さて、前置きはともかく、6月も締まったことですし早速6月の業界情報を分析してみることにしましょう。
2024年6月の業界動向
分析対象数
分析対象案件数:1767
分析対象人材数:1626
案件要求スキルトップ40
案件情報に記載されているスキルを多いものから順に40個並べたグラフがこちらになります。言語ではJava, C, PHP, JavaScript,C#,Pythonあたりが多い。
一方、インフラ系はAWS, Linux, SQL, Oracle, Azureあたりの言及数が多い。
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案件要求スキル 時系列遷移
3ヶ月間の案件要求スキルのランキングを時系列で表したものが以下のグラフになります。上がプログラミング言語、下がインフラ技術です。両者を合わせてランキングを出した後に抽出しているので、絶対的な順位変動よりも技術間の相対順位の変動(線のクロス)を見てもらえればと思います。
3ヶ月程度ですとあまり目立った変動はなく、人気の技術は人気のままという傾向が見られます。
その中でも、プログラミング言語ではVBA、C++あたりはある程度月による変動がみられます。また、Vue.js、VBあたりはやや下降、Reactはやや上昇の傾向があるのかな、という感じですね。VueとReactはどちらもJavaScriptのフレームワークです。その特性から用途も若干異なるとは思いますが、トレードオフの傾向があるのかもしれません。
インフラの方は言語以上に安定しているように見えます。強いて言うならSQL Serverに上昇傾向が見られます。AWSやGCPなどクラウドへの移行案件が増えていることから、移行にあたってオンプレ技術の需要が増えているのかもしれません。
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要員提案スキルトップ40
続いて、要員の提案スキルのトップ40です。言語では、Java, C, JavaScript, HTML, VBA, CSS、PHP。インフラではSQL, Linux, Oracle, MySQL、AWS、PostgreSQLあたりのスキルが多く出ています。
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要員スキル 時系列遷移
案件と同じく、3ヶ月間の要員スキルのランキングを時系列で表したものが以下のグラフになります。特段注目すべき大きな変動はまだ見られないかなあという印象です。
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需給差について
続いて、需給差です。案件が要求するスキルに対して、人材のスキルがどれだけ充足しているのかということについて、スキル数(案件) / スキル数(人材) の比を算出し、これを需給差と呼んでいます。1を超えていれば案件の方が多く(案件余り)、1を下回っていれば人材の方が多い(人余り)状況を示します。
先月と同様にほとんど1を下回っています。Kotlinが唯一、1を超えています。続いてGCP,Lambda,React,AWSあたりは、下回っているものの他のスキルと比べるとバランスが取れています。ただ、要員誰もが希望する現場に入れるという状況からはほど遠い状況が続いています。
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レベル(単価)別需給状況(全体)
次に、単価の観点で見ていきます。単価は案件あるいは要員のレベルをある程度反映しているものと考えられます。案件と要員の需給のギャップの詳細を検討するために、単価の分布を比較してみます。
まずはすべてのスキルを含んだ全体を下のグラフに示しています。1枚目が案件、2枚目が要員、そして3枚目が両者を重ね合わせたものです。
案件の平均は70.76万円、要員の平均は68.97万円と大きな違いはなく、そしてどちらも右に裾の長い分布をしています。とてもよく似ていますが、重ね合わせると、要員の方の重心が少し左にずれていることがわかります。このずれは、案件が求めるレベルと、要員が提供しているレベルに乖離があることを示しています。
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単価の分布を時系列で示したものが下のグラフです。すべての月で案件と要員の平均単価には差がみられています。これらの差をそれぞれt検定にかけてみても、すべての月で有意差(p<.01)が出ています。
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レベル(単価)別需給状況(スキル別)
Java
続いて、スキル別に分布を確認していきましょう。まずはJavaから。2024年6月の案件平均が70.31万、要員平均が69.63万とかなり近い値です。統計的にも有意ではありません。分布はほとんど同じと見ていいのですが、要員のボリュームがかなり多くなっております。レベルの需給は合っているのですが、要員が過剰気味ということがわかります。
また同様の傾向は3ヶ月間にわたって見られます。要員を求める側としては、必要な要員はすぐに揃うという環境がJavaに関しては整っている状態です。
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PHP
次にPHPを見てみましょう。2024年6月の案件平均が70.80万、要員平均が68.35万です。t検定のp値は0.089で、10%水準での有意差が見られます。3ヶ月の推移でみると、両者の差が少し狭まってきているようにも見えます。差の減少がトレンドなのかどうなのかはもう少し遷移をみていく必要がありますが、注目すべきポイントです。
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React
次にReactです。Reactは、単金60万以上の案件は空きが見られる一方で、単金60万未満の要員がかなり余っている状況です。案件平均の推移を見ると、前月から少し上昇(73.38→75.14)しています。この差は有意ではないのですが、今後もトレンドとして続くのであれば、求められるレベルが上昇していると考えられます。
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AWS
続いてインフラ、AWSを見てみましょう。6月の平均値は案件76.29万、人材72.07万と統計的に有意な差が見られます。分布のグラフを見ても、初級余りが起こっているのがわかります。時系列で見ると、4月はほとんど単金差が見られなかったのに対して、5月、6月と差が出てきているようにも見えます。エンジニアの4月と5月に平均単価の減少があり、これが統計的に有意です。この減少の原因にはいくつかあるとは思いますが、クラウド人気を背景に、新年度を迎えて数多くのクラウド指向の新人エンジニアが登場したということもありそうです。
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Azure
同様のクラウド基盤であるAzureも見てみましょう。6月の分布を見てみると、平均値だけでいくと案件と要員にほとんど差がないように見えるのですが、分布をみると初級余りの傾向が見られます。おそらく、一部の単価の高い要員が平均値を上げているためであると思われます。
そして3ヶ月推移で見ると、こちらも4月から5月にかけて要員の単価が減少しているように見えます。実際に統計的に有意な差がみられており、先ほどのAWSと同様、新人エンジニアの大量投入ということが原因の一つとして考えられそうです。
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外国籍受入状況
最後に、外国籍の受入状況についての分析結果です。分析対象は案件情報で、案件情報の中に明確に
・外国籍可
・外国籍不可
のように主張しているものはそれぞれ「OK」「NG」とし、特に明確な記述がないものについては「不明」とカウントして集計したグラフが以下です。
OKとNGの平均比率は0.093で、引き続き外国籍エンジニアには厳しい状況が続いています。
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最後に
以上、6月のSES業界情報と、3ヶ月間の推移について見てきました。単月単位で見ると、先月と大きな違いはないものの、時系列で見たときに一部スキルでエンジニア平均単価減少などの動きが観測されました。この減少の原因について考察を加えたりもしましたが、原因はともかく案件単価には目立った変化はないため、需給のレベル差は気になるところです。
レベル差を埋めるために、どのような取り組みをしていけばいいのか。これは業界全体で考える必要があるのかもしれませんね。
時系列データもぼちぼちたまってきたので、それはまた別途分析報告をさせていただこうかと思っております。
というわけでまた次回!